第十六話 帰ろうか
学──
「始まりは高校だよ」
時子が俺達3人を少しずつ見つめてから、沈痛な面持ちで話し始める。
「私が1人の男の子に夢中になってる間に、2人の女の子がすごく辛い目にあったの。それはある意味では私のせい。あのバカを放置したせい」
「だから全員まとめて幸せにすることを決めましたー拍手ー!」
赤ちゃんだけがパチパチと拍手する。
「ありがとー!」
「……足らんのよ、説明が」
日外だけがツッコめた……。
「あはは、流石にここでするには、ちょっといろいろアウトな話題があるから、全部は家に帰ってから話させてもらえる?」
「はいはい」と日外。真理愛は俯いている。俺は……。
「どうして俺に相談してくれなかったんだ」
俺が零した言葉に、今まで上機嫌だった時子の顔が笑顔のままで……怒っている!?
ニッコリとした顔でこちらに向いて……俺の額をツンツンとずっと突いている……。
「話を……聞かなかったのは誰?」
自然と俺はその場に土下座した。
今の俺は椅子。椅子になっている。
「学がね、東雲さんのことを話そうとするといつも逃げちゃうの。だから今日まで説明できなかったし、この人は何も知らないわ。全部知っているのは、私と巻き込まれちゃった聖奈だけ」
「馬鹿だよねぇ、自分から距離を置いたのに、いつも大学だと心配してた」
「勝手に私のセキュリティまで動かして」
「何かあったらすぐ駆けつけて」
俺からは見えないが、ニコニコとした顔で真理愛と日外へ話しているに違いない。やめろ、同意なく俺のプライバシーを裸にするな……。
「西片と中田をボコボコにしちゃうし、あれは隠すの大変だった~、あはは」
「……え?」
「そうだよ、いつでも守ってくれたでしょ。そこのフルフェイスのお兄さんが」
日外が言う……。何だ、お前にはバレていたのか。
「あの時のって……がっく……南雲くんなの?」
「……他に誰が居る」
うぅぅと真理愛が泣いてしまう声が聞こえた。
こんなしんみりとした状況なのに、椅子は止めさせてもらえなかった……。
2人の点滴が終わって、再び日外を持ちあげて、車へ連れて行く。真理愛も、なんとか歩いてこれた。
時子から自宅へと言われたので車を走らせる。
誰も何も喋らない……。赤ちゃんも眠ってしまったようだ。
30分ほどして、俺達の自宅へ到着する。
車を止め、荷物は後で取りに来るからと伝え、先に時子と真理愛を家に向かわせる。日外をまた持ち上げて俺も玄関へ向かった。
真理愛が、玄関の前で戸惑っている。
「どうした?」
「ここ、がっく……南雲くんと北条さんの家、ですよね。」
玄関扉を開けて待っていた時子が一気にニコニコ笑顔に豹変する。
「はーい、正くん。ここがこれから君達のおうちになるんだよー!」
「だぁー!」
時子が手を挙げたのを真似するように、いつの間にか起きた赤ちゃんが手を上げた。
「私達に同情しようっていうの!!」
真理愛が……吠えた……!今にも噛み殺さんとばかりの表情で時子を睨む。
「違うわ、私達用の家なの」
真理愛は表札に書かれた『南雲学』『北条時子』の文字を見て、また時子のことを強く睨みつけていた。
「は?イヤミ?」
「ここに、あなた達も住んでもらうの」
「施しをあげようってわけ!」
「……なんか会話噛み合って無くない?」
腕の中の、唯一事情を知っていそうな日外が言う。
「俺もそう思う」
何かがおかしい、だがそのボタンの掛け違いを俺達2人では解決できなかった。
「ちょっと2人とも落ち着いて!」
流石にヒートアップしそうな2人を前に、日外も黙ってはいられなかった。
「こいつ!……こいつは惨めな私達を助けてあげようってことでしょ!お断りだわ!」
真理愛は目から涙が零れるのを気合で止めていた。俺だって同じ立場だったら、馬鹿にされてると受け止めるかもしれない。
時子の答えを聞くために、自然と俺達3人は時子に視線を集めていた。
「違います!私達4人とその子供達のための家って意味よ!幸せになるまでもう誰も逃がさないわ!」
それは……そこに居たのは俺の愛する北条時子様だった。
「は……っ?な、え?なに……?」
真理愛はあまりの事態に意味を持った言葉を発せなくなる。かろうじてついて行けたのは俺と、日外もか……。
「南雲くん、あの子はいつもこうなのかしら」
「そう……だな。インパクトは今回が一番だが……まぁこんな感じだ……」
時子は鞄をごそごそと探って中から……『東雲真理愛・正』『日外聖奈』のプレートを出していそいそと表札に付けていた……。
「学、2人をまずはリビングに案内してあげて」
その言葉でようやく俺達は動き出すことができましたとさ……。




