第二十二話 東雲真理愛
学──
自分の部屋に真理愛を連れて来た。こっちにもケトルとかがあって助かった。真理愛用の暖かい紅茶を入れて、テーブルにカップとソーサーを2人分。
俺もソファに座った真理愛の隣に腰かけた。
言葉はまだ出ない。ただ懐かしさが胸に去来していた。
実家の俺の部屋で、いつも2人で並んでいろんなことをした。
カラオケに行って、2人で何時間も歌ったこともあった。
プールで、映画館で、図書館で、学校で……いつもどこでも俺達は2人一緒だったんだ。
7年前。俺は幼馴染に何があったのかを、まだ彼女からは聞いていない。
それを知る必要がある、とそう思った。
「真理愛」
優しく声をかけたつもりだが、幼馴染は大きく体を震わせた。
目に恐怖が張り付いている。
……すこし、ほんの少しだけムカついた。
俺はそこまで信用できない男かと。自分のやったことを棚に上げて。
そういう時は行動で示すのみ。俺は真理愛にキスをして、じっとその目をのぞき込む。
「何があったか、話してくれるか」
「え!?はぇ?1うぇ!ぽぴ、ろぼろ。ぱぴょろぴうぇ」
真理愛が壊れた。
「キスなんか、小学校の頃までに何度もしてきたじゃないか」
俺は真理愛の反応に若干納得がいかなかった。
そうあれは、小学校に入る前くらいから、俺は毎日のように真理愛にキスされていた。舌も普通に入れてきた。
それがたった1回のキスでどうしてここまで戸惑われなきゃならないのか。
「大人になってからは初めてだもん!」
若干涙目だ。もっと雰囲気良いところが良かったのに、と小言が聞こえてくる。
俺はプツンと来てしまい、真理愛をお姫様抱っこして、ベッドへ連れて行く。
一生懸命抵抗しているが、その程度の力で何が出来る。
あっさりとお姫様は魔王の城に連れ込まれてしまいましたとさ。
部屋の明かりを落とし、ベッドサイドの間接照明だけにする。
ベッドの上には、一糸まとわぬ姿の真理愛が1人。
俺も手早く服を脱いで、潜り込む。そして、必死に逃げようとする真理愛を捕まえて抱きしめる。
「真理愛、これでもう俺もお前も逃げられない。さぁなにがあったのか全部話してもらおうか」
観念した真理愛は、全てを話し始めた。
なぜ、俺から離れていったのか。なぜ、西片と付き合うことを決めたのか。なぜ、性行為をしようとしたのか。
そして、クリスマスから視聴覚室のあの日までの間の出来事、そして聖奈に助けられたあの日、何があったのか。
全てを話した。
「がっくん、ごめんなさい。だって……だって……がっくんが居なくなるなんて思わなかった!がっくんはいつでも私のことを受け止めてくれるって思ってた!だけどそうじゃなくて、でも戻る場所なんてもうなくて!どうしていいかわからなかった。そしたら……そしたら……!もうぜんぶどうでもよくなってたの!私なんかどうにでもなっちゃえって!だからぁ……」
後半はもう声にならない嗚咽でしかなかったけれど。俺は真理愛の全てを受け止めた。
そして、そんな思いをずっと抱えたまま、7年以上も話せなかったんだ。
「ごめんな、真理愛」
「ゆ゛る゛さ゛な゛い゛ぃ゛、せ゛っ゛た゛い゛ゆ゛る゛さ゛な゛い゛も゛ん゛」
小学生振りの駄々っ子モードだ。怒りながらキスしてくるのも変わらない。
「高校のときもずっと無視したもん!いつもいつも時子さんの事ばっかり見て!私の方を全然見てくれなくて!わるいのは私だけど聖奈ちゃんに怒られてきちんと反省してたもん!でも話してくれないからどうにもできなかった!こっちに来てくれないから何もできなかった!自分ばっかり彼女といちゃいちゃしてて!ずるいばか!あほ!」
「大学のときは普段話してくれないのに何かあると飛んできてくれて!話してくれてもいいじゃん!あや、あやまらせてくれたっていいじゃん!でもいっつも何も言わなくて、そんなんじゃ怖くて逃げるしかないじゃんん゛ん゛!中田の時も西片の時も助けてくれたのになんで話してくれないの!!連絡先交換してくれてもいいじゃないぃ!ばか!どんかん!とうへんぼく!」
「……うわきもの!ばか!あほ!おたんこがっくん!」
俺に乗っかって暴れまくるが、軽すぎてなんともないぜ。
いや……むしろ。柔らかいまである。
俺は真理愛の腰を持ちあげて、体勢を入れ替える。
真理愛を組み敷く形になった。
そこでようやく、真理愛は止まった。
「……がっくん?」
「真理愛、今度は俺の番だ」
「俺が、怒ってないと思ったか?」
「俺の7年分で、全部上書きしてやるから覚悟しろ」
真理愛──
私は 知らなかった
この人の 本性を
固い腕 固い脚 固い体
その全てが火傷しそうなくらいの熱を帯びていた
その腕で 体で 抱きしめられた
そして 一番はその瞳
目が合っただけで
その怒りがわかった
その寂しさがわかった
あなたを手放してしまったこんな馬鹿な女なのに
がっくんは夜の間中、1秒たりとも許してくれなかった
獣のように
お前は俺のモノだと心と 体と 魂に刻まれた
こんながっくん、私は知らない
一晩中 熱さと気持ちだけで 頭の中をかき回されるみたいな波に溺れさせられた
好きだ 愛している なんて 優しい言葉は一度も無くて
目と体だけで
ただ、私は支配された
彼のために 彼のために 彼の心を満たすために
ただそれだけを考えて
もう絶対に離す気は無いという彼の意思を
受け入れた




