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幼馴染が急に距離を置き始めたので、少林寺拳法始めてみました  作者: 10kg痩せたい
蛇足篇

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第十九話 振り返り

学──


 洗い物が終わり、俺達もお茶を飲んで落ち着いたところで、時子が言った。


「昨日の続き、話しても良いかしら」


 聖奈が、俺と真理愛の顔を見て、時子に返事をしてくれる。


「いいよ。今日は何の話する?」




「そうね、まずは昨日の話で聞いておきたいことや、言っておきたいことあれば、という時間にしましょうか」




「じゃあ私から」


 聖奈が一番に挙手をする。


「あのさ……学くんに謝らないとなんだけど、真理愛がお腹大きくなっちゃったところ見られちゃったよね。あの時大丈夫だった……?」


「3日ほど、ご飯が食べられなくなってたわ」

 時子が答える。いや、カッコ悪いから自分で答えたくなかったけど。えっと、うんと。


「ああぁぁぁ……本当にごめん。どうしても真理愛を連れて行かなきゃいけない用事があってさ……油断していた、本当にごめん!」


「大丈夫だ……」

 嘘だ、あの時は死のうかと思った。


「後で謝りたいって言ってたのはこのことか?」


「え!?あぁ……あ~……あのことはまた別。ちょ……といまの段階では無理かな……もう少し……してからじゃないと!」


「そう、なのか?……なら仕方無いな……?」




「続けてもう1つ、まぁこれは私も少し聞いているんだけどね。時子が昨日、遅くなってって言ってたけど、どういうこと?別に私としては、あー助けてくれるんだぁくらいだからさぁ」


「西片を止められなかったこと。あなた達のフォローに手が回らなかったこと。学の意識を変えられなかったこと。家にすぐに連れてこれなかったこと。真理愛さんに、正式ではない手順を踏ませるしかなくなってしまったこと。体調不良と金銭的な問題があることを知っていてもあなた達を迎えに行くことが遅れたこと。そしてみんなの和解が今になったこと、ね」


「思ってたより多かったわ……まぁでも何度も言ったと思うけどさ。あれは私らの自業自得。全部があんたの責任だなんて、それは傲慢すぎるよ、お嬢様。真理愛は言いたいことある?」


「……私も、聖奈ちゃんに言われただけじゃなくて……自分の判断でこうなったことは理解しているつもり。だから遅くなったと言われてもピンとこないよ。時子さんに助けられる義理があったとも考えていないし」


「そう……」


「ごめん、一個戻って、家にすぐ連れてこれなかったのはなんでだっけ」


「それは私の力がまだ完璧ではなかったから。北条グループの致命的なスキャンダルになる可能性があった。助けようとして巻き込んでしまっては元も子もない状態だった。だから崩壊しようもないほど完璧に仕上げたのがあなた達を迎えに行った日、というわけなの。……もう少し遅かったら聖奈にも真理愛さんにも正くんにも影響があったかもしれなかった。それについてもごめんなさい」


「あ~あ~いいって、謝らせたいわけじゃないから!助けてくれて本当にありがとうね、時子!」

 ニッコリと笑ってくれる聖奈に、俺と時子は救われた。


「ちなみに……崩壊しようもないほど完璧ってどういうこと……あ、話せないならいいからね。興味があるってだけ」


「北条グループの99.9%を私のものにしました」


「え?ごめん。ちょっと耳がおかしくなったみたい。もう一度良い?」


「北条グループの株式、子会社の諸々、その他資産などなど99.9%を私のものにしました」


「ごめん、怖い数字が見えた気がしたからもういいや」


 真理愛は思いついていないようだが聖奈は一瞬でどのくらいの金額が動いたか想像できたようだ。たぶん、その10倍くらいはかかってるし、『それ』だけじゃないからな……。




「じゃあ、次は私から。……時子さんはなんでそんなに責任を感じているの?あなたには関係ないことだよ……」


「一番に考えてるのはあの猿を野放しにしてしまった責任、ね」


 真理愛も、聖奈もただまっすぐに時子を見つめていた。


「西片には監視をつけていて、監視ができているつもりになっていた。実際には親に邪魔されていたの。そして女の子が2人、いつの間にか毒牙にかかっていた。本来なら、私が止められたはず……だったのよ。」


「でも……私も1人の男の子に恋をして、舞い上がっていた。監視が偽の情報を回しているなんて考えもしなかった。そして親の裏切りを知った時に、自分1人だけ幸せになっていたことに罪の意識を感じたの。真理愛さんが言ったように、私は寝取り女だなって……。」


「そして、それについてずっと真理愛さんにも聖奈にも話せなかったこと。だから、私はあなた達の身に起きたことの責任をとらなくちゃって考えたの」


 聖奈は苦笑し、真理愛は目を閉じて、一言発した。


「なるほど、聖奈ちゃんが傲慢って言ってた意味、わかったよ」


 真理愛がぎゅっと手を握り、目を開ける。


「あれはさ、やっぱり自業自得なんだよ。西片と中田に……遊ばれたって、そういうことがあったけどさ……。男の子にチヤホヤされて、クラスの中心になれて、その立場を失いたくなくて、全部自分で考えてやったことだから。それは時子さんの責任じゃないよ……」


「でも……!」


「やめて、私はもう、私の責任でそうなったって理解している。あなたのものにしないで……」


 時子は真理愛の拒絶に俯いてしまった……。


「ねぇついでに聞いちゃうけどさ、昨日言ってた視聴覚室のこと、がっくんと時子さんは……見ていたの?」


「学が先に入っていて、私も後から合流した。……そして、音と声が聞こえてきたの」


「そっ……かぁ」




「レイプだよあんなもん、……それ以外でもなんでもない」

 怒った顔の聖奈が口を出す。


「聖奈……ちゃん?」


「あの1件は私も聞いたけど、動画で脅されてレイプされただけ。学くん、この瞬間から私の親友を少しでも変な目で見たら、絶対に許さないから」


 聖奈が俺を睨む。

 言われても仕方がない。俺はそれだけのことをした。


「あぁ、わかった。約束する」




「それ以外の……西片との恋愛についてもさ。そっちも私は真理愛の本当の意思じゃなかったって思ってる」


「……え?」

 真理愛が瞳を動揺の色で揺らす。


「真理愛にはさ、いつも自分のやったことを理解させるために厳しく言い聞かせたけどさ。あの猿どものしたことはレイプ以外の何物でもない。真理愛の恋心を利用した……ね。私が調べた範囲でも、クラスメイトを使った誘導が何回も行われていた。西片と付き合わせようっていうのと、学くんから離れさせようっていうね……。時子はもっと詳しく掴んでるんじゃない?」


 時子は目を瞑り少し迷ったように返事をした。

「ええ、そうね」


 真理愛が倒れこみそうになったので慌てて支える。さっきまで顔が健康的に戻っていたのに、真っ白だ。


「真理愛にはそれでも学くんにしたことを自分の責任としてこの7年間十分に向かい合わせて来たし、真剣に向き合ってくれた。……だからもう自分だけで責任を持とうとしなくていいって私は考えている。これからは辛いことを時子も学くんも一緒に背負ってくれるって……もう1人で抱えなくて良いからね」


 真理愛の頬を大粒の涙が伝い、声にならない声を上げた。俺はそっと真理愛を抱きしめた。


「学くん。あなたの怒りも理解している。でも私の親友は並大抵じゃない覚悟でここまで罪と向かい合ってきた。もうその罰を受けたって私は考えてる。だから、私の親友をこれからは幸せにしてあげて」


「……俺もまだ混乱している部分はある。だけど、もう絶対に泣かせないと、それだけは誓わせてもらう」


「ありがと、おねがいね」




 少し空気が硬くなった。俺は「ちょっと待ってくれ」と伝えて、キッチンへ向かい茶を淹れた。それぞれの前にカップを置いて、一息ついた。


「私からもう1つ……」

 弱弱しい声で真理愛が言った。


「昨日の提案、素敵だった。そうなったらどれだけ最高なのかって言う『おとぎ話』。でも時子さんはそれでいいの」


「私の最高の幸せの形がこれだったの。いま本当に幸せよ。あとはあなた達が『おとぎ話』を受け入れてくれるだけ」

 間髪入れずに答える。笑顔で、迷わず、言い切る北条時子様だった。


 流石に真理愛もあっけに取られて目を見開いてるし、聖奈は頭を押さえてる。俺は、慣れたと思っていたのになぁ……。


「予定よりもお嫁さんが1人増えそうだけどね……」

 ぼそっと時子が何か言ったが、俺の耳には届かなかった。




「俺から。俺以外全員知っているようだけど、子供について教えてくれ」


「真理愛が酔っぱらった学くんをレイプした。以上」


「いや、ちょ……そこに至るまでのいろいろを聞きたいんだが」


 聖奈がえぇ~……という顔をする。


「頼む」




「ん~と、最初は西片が来たときかな。学くんが西片を撃退するときにすごい怖い顔しててさ……。それで、この子がフラッシュバックしちゃったの。学くんに言い寄って断られた時の顔が結びついちゃったんだって。それで……家から出られなくなるくらい病んじゃった。どうにかするか、って考えた時に、そこのお姫様から連絡が来たの」


「教授の送別会に酔っ払いが1人現れる予定なのでお迎えお願いできるかしら……てね。そして、タクシーに乗せられた男の人は、『途中で気持ち悪くなって運転手さんの家のトイレを借りて寝てしまった』『その時丁度酔っぱらってしまった同居の女の人が帰ってきて、一晩の過ちを起こしてしまった』……というわけ」


「……無駄を承知で言うのだが、俺の人権とかそういうものは誰も考えてくれなかったのか……」

 真理愛も聖奈も顔を背けた。ただ1人、俺を正面から見る人物は。


「あるわけないでしょそんなの。パートナーの言葉を何年無視したの」


 俺は今までで一番の土下座を決めた。




「これで初日の確認は出来たかしら。疑問があれば都度質問のタイミングを取らせて頂くわ」





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