「柊家、満員につき」 Part 3 合流
ドンペリを開けたのは夕方の五時半だった。
颯がコルクを抜いた。いい音がした。泡が少し出た。
「いえーい!!」
「それはさっきも言った」と壮介。
「いいじゃん何回言っても!! ブラボー!!」
「それも言った」
グラスに注いで全員に渡った。遼も受け取った。基板を少し端に寄せて、グラスを持つ。
「乾杯何にする」と颯。
「久しぶりに」と華。
「さいこうー!! かんぱーい!!」
グラスが合わさった。泡立つ音と、カチンという音。
颯が一口飲んで「うまい!! ブラボー!!」と言った。壮介が「それは合ってる」と言った。颯が「でしょ!!」と言った。遼が「泡が細かい」と言った。颯が「それだけ!!」と言った。詩織が「遼らしい」と言った。凛が「本当に」と言った。
六時を回った頃。
インターフォンが鳴った。
華が「あ、美咲ちゃんだ」と華が言いながらリモコンを押した。
「誰が来るの」と遼。
「美咲ちゃんとひなちゃん。今日来れるって言ってたから声かけてた」
「何人来るんだ」
「あと芽衣さんと沙衣さんも来るかも」
遼が少し止まった。
「何人来るんだ」
「さっきも聞いた」
「人数が変わった」
「増えただけだよ」
「増えただけ、か」
颯が「にぎやかになるじゃん!! いえーい!!」と言った。壮介が「颯、声がデカい」と言った。颯が「ぼうおんだから!!」と言った。遼が「室内がうるさくなっていいとは言っていない」と言った。颯が「またそれ言った!! ブラボー!!」と言った。
玄関のドアが開いた。
「華ちゃーん! 来たよー!!」
遠藤美咲の声。テンションが高い。開いた瞬間から高い。小柄でキュートな印象、明るいブラウンのミディアムヘア。表情がころころ変わる。大阪出身でバラエティタレントとしてMCを目指している。華の親友ポジションで、柊家には何度か来たことがある。誰とでも三十秒で盛り上がれるタイプで、実際にリビングに入ってきた瞬間から既にそうなっている。
リビングに入ってきた美咲が、颯を見た。
一秒止まった。
「……あれ、誰」
「福永颯です!! はじめまして!! ブラボー!!」
「なんでブラボーなの」
「はじめましてだから!!」
「そういうもの?」
「いえーい!!」
「違う!!」
壮介が「上野壮介です。初めまして」と落ち着いて言った。美咲が「あ、はじめまして。遠藤美咲です」と返した。颯が「おれも!! はじめまして!! いえーい!!」と言った。美咲が「さっき言った!!」と言った。
「華ちゃんの友達?」と颯。
「そうです! 颯さんは?」
「遼ちゃんの小中の同級生!!」
「あ、そうなんだ!!」
「壮介もそう!!」
「二人とも!?」
「ふたりとも!! ブラボー!!」
「いや、ブラボーじゃないけど」と美咲。「でもなんかテンション移ってきた」
颯が「でしょ!!」と言った。
美咲がリビングを見渡す。遼が基板の前にいる。凛がグラスを持っている。詩織がソファにいる。颯が立ち上がろうとしてふらついている。
「……なんか、思ってたより人がいる」
「増えた」と遼。
「遼さん久しぶりです!!」
「どうも」
「相変わらず!!」
美咲の後ろから、もう一人入ってきた。
佐倉ひな。ピンクブラウンのミディアムヘア。可愛い系の顔立ち。ふわっとした雰囲気。グラビアアイドルとバラエティタレントを掛け持ちしているが、本人はコメディアンを目指している。一度好きになると一途で、駆け引きができないので好意が顔に出る。華の友人で柊家には何度か来たことがある。リビングに入ってきて、まず遼を見て、少し頬が赤くなった。遼は基板を見ている。気づいていない。
「お邪魔します」とひな。「遼さん久しぶりです」
「どうも」
「何してるんですか」
「基板の修理」
「……また」
「また、とは」
「いつも何か直してますよね」
「壊れてるものがあれば直す」
「……そうですよね」
ひなが少し笑った。美咲がその横で「ひなちゃん、早速」と小声で言った。ひなが「うるさい」と小声で返した。
颯がひなを見て「はじめまして!! 福永颯です!!」と言った。ひなが「佐倉ひなです、はじめまして。颯さん、呂律が」と言いかけた。颯が「だいじょぶ!! いがくぶだから!! ブラボー!!」と先に言った。ひなが「……はじめましてです」と言った。壮介が「上野壮介です。初めまして」と静かに言った。ひなが「はじめまして」と返した。
七時を少し前に、またインターフォンが鳴った。
凛が「芽衣ちゃんかな」と言いながらリモコンを押した。
玄関が開く。廊下を歩いてくる足音。リビングのドアが開いた。
春日芽衣。黒髪のロング。清楚系の顔立ち。舞台出身の演技派女優で、凛の友人だ。リビングに入ってきて、人の多さに少し目を丸くした。
「……思ったより多い」
「増えた」と遼がまた言った。
「遼さん久しぶりです」と芽衣。声が少し丁寧。
「どうも」
「何してるんですか」
「基板の修理」
「……さっきから同じ答えしてる」と美咲。
「同じことをしているので」と遼。
芽衣が凛の隣に座る前に、リビングを見渡した。美咲とひなが座っている。
「あ、はじめまして。春日芽衣です」
「遠藤美咲です! はじめまして!!」
「佐倉ひなです。はじめまして」
「凛さんのお友達ですか?」
「そうです!!」と美咲。「芽衣さんって女優さんですよね?! ドラマで見たことあります!!」
「ありがとうございます。美咲さんはバラエティの方ですよね、よく拝見してます」
「えっ見てくれてたんですか!! 嬉しい!!」
颯が「おれも!! はじめまして!! 福永颯です!!」と割り込んだ。芽衣が「……さっき挨拶しましたよね」と言った。颯が「もういっかい!! いえーい!!」と言った。美咲が「颯さん、この人も友達みたいなテンション」と言った。
芽衣が凛の隣に座った。
「撮影終わったばかりですか」と芽衣。
「そう。お疲れ」
「凛さんもお疲れ様でした」
颯が芽衣を見た。
「はじめまして!! 福永颯です!!」
芽衣が少し驚いた顔をした。
「あ、はじめまして。春日芽衣です」
「凛ちゃんの友達?!」
「そうです」
「すごい!! いえーい!!」
「……何がすごいんですか」
「凛ちゃんの友達がきた!!ってことが!!」
「そうですか」と芽衣が少し困った顔をした。
壮介が「上野壮介です。初めまして」と静かに言った。芽衣が「はじめまして」と返した。壮介が「颯はああいう人間ですので」と言った。芽衣が「……そうなんですね」と言った。
二人が少し落ち着いた声で話している。その横で颯が「かんぱい!! いえーい!!」とグラスを上げた。壮介が「それは三回目だ」と言った。颯が「いい言葉は何回言ってもいい!! ブラボー!!」と言った。詩織が「段々意味が分からなくなってきた」と言った。颯が「おれもわかんなくなってきた!!」と言った。
芽衣が颯を見た。
「……あの人、大丈夫ですか」
「大丈夫じゃないと思う」と凛。
「でも楽しそう」
「楽しそうだね」
颯が「芽衣さん!! さっきはじめましてって言ったけど!! もういっかいはじめまして!! いえーい!!」と言った。芽衣が「……一回でいいです」と言った。颯が「ブラボー!!」と言った。芽衣が「……はい」と言った。
七時半。
またインターフォンが鳴った。
「沙衣さんだ」と凛がリモコンを押しながら言った。
颯が「誰?」と聞いた。壮介が「室田沙衣」と答えた。颯が「あ、そうなんだ——」と言いかけて、止まった。
壮介も止まった。
二人の動きが、同時に止まった。
遼が顔を上げた。
「どうした」
颯と壮介は返事をしなかった。
玄関が開く音。廊下を歩いてくる足音。リビングのドアが開いた。
室田沙衣が入ってきた。
172センチ。スタイルが抜群。明るいブラウンのロングヘアが完璧にセットされている。服装はハイブランド系。歩き方が綺麗。普通に歩いているだけでモデルに見える。実際モデルである。
「お邪魔します。凛、久しぶり」
「久しぶり。来てくれてよかった」
沙衣がリビングを見渡した。
「……人が多いね」
「増えた」とまた遼が言った。
「遼くん、久しぶり」
「どうも」
「相変わらず作業中なんだ」
「壊れてるものがあるので」
「そういうとこ、変わらないね」
沙衣が微笑んだ。遼は基板を見ている。
沙衣がリビングの他のメンバーを見渡した。美咲、ひな、芽衣が座っている。
「はじめまして。室田沙衣です」
「遠藤美咲です!! はじめまして!! 室田沙衣さんですよね!! 雑誌でよく見てます!!」
「ありがとう。美咲ちゃんはバラエティの方だよね、面白いなって思って見てた」
「えっ!! 嬉しいです!!!」
「佐倉ひなです。はじめまして」と ひな。「いつも雑誌拝見してます」
「ありがとう。ひなちゃんってグラビアの子だよね。綺麗だね」
「ありがとうございます……」とひなが少し照れた顔をした。
芽衣が沙衣を見た。
「春日芽衣です。はじめまして」
「あんた、いつも遊んでんじゃない!!」と沙衣が言った。
「久しぶりです、沙衣さん」と芽衣が笑った。
美咲が華をつついた。
「華ちゃん、なんか普通にすごい人たちが集まってない?」
「集まったね」と華。
「柊家ってこういう感じなの?!」
「こういう感じではなかったんだけど」
「なんか今日限りな気がしてきた」
颯が、まだ止まっていた。
壮介が、まだ止まっていた。
沙衣が二人に気づいて「はじめまして」と言った。
颯がゆっくり立ち上がった。
「……は、はじめまして。ふ、福永颯です」
呂律が急に戻っていた。
華が「颯くん、急に喋れるようになった」と言った。美咲が「本当だ!!」と言った。
「緊張すると醒めることがある」と壮介が静かに言った。「上野壮介です。初めまして」
「室田沙衣です」
颯がまた止まった。
「……壮介」
「……なんだ」
「さ……」
「言うな」
「でも」
「言わなくていい」
「ブラ——」
「言うな」
颯が口をつぐんだ。
壮介が小さく息を吐いた。
遼が二人を見た。
「どうした」
「なんでもない」と壮介。
「なんでもなくはないじゃん」と美咲がにやにやしながら言った。
「なんでもない」
「顔が言ってる」
「言っていない」
「言ってるよ!! ブラボー!!」と颯が言った。
「お前が言うな」と壮介。
沙衣が首をかしげた。
「……何の話?」
「なんでもないです」と壮介。
「なんでも——」と颯が言いかけた。
「颯」
「……ない!!です!! ブラボー!!」
華が「なんか颯くんと壮介さん、挙動不審じゃない?」と言った。美咲が「そうだね」と言った。ひなが「そうですね」と言った。詩織が「そうですね」と言った。芽衣が「……そうですね」と言った。
遼だけが「そうか?」と言った。
沙衣はグラスを受け取りながら、颯と壮介をもう一度見た。
何かを察したような顔をした。
でも何も言わなかった。
ただ少し、口の端が上がった。




