第7話 眼鏡の下の秘密
その夜、ワワワは紗良の自室に招かれていた。
パステルカラーで整えられた室内は、一見すれば可愛らしい女の子の部屋。だが、その一角には「ワワワ専用・健康管理コーナー『究極肉体管理』」があり、彼の体調や体型を記録した手書きのグラフが丁寧に貼られている。
そこまでは「幼馴染の献身」で済むのだが、問題はコーナーの真ん中だ。覚醒したワワワがブーメランパンツ一丁で、プロ顔負けのサイドチェストを決めている写真がデカデカと貼られている。
「紗良さん……この写真はちょっと……」
「はい、ワワワ。ちょっとじっとして。……眼鏡を外してちょうだい」
紗良の言葉に、ワワワは無駄な抵抗と悟り大人しく眼鏡を外した。
次の瞬間、重たいフレームに隠されていた、涼やかで端正な顔立ちが露わになる。少女漫画のヒーローのような、それでいてどこか放っておけない危うさを持つその美貌は、至近距離で見ると破壊力抜群だ。
「……ふぅ。やっぱり、こっちの方がずっといいわ」
紗良は少し顔を赤らめながら、ワワワの顔をまじまじと見つめた。彼女が彼にわざと古臭い「変装用のような眼鏡」をかけさせているのは、単なる独占欲だけではない。変な勘違い女からのトラブルに巻き込まれるのを防ぐための、彼女なりの「防壁」でもあったのだ。
「いい、ワワワ? 外では絶対にその眼鏡を外さないでね。あなたの魅力は、まだこの未熟な世界には毒が強すぎるの。私が許可するまでは、そのダサいレンズ越しに世界を見ていればいいの」
「でも、紗良……これ、度が合わなくてたまにフラフラするんだけど……」
「それは私が支えてあげるから大丈夫。……あなたは、私が見守ってあげないとダメなんだから」
紗良はそう言って、ワワワの髪を整えようとしたが、指が彼の額に触れた瞬間、「ひゃっ」と変な声を上げて飛び退いた。支配者を気取ってはいるが、その実、ワワワの美しさに一番当てられているのは彼女自身だった。
翌朝。
市役所の正面ロビーに、気合の入った装いの美月が現れた。隣には、相変わらず無機質な表情のテスト。
「テストのストーキング」
「ストーキングじゃないよ、テスト。私はただ、あの……和久井さんが、昨日のあとどうなったか気になって……」
美月は持ち前の明るいオーラを振りまきながら、窓口へと歩み寄る。
しかし、そこには昨日よりもさらにガードの固い紗良が、仁王立ちで待っていた。
「……あら。昨日の、趣味の悪い覗き見さんじゃない」
紗良は、背後で「ダサい眼鏡」をかけさせられ、猫背で書類を整理するワワワを隠すように一歩前に出る。
美月と紗良。
「みんなを元気に照らす、明るいひまわり」と「宝物を大切に隠しておきたい、鍵付きの宝石箱」。
正反対な二人の少女が、古びた市役所のロビーで、ワワワを巡る静かな火花を散らし始めていた。




