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灰色猫と終末の犬  作者: 野村勇輔
第1章

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4/4

第3回

   3


 それからしばらくの間、ふたりは言葉を交わすことなく街道を歩み続けた。


 行き交うのは戦行商人と思しき集団や、恐らく次の士官先を探して渡り歩いているのであろう傭兵らしきものたちばかり。


 昨夜のあっという間の小競り合いの末に職を失った者たちが、西へ東へ、北へ南へ。


 どこぞの国境で兵を募っている、どこそこの国が隣国に攻め入ろうとしているらしい、などという声が、道行くものたちの間から漏れ聞こえていた。


「これからどうする?」


 あてどなく歩いていると、背後をのしのしついてきていたクロがふと口にした。


 どうする、と問われたところで、特に目的地あって歩んでいるわけではない。


 ゆえに、タマはその問いかけには答えなかった。


 背後から、呆れたような声が聞こえる。


「なんだよ、返事くらいしてくれてもいいじゃねぇか」


 何故この男はそれでもなお私についてくるのか――


 再びタマはクロのことを訝しんだ。


 本当に私と組んで路銀を稼ぐことが目的なのか、それとも女である私の身体が目的なのか、或いは……


 そもそも、この男が本当に噂に聞く終末の犬であるという確証すらない。


 多少腕は立ちそうななりはしているが、さてその実力はいかほどのものか。


 ……試してみるか。


 瞬間、傍らの草むらから突如として、タマに向かって切っ先が振りかざされた。


 カキンッと火花が散り、クロの携えていた大太刀がその切っ先を瞬時に薙ぐ。


 それはまるでタマを守るかのような力強さと俊敏さがあり、クロはそのまま袈裟懸けで草むらからタマを狙った男をはらった。


 いい動きだ、とタマは感心する。


 しかし、タマを狙った男の動きもまた早かった。


 瞬く間に後ろに飛び退り、クロの大太刀から難なく逃れる。


 タマはその場に立ったまま微動だにせず、その動きを横目に見ながら、ふたりの動きを冷静に分析していた。


 双方ともに、まだ全力を出してはいない。


 これはまだ相手の力量をはかっているだけの動きだ。


 殺すことが目的ではないのは明白だった。


「お前、何が目的だ」


 クロが、低く唸るように草むらに声を発した。


 がさり、と草むらから切れ長目の男がふらりと上半身を起こす。


「いやぁ、さすがだな」

 ひっくひっくと、独特の笑い声をもらしている。

「終末の犬と灰色猫。こんなところで出会えるとは幸運だ」


 また、妙な奴に声をかけられてしまったものだ。


 タマはその存在を少し前から感づいていた。


 恐らく、クロも同じだっただろう。


 いったい何が目的か知らないが、タマがクロとともに街道を歩き始めた辺りから、この切れ長目の男はずっと脇の草むらの中をついてきていたのである。


「オレは、そうだな、ゴンとでも名乗っておこうか」


 偽りの名であることは明白だった。


 しかし、それをいうとタマも、そしてクロも同じことだ。


 取り立てて言及するようなことではない。


「それで」とクロは大太刀を構えたまま、「先ほどから何を思い、我らをつけていた」


「そう怖い顔しなさんなよ」

 ゴンはふたたびひっくひっくと笑いを漏らす。

「実は折り入って頼みがあってな。ちょいと話をきいちゃくれないか」


「断る」


 タマは即答する。


 ただでさえ大男を連れ歩くことになってしまったというのに、ここへ更に怪しげな細男の相手までする気など毛頭なかった。


 構わず立ち去ろうとしたところで。


「まぁ待て、タマ。そう急くな」

 クロが大太刀を収めながら、タマを引き留めた。


 タマは立ち止まり、振り向く。


「なんだ」


「なぁ、ゴン。それは金になる話か?」


「むろん」

 ひっくひっく、何度も頷く。


「だそうだ、話だけでも聞いてみねぇか」


「……どうせくだらない話だろう」


「それでも、金が稼げるってんなら、話を聞いてみてから決めても良いんじゃねぇか?」


「……」


 確かに、今の手持ちではやや心許ないところがあるのは事実である。


 特に小競り合いの激しいこの辺りはただでさえ物価が高い。


 このまままともに旅を続けられるほどの金は、さほど持ち合わせてはいないのである。


 タマは嘆息し、じっとゴンを睨みつけて、

「――妙な話だったら、即刻お前を叩き斬る」


 ゴンはそんなタマに「おお、こえぇ」と呟きながら、

「安心しな。絶対、損はさせねえからさ」

 そう口にしたのだった。

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