「柊家、満員につき」 Part 4 全員集合
# 番外編「柊家、満員につき」
## Part 4「全員集合」
八時を回った頃には、柊家のリビングが完全に満員になっていた。
柊遼、柊凛、柊華、桜井詩織、福永颯、上野壮介、遠藤美咲、佐倉ひな、春日芽衣、室田沙衣。
そこに、もう一人。
インターフォンが鳴った。
「千夏ちゃんだ」と凛がリモコンを押した。
鷹野千夏が入ってきた。凛と同じ事務所の女優で、毒舌と冷静さが同居している。リビングを一瞥して、一秒で状況を把握した顔をした。
「……なんか人多くない?」
「増えた」と遼がまた言った。
「遼くん久しぶり。変わってないね」
「どうも」
「相変わらず作業中なんだ」
「まあ」
千夏が凛を見た。
「凛、この人たち誰」
「颯くんと壮介くん。遼の小中の同級生」
「ああ」と千夏が颯を見た。颯がふらついている。「……飲んでる?」
「飲んでる!! ひるから!! いえーい!!」
「昼から」
「ブラボー!!」
「……何がブラボーなの」
「なんとなく!!」
千夏が壮介を見た。壮介が「上野壮介です。初めまして」と静かに言った。千夏が「鷹野千夏です」と返した。颯が「はじめまして!! ブラボー!!」と言った。千夏が「もうブラボーの意味が分からない」と言った。壮介が「俺も分からなくなってきた」と言った。
十一人。
防音完備で助かった、と遼は思った。思っただけで口には出さなかった。
もう一度インターフォンが鳴った。
華が「あ、紡ちゃんだ」と言いながらリモコンを押した。
玄関が開く音。廊下を歩いてくる足音。そして、ドアが開いた。
藤枝紡が入ってきた。黒髪のロングをゆるくまとめて、シンプルで上品な服装。静かなオーラがある。そして片手にギターケースを持っていた。
リビングの全員が、ギターケースを見た。
「……なんでギター持ってきたの」と華。
「防音って聞いたので」と紡が静かに言った。
「それだけで!?」
「せっかくなので」
「せっかくって!!」
紡がリビングを見渡した。人の多さに少し目を細めた。でも驚いた様子はない。
「人が多いね」
「増えた」と遼がまた言った。
紡が遼を見た。
「遼さん、久しぶりです」
「どうも」
「また何か直してるんですね」
「直してた」
「……綺麗ですね、そういうの」
「そうか?」
「そうですよ」
颯が紡を見た。
「ギターもってきた!! ブラボー!!」
「……はじめまして」と紡。
「福永颯です!! はじめまして!! いえーい!!」
「藤枝紡です」
「ギター弾けるの?!」
「それが仕事だよ」と華。
「そうなんだ!! ブラボー!!」
「ブラボーの使い方が合ってるのか分からない」と華。
「……ありがとうございます」と紡。
壮介が「上野壮介です。初めまして」と言った。紡が「はじめまして」と返した。颯が「ブラボー!!」と言った。紡が「……さっきから何がブラボーなんですか」と壮介に聞いた。壮介が「俺も分からなくなってきた」と言った。
華が「紡ちゃん、本当に弾くの?」と聞いた。
「せっかく防音なので」
「防音を最大限に使う気だ!!」と颯。「ブラボー!!」
十二人。
防音完備で本当に助かった、と遼は思った。思っただけで口には出さなかった。
颯のドンペリはとっくに空になっていた。その後に凛が出してきたワインと、華が出してきたビールと、美咲が「持ってきました!!」と言って出してきたチューハイが並んでいる。テーブルの上がにぎやかになっている。
颯はチューハイに移行していた。缶ビール四本、ドンペリ一杯、チューハイ一本。午後一時から八時間。完全に出来上がっている。呂律はもう戻らない。
壮介はワインを飲んでいた。静かに、でも確実に飲んでいた。
颯が美咲の隣に座って、急に真顔になった。
「なあ、美咲さん」
「なんですか颯さん」
「ここ、芸能人多くない?」
美咲が少し笑った。
「多いですね」
「てか、本物じゃん」
「本物ですよ」
「凛ちゃん、本物の凛ちゃんじゃん」
「本物だよ!! 昔から知ってるじゃん!!」と凛。
「しってるけど!! でも、あらためて見たら、本物の凛ちゃんじゃん!!」
「それ同じことを二回言ってる」
「だってほんものだから!! ブラボー!!」
颯が立ち上がった。ふらついた。でも立った。
「みんな!! 聞いて!! ここ、芸能人がいる!!」
「知ってる」と全員が言った。
「でも!! あらためて!! すごくない?! いえーい!!」
「颯くん、昼から何本飲んだの」と詩織。
「よほん!! でも関係ない!! ブラボー!!」
凛が華を見た。華が凛を見た。
「……私たちも芸能人だよ」と凛。
「そう!!」と華も立ち上がる。二人が自分に指を差した。「私も!!」「私も!!」
「しってる!! しってるけど!! あらためてすごいな!!って!!」
「あらためてって何回言うの」と詩織。
「あらためて大事だから!! ブラボー!!」
美咲が「颯さんって芸能人に慣れてないんですか」と聞いた。颯が「なれてない!! 遼ちゃんちにきたらまさかこんなにいると思わなかった!!」と言った。
壮介が静かにワインを飲んでいた。
壮介が口を開いたのは、それからしばらくしてからだった。
ゆっくりと、でも少し滑舌が怪しくなりながら、言った。
「颯」
「なに」
「お前が芸能人に感動するのは分かった」
「うん!!」
「だが」
「だが?」
壮介がリビングを見渡した。芽衣、沙衣、美咲、ひな。それから凛と華。
「……沙衣さんはモデルで女優で、芽衣さんは舞台出身の演技派で」壮介がゆっくり言う。「そこと比べると——」
「私も!!」と凛が割り込んだ。
「私も!!」と華も割り込んだ。
二人が自分に指を差している。
壮介が少し止まった。
「さ、三流はすっこんでろ!!」
五秒、沈黙があった。
凛が「え」と言った。
華が「え」と言った。
壮介が自分の言ったことを反芻するような顔をした。
「……言いすぎた」
「言いすぎた?!」と凛。「三流って言った?! 今!!」
「言いました」
「私に?!」
「凛さんと華ちゃんに」
「なんで!!」
「勢いで」
「そうかもしれないけど三流って言わなくていいでしょ!!」と凛。
「言葉が出てしまいました」
「出さないで!!」
華が「壮介さん、飲みすぎじゃないですか」と言った。壮介が「飲みすぎました」と即答した。
美咲が「壮介さん、それはさすがに」と言った。ひなが「そうですよ」と言った。芽衣が「あの……」と言った。沙衣が「壮介くん」と静かに言った。壮介が沙衣を見た。沙衣がゆっくり首を振った。壮介が「失礼しました」と言った。
遼が基板から顔を上げた。
「珍しいね」
全員が遼を見た。
「壮介が人に絡むの、初めて見た」
「……俺も初めてやった」と壮介。
「飲みすぎだろ」
「飲みすぎです」
「颯と同じくらい飲んでた」
「飲んでました」
「なんで」
「楽しかったので」
遼が少し考えた。
「そうか」
「そうです」
颯が「壮介がたのしかったって言った!! ブラボー!!」と言った。壮介が「うるさい」と言った。でも怒っていない声だった。
凛が「三流は傷ついた」と言った。華が「私も」と言った。壮介が「申し訳ありませんでした」と言った。凛が「まあ、酔ってたから許す」と言った。華が「私も許す」と言った。詩織が「二人とも大人だ」と言った。美咲が「凛さん器が広い!!」と言った。
颯が凛の肩に手を置いた。
「凛ちゃん!! おれは凛ちゃんが大好きだよ!! 三流じゃないよ!!」
「……ありがとう颯くん」
「いえーい!!」
「いえーい、じゃないんだけど、まあ、ありがとう」
凛も少し笑った。




