第一話 始まりは
~春休み~
「ねぇねぇがっくん!高校、楽しみだね!」
俺は南雲 学。
今話しかけてきたのは俺が片思いしている幼馴染、東雲 真理愛だ。
艶のあるストレートな黒髪ロングで、小っちゃくて笑顔がかわいい女の子だ。
生まれた時からの関係なので15年もずっと一緒に育ってきた。
俺達は話し合って同じ高校へ通うことにした。春休みも教科書や制服を真理愛と買いに行った。それらの用事が終わってようやく落ち着けた俺達は、俺の家で真理愛とだらだら映画を見ている。
ちなみにだけど、がっくんは俺のあだ名だ。小学校の漢字授業で学の読み方を習ったときに「呼びやすいから!」と真理愛に付けられた渾名だ。
「同じクラスになると、いいね?」
甘える子犬のような可愛い幼馴染が俺に寄りかかってきて不覚にもドキドキしてしまう。
いつもそうなんだが、幼馴染は距離が近い。ふとした瞬間にピッタリくっついていて甘えてくる。そんな幼馴染にいつもドキドキとさせられて困ってしまう……。
「そうだな、そうなればもっと楽しそうだ!」
いつもの、にへ~っとした笑顔を向けてくれる真理愛に俺の心はポカポカさせられた。きっと彼女も同じ気持ちになってくれている。
今までもずっと一緒にいた幼馴染だから、自然とそんなことがわかっている……気になっていた。
~入学式~
家が隣同士の俺達は一緒に家を出て、一緒に学校へ登校した。一度見ているはずなのに、幼馴染の制服姿はすごく眩しかった。中学も制服だったのにどこか大人の女性のように見えてしまった。
ただ……俺と目が合うと、にへ~っとした笑顔になってしまうので、まだ美少女だ。
これから3年間、一緒に歩いて行けるといいなと思い一歩を踏み出した。
「……あ、がっくんと別クラスだ」
校舎に入る前、庭に掲示されたクラス表で残念ながらクラスが別になってしまったことを知る。
俺はAクラス、幼馴染はCクラス。
幼馴染は見るからにしょぼ~んとしており、その声はいつもの元気がない。が。そこはやっぱり元気一番の幼馴染だ。
「がっくん!学校行くのも帰るのも、お昼も……一緒だからね!あと……。可愛い女の子がいてもついていったら、めっ!なんだからね!」
とにへ~っとした笑顔を見せる幼馴染に安心した。
~4月4週目~
言われた通り、4月は通学・下校も一緒だった。
仲良くなった互いのクラスメイトに持て囃されることもあるくらい俺たちは一緒だった。
お昼については……友達と一緒にご飯食べたいときもあるだろうと、週に1~2回の頻度で一緒に食べることとなった。
土日もほとんど二人で過ごしたし、ゴールデンウィークも遊びに行く予定を立てていたら互いの両親にまでいつ結婚するのかと揶揄われてしまった。
真っ赤になる俺と幼馴染。でも幼馴染が俺の方に向いたら、いつものにへ~っとした笑顔を向けてきて、それも良いよなって思っていた。
ただ俺は心配だった。理由はもちろん幼馴染の可愛さだ。
中学までも可愛いと思っていたが、高校に入った頃から大人の綺麗さが顔を覗かせ始めていた。
そのおかげでスクールカーストのトップグループに入っていった。
残念ながら俺は真ん中くらい。なので、嫉妬の目で見られることになってしまった。
それでもいつも幼馴染が見ているのは俺だけだし、俺が見ているのも幼馴染だけだった。
……そう、思っていた。
幼馴染はよく俺の部屋へ遊びに来るのだが、その時の話題が……だんだんと不穏なものに変わっていった……。
~4月4週目金曜日~
「あのね、がっくん。最近クラスの人に遊ぼうって誘われているの」
彼女は今日も俺の部屋へ遊びに来て、そう切り出してきた。
「クラスのお友達は男の子達とも仲良くてね。カラオケとかも一緒に行くんだって」
「そうなのか、女の子の友達も一緒なのであれば遊んできてみたら?」
「え?行ってもいいのかな?で、でも男の子と一緒なんだよ?」
彼女は何かを心配して俺にそう伝えてくる。
「う~ん、これから体育祭とか文化祭もあるし、みんなで協力する場面もあるから行ってみても良いんじゃないかな!」
「……がっくんが良いなら、行ってみようかな……」
いつものにへ~っとした笑顔はもらえなかった。でも高校を出たあと、24時間ずっと一緒にいるわけじゃない。幼馴染は幼馴染で自分の世界をきちんと持ってもらうべきだと俺は考えた。俺は俺で、クラスの奴らと遊びに行ったりもした方が良いかな。
そんな考えを、俺は後から後悔することになる……。




