第14話 完食っ!!
……ゴ、ゴ、ゴクンッ……!
最後の一滴までスープを飲み干したワワワが、重厚な音を立ててどんぶりをカウンターに置いた。
静寂。
ラーメン店『餓狼』の中には、もはや紗良の呪詛も、美月の祈るような溜息もなかった。ただ、一仕事を終えた職人のような、濃密な満足感だけが漂っている。
ワワワはゆっくりと天を仰いだ。眼鏡を外したその素顔には、滴る汗と、禁断の脂を摂取した者だけが持つ、邪悪なまでの色気が宿っていた。
ワワワは、震える唇を開いた。
「……最高だ……」
その一言は、全世界に向けて放たれた勝利宣言のようだった。
「テストの伝説誕生」
テストのスマホ画面には、Pのチャンネルが開かれている。どうやって撮られたのかいつの間にか食事風景をライブ配信されており、既にライブ配信は終了しているが最大同時視聴者数が3万人を超えていたことが分かった。コメント欄は『完食!!』『神イケメン野獣降臨』といった文字で埋め尽くされていた。
「あ……あ、あ……ああああぁぁ……」
それを知った紗良は瞳からハイライトを完全消去し、白目をむいたままプシュ〜と魂」を吐き出した。そのままカウンターに前のめりに突っ伏し、微動だにしなくなってしまった。彼女が幼い頃から守り抜いた城壁が陥落してしまったのだ。
「和久井さん……」
美月が、おずおずと手を伸ばし、ワワワの頬に付いた一滴の脂を指先で拭った。
「……すごかったです。なんだか、私まで胸がいっぱいになっちゃって」
その瞬間、美月の中にあった「保護欲」は無自覚ではあるが、より強く、深い「独占欲」へと変質した。紗良から彼を奪い取りたい。この凄まじい生命力を、今度は自分の手で愛でたい。
「おやおや。三日月は満月へと姿を変え、新たな狼を呼び寄せたようだね……」
ニク課長がハンカチを噛み締めながら、美月の横顔を見てねっとりと微笑む。
店外では、Pが不敵な笑みを浮かべてその場を後にした。
「最高の素材だ、和久井 輪。……さて、次はどんな『バズ』を撮ろうか」
こうして、地下書庫からの脱走劇は、一人の男が神格化され、一人の女が廃人となり、一人の女がライバルとして目覚めるという、最高に「こってりな伝説」として幕を閉じたのである。




