表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姉と妹が国民的女優ですが、俺は機械をいじっていたい  作者: よんまるよん
第二部「世界が広がっている」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

77/158

春を告げる鐘 台本 Part4

S-31 放課後・商店街の裏路地 (5月末)

葵と茉莉、歩いている。

茉莉、路地の奥を覗く。

茉莉

「こっち行ったことある?」

「ない。行き止まりだと思って」

茉莉

「行ってみよう」

「行き止まりだよ」

茉莉

「行き止まりでもいい」

二人、路地に入る。

古い塀。植木鉢。猫が一匹、塀の上にいる。

突き当たり。やはり行き止まり。

茉莉、突き当たりの壁を見る。

茉莉

「いいね」

「何が」

茉莉

「誰も来ない感じ」

「来ないのは行き止まりだから」

茉莉

「それがいいんじゃない」

猫が鳴く。

茉莉、猫を見上げる。

猫、行ってしまう。

茉莉

「猫、いなくなった」

「どこかに用があったんでしょ」

茉莉

「猫に用ってあるの」

「知らない」

茉莉、笑う。

茉莉

「葵ちゃんって行ったことない場所ある?」

「この辺は大体知ってる」

茉莉

「じゃあ神社は? 鐘の音がする神社、この辺にあるって聞いた」

「……ある。小さい神社。子供の頃よく行った」

茉莉

「連れて行って」

「今日?」

茉莉

「今度の土曜日でいい」

「……分かった」


S-32 学校・屋上への非常階段 (別の日)

茉莉、手すりに寄りかかって下を見ている。

葵、後ろに立っている。

「何見てるの」

茉莉

「校庭。あんなに広かったんだ」

「上から見ると違う?」

茉莉

「違う。全部見えると、全部小さく見える」

「そういうもんじゃない」

茉莉

「葵ちゃんって高いとこ平気?」

「普通」

茉莉

「私は好き。遠くまで見えるから」

「遠くが好きなの?」

茉莉

「遠くを見てると、近くのことを考えなくていいから」

葵、茉莉の横顔を見る。

「近くのことって」

茉莉

「いろいろ」

茉莉、手すりから離れる。

茉莉

「行こうか。土曜日、神社ね」

「うん」


S-33 神社・参道 土曜日・午前

葵と茉莉、石段を登っている。

木漏れ日。静かだ。

茉莉

「人いないね」

「朝は少ない。お祭りのときは混むけど」

茉莉

「お祭り、いつ?」

「夏。8月」

茉莉

「8月か」

茉莉、少し間を置く。

茉莉

「来られるといいな」

「来れば?」

茉莉

「うん、来たい」

石段を登り切る。

境内。小さな拝殿。

鐘は拝殿の脇にある。古いが手入れされている。

茉莉、鐘の前に立つ。

しばらく見ている。

「鳴らす?」

茉莉

「いい。見るだけ」

間。

茉莉

「いいね」

「何が」

茉莉

「ずっとここにある感じ」

「昔からある。私が子供の頃も、もっと前も」

茉莉

「これからもずっとあるんだね」

「……たぶん」

茉莉、もう一度鐘を見る。

それから、境内の奥の方へ歩いていく。


S-34 神社・境内

老婦人が掃き掃除をしている。

茉莉、近づく。

茉莉

「あの、この鐘って、いつから?」

老婦人、手を止める。

老婦人

「百年以上前からあるよ。私が子供の頃もあったから」

茉莉

「毎年、鳴らすんですか」

老婦人

「お祭りのときと、年越しと。あとは何か大事なときに」

茉莉

「大事なとき」

老婦人

「誰かが逝くときとか。送り出すときに鳴らすんだよ、昔は」

茉莉、少し黙る。

茉莉

「……そうなんですね」

老婦人

「遠くまで聞こえるから。行った先まで届くようにってね」

茉莉

「行った先まで」

老婦人

「そう。だから鐘はいいんだよ。残った人も、行った人も、同じ音を聞けるから」

茉莉、うなずく。

茉莉

「ありがとうございます」

老婦人、また掃除を始める。

老婦人

「また来なさい。この鐘は逃げないから」

茉莉、少し笑う。

茉莉

「来ます」

茉莉、葵のところへ戻る。

「何話してたの」

茉莉

「鐘のこと。行った先まで届くんだって」

「……どこに行った先?」

茉莉

「どこでも」

葵、返事をしない。

茉莉

「葵ちゃん、この神社のこと好き?」

「嫌いじゃない。子供の頃よく来てたから」

茉莉

「どんな子供だったの」

「普通の子供」

茉莉

「石段、一段飛ばしで登ったりした?」

「した」

茉莉

「やっぱり」

「なんで分かるの」

茉莉

「葵ちゃんって、小さいルール破りは平気そう」

葵、少し考える。

「……合ってるかもしれない」

茉莉

「でしょ」

茉莉、笑う。


S-35 神社・坂道 帰り道

石段を下りて、坂道を歩いている。

茉莉

「葵ちゃんって、誰かのために生きてる?」

「……どういう意味?」

茉莉

「自分のためじゃなくて、誰かのためにやってることって、ある?」

「……分からない」

茉莉

「そっか」

間。葵、歩きながら考えている。

「茉莉は?」

茉莉

「私は今、それをやってるつもり」

「誰のために」

茉莉

「葵ちゃんのために」

葵、足が少し止まる。

「……私の?」

茉莉

「葵ちゃんが普通でいてくれると、私も普通でいられるから」

「それって……」

茉莉

「難しく考えなくていい。ただそういうこと」

葵、返事ができない。

茉莉、歩き続ける。


S-36 神社・坂道 その続き

茉莉

「葵ちゃんが元気でいてくれたら、私は安心して行けるんだけどな」

葵、茉莉の横顔を見る。

「行けるんだけど」の意味を掴もうとする。掴めない。

「……元気でいるよ」

茉莉

「うん」

間。

茉莉

「約束してくれる?」

「……何を」

茉莉

「元気でいること。笑ってること。前に進んでいくこと」

「なんで急にそんなこと」

茉莉

「急じゃない。ずっと思ってた」

葵、茉莉を見る。

「……する」

茉莉

「ありがとう」

その「ありがとう」は重かった。

葵には、まだその重さの正体が分からなかった。


S-37 坂道・分かれ道 夕方

「また来る? 神社」

茉莉

「来たい。夏祭りのとき」

「一緒に行こう」

茉莉

「うん」

間。

茉莉

「葵ちゃん」

「何」

茉莉

「今日、連れてきてくれてありがとう」

「……どういたしまして」

茉莉、手を振って歩き始める。

葵、その場に立って見ている。

ナレーション(葵)

「茉莉のありがとう、が頭に残った。

何に対してのありがとうなのか、分からなかった。

でも聞けなかった。

聞いたら、何かが変わる気がした」

暗転。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ