表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姉と妹が国民的女優ですが、俺は機械をいじっていたい  作者: よんまるよん
第一部「機械をいじっていたい、それだけなのに」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
28/236

第17.5話「同じ柊」

 工学部の廊下。

 昼休み。

 石田は田野にスマホの画面を見せた。

「なあ、これ見ろ」

「なに」

(ひいらぎ)(りん)、トレンド一位」

 田野は画面を覗く。

「あ、ほんとだ。また何かあったの?」

「新ドラマの主演発表。月九」

「月九!? すごいな」

「だろ」

 石田はスマホをポケットに戻した。

「ところでさ」

「うん」

「柊って名字、珍しくない?」

「言われてみれば」

「うちのゼミにもいるじゃん」

「遼か」

「そう」

 田野は一秒考えて、

「まあでも、どこにでもいるか」

「だよな」

「うん」

 それで終わった。

 そこへ遼が廊下を歩いてきた。

 無地のパーカー、ジーンズ、片手に基板。

「あ、柊」

「ん」

「卒論の修正、終わった?」

「さっき終わった」

「はや。ちょっと見せてほしいとこあるんだけど」

「後でいい?」

「助かる」

 遼はそのまま通り過ぎていく。

 石田と田野は特に何も言わなかった。


 昼休みが終わり、ゼミの時間。

 石田はぼんやりしながら、スマホで柊凛のニュースを読んでいた。

 ふと、気になる。

 柊凛の公式プロフィール。

 本名:柊凛。

 出身:東京都。

 兄弟:弟、妹あり。

「……」

 石田はゆっくり顔を上げた。

 斜め前の席で、遼が基板を眺めながらゼミの説明を右から左に流していた。

 石田は田野の脇腹をつつく。

「な、ちょっと」

「なに」

 石田はスマホを見せる。

 田野が目を細めた。

「……兄弟、弟と妹」

「うん」

「……」

 田野はゆっくり遼を見た。

 遼は基板を持ったまま、微動だにしていない。

 田野は石田を見た。

「……まさかな」

「まさかだよな」

「ないよな」

「ないよな」

 二人は頷き合った。

 でも、気になった。


 ゼミが終わり、研究室。

 石田は遼の机に近づいた。

「なあ、柊」

「なに」

「姉妹っている?」

 遼は基板から目を離さずに答える。

「いる」

「何してる人?」

「女優」

 石田の心臓が跳ねた。

「……二人とも?」

「そう」

「……名前、聞いていい?」

 遼はようやく基板から顔を上げる。

 石田を三秒くらい眺める。

「柊凛と柊華」

 石田は椅子からガタッと転げ落ちそうになった。

 田野が研究室の入口から顔を出す。

「どうした!」

「田野」石田の声が裏返った。「柊遼の姉妹、誰か知ってるか」

「知らない」

「柊凛と柊華」

 田野も固まる。

「……は?」

「だから」

「え?」

「だから俺の姉と妹の話だろ?」遼が繰り返した。「二回目だよ」

 研究室に沈黙が落ちた。

 遼は基板に視線を戻した。

「他に何か?」


 石田は深呼吸した。

 落ち着け、と自分に言い聞かせた。

 今まさに、国民的女優の実弟が目の前にいる。

 これは絶対に聞くべきだと思った。

「あのさ、柊。凛さんって、現場ではどんな感じなの?」

「知らない」

「え、聞いたりしない?」

「しない」

「なんで」

「興味ないから」

 石田は一瞬止まる。

 気を取り直した。

「じゃあ、ドラマは見てる?」

「見てない」

「全部?」

「全部」

「一本も?」

「一本も」

「……今度の月九は?」

「見ないと思う」

「姉が主演なのに?」

「だから?」

 石田は田野に顎で促す。

 田野が引き継いだ。

「じゃあ、凛さんって普段どんな話するの?」

「しない」

「え、会話しないの?」

「必要なときだけ」

「必要なときって?」

 遼は少し考える。

「……思い出せない」

「思い出せないくらい少ないってこと!?」

「そんなに話すことがない」

「何か共通の話題とかないの?」

「ない」

「ほんとに?」

「ほんとに」

 田野は別の角度から攻めた。

「じゃあ、凛さんって女優としてどう思う?」

「どうとも思わない」

「すごいとか思わない?」

「まあ頑張ってるんじゃないか」

「それだけ?」

「それだけ」

「……華さんは?」

「同じ」

「全部同じなの?」

「だいたい」

 石田が再び引き継いだ。

「あのさ、柊。ファンの人に何か伝えたいこととかない?」

 遼は顔を上げた。

「なんで俺が」

「弟じゃないですか」

「だから?」

「……いや、だから、こう……」

「用があるなら本人に言えばいい」

「本人には会えないから……」

「そうか」

 遼は基板に戻った。

 石田はめげない。

「じゃあさ、凛さんってオフの日何してるの?」

「知らない」

「家にいるときは?」

「知らない」

「え、同居してるんじゃないの?」

「してる」

「なのに知らないの?」

「部屋が違うから」

「でも顔くらい合わせるでしょ」

「合わせる」

「そのとき何してるか分からないの?」

「分からない」

「なんで」

「見てないから」

 石田は天井を仰いだ。

 田野が次の手を打った。

「じゃあ、撮影で疲れて帰ってきたりしない?」

「するんじゃないか」

「そういうとき声かけたりしないの?」

「しない」

「なんで」

「向こうも声かけてこないから」

「お互い放置なの?」

「放置というか……」

 遼は少し考えた。

「普通だろ」

 石田と田野はため息をつく。

 石田が最後の手を打った。

「凛さんって、意外な一面とかある?」

 遼は少し考えた。

 石田は身を乗り出した。

 田野も身を乗り出した。

「……普通の人だよ」

 二人はずり落ちた。

「普通って」

「普通だろ」

「何か一個くらい……」

「普通だよ」

「華さんは?」

「普通」

「二人とも普通!?」

「家では普通だろ」

 田野が絞り出した。

「じゃあ、柊家で一番すごいのって誰だと思う?」

 遼は即答。

「さあ」

「さあ!?」

「考えたことない」

「自分は?」

「普通だろ」

「凛さんは?」

「知らない」

「華さんは?」

「知らない」

「全員知らないの!?」

「興味ないから」

 石田は静かに机に突っ伏した。

 田野がぽつりと言った。

「……情報量、本当にゼロだな」

「そうか」

 遼は基板に戻った。

「まあ、普通だから」

「……もういいです」

「そうか」

 遼はハンダごてを手に取った。

 研究室に、ハンダごての熱が静かに広がった。

 二人はしばらく放心していた。


 夕方。

 研究室を出た石田と田野は、廊下を歩きながら話した。

「……何も分からなかったな」

「うん」

「裏話、一個もなかった」

「『普通』と『知らない』と『興味ない』しか分からなかった」

「『普通』って何回聞いたんだろ」

「数えてない」

「俺も」

 二人はしばらく黙って歩いた。

「……なあ」

「なに」

「昼休み、俺たち『まあどこにでもいるか』で終わらせたよな」

「終わらせたな」

「……プロフィール見なかったら一生気づかなかったな」

「一生気づかなかったな」

「……なんで気づかなかったんだろ」

 田野は少し考える。

「……だって、想像できないだろ」

「それはそう」

「世界が違いすぎる」

「それはそう」

「遼が月九の主演女優の弟とか」

「想像できない」

「うん」

 石田が呟いた。

「……あいつ、今頃また研究室で基板に向かってるんだろうな」

「姉が月九でトレンド一位なのに」

「うん」

「……同じ柊なのにな」

「うん」

 二人はまた黙った。

「なあ、田野」

「なに」

「遼にとって、姉妹が国民的女優ってことは」

「うん」

「本当に、何でもないんだろうな」

 田野は少し考えた。

「……みたいだな」

「なんで?」

「さあ」

 田野はため息をついた。

「でも、まあ」

「まあ?」

「あいつだから、じゃないか」

「……それで全部説明できるの怖いな」

「できちゃうんだよな」

 二人はため息をついた。

 そして、また普通に歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
まあ、そりゃあ「家では普通」だよなー そして家族からしたら「通常」だから「普通」。 しかも「普通」がバグってるからなー、このひと。
物語に必要な過去の話でも、ね…やっぱすごく悲しくなった…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ