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銃弾舞う宇宙基地を走るタチアナ

 夕暮れ時の宇宙基地を目の前に、わたしは一時の休息を取っていた。


 あれから奴等は偵察隊を何回か出してきた。しかし、わたしはそれまで通り、彼等を狙い撃った。全員を、では無い。一人二人負傷させれば、残りの者は負傷者を連れて、退却せざるを得ないのだから。


 携帯食でエネルギーを補充する。即効性がある訳では無いが、食べるのと食べないのでは、気分が違うのだ。


 今迄は宇宙基地の西から北4Kmの間を円形に移動してきたが、今度はもう少し東よりまで行ってみよう。そこからは、管制室のある建物の正面にあたる場所が見える筈だ。


 喉を潤したわたしは、移動を開始した。


 目的の場所に着いて、砂丘の上に頭だけを出し、遠見で様子を確認する。何か小山の様なものが見える。


 薄暗くて細部が良く見えないが、あそこにあんな物はあっただろうか。つい一昨日の記憶を思い起こしてみても、見当がつかない。あの時は深夜だったから見逃したのだろうか。


 わたしは暗視と遠見でその細部を確認した。


 背筋がブルブルと震える。頭頂から顔、首胸とどんどん体温が抜けていくのを感じていた。きっと明い場所で他の誰かが居たら、顔面蒼白になりブルブルと震えているわたしを見た事だろう。

 この震えは恐れや怯懦によるもでは無い。憤怒の震えだ。余りにも極まった怒りは、顔を(あか)くさせるのでは無い。血の気が抜けて蒼くさせるのだ。


 その小山は、宇宙基地のスタッフの制服とETO軍の制服を着た者達の遺体で出きていたのだ。


 だが、わたしの怒りが極まってしまったのは、その為ばかりでは無かった。怒りの源泉はその状態にあったのだ。


 炸裂弾、という弾がある。着弾した時、内部の火薬が炸裂し甚大な被害を与えるための弾だ。もしそれが人に命中した場合……想像するのも恐しい。

 この様な必要以上に惨い死を人に与える武器弾薬は、国際条約によって禁止されている。しかし、今目の前の現実はそれが使用された痕跡をありありと晒していた。


 何が使われたのか。弾体を形成する魔力バルーンを薄くした、圧縮空気弾が使用されたに違いない。何かに当ると破裂し、高圧から解放された空気が一気に膨張するように……


 身体の震えが止まらない。この怒りを何処に向ければいいのか。死者の尊厳をも踏み(にじ)るこの行為を誰に償わせれば良いのか。


「今迄のような手緩い(てぬるい)真似はもう止めだ」


 地獄の底から轟くような声が聞こえる。わたしの声なのにわたしのものとは思えない程、陰惨な響きを帯びていた。

 わたしの怒りは手っ取り早く、占領している兵達へと向けられてしまった。


 わたしは通常弾使用の拳銃をウエストバッグに収め、代りに圧縮空気弾を使用する拳銃を取り出す。弾倉型の圧縮空気弾生成装置のコードを魔力バッテリーに繋ぎ、銃把に叩き込んだ。


 かつてワンマンアーミーの名を欲しいままにした、元特殊部隊特科隊員の真価を見せてくれよう。今夜は眠る暇など与えてやるものか。己が行いを悔いて震え、泣くがいい。


 わたしは超遠距離狙撃を再開した。狙撃しては基地に近づき、近付いては狙撃、を繰り返した。

 転位シートによる跳躍距離を割こんだ時、今迄の小銃は背に担ぎ、もう一挺の小銃に持ち替えた。残り3Km弱の距離を駆ける。近付くにつれ、わたしの姿を見つけたのだろう。わたしを迎え撃つための兵士が前進してきた。


 互いの射程に入った時、わたしは身体強化の仕方を変えた。魔力の遅筋への割合を減らし、その分を速筋へとまわしたのだ。

 瞬発力の優る速筋へ魔力を急に増やしたわたしの動きは、それまでの動きに慣れた相手の目には、掻き消えたように見えただろう。その隙を狙って相手を撃つ。狙いはアバウトだ。なるべく致命傷にならない部分を狙うが、運が悪ければ、お亡くなりになるだろう。


 速筋と遅筋への魔力の割合を頻繁に入れ換えたわたしの動きについてこれる者は無く、迎え撃とうと出向いて来た者は皆、砂の上に伏した。

 それを一瞥する事も無く、わたしは基地へと駆け出すのだった。


 何度か迎撃を受け、それを全て撃退したわたしは遂に宇宙基地に着いた。あの日ヴェロニカ隊長と共に来た場所だ。先程暗視で見た遺体の小山が視界に入る。正面の建物からは、上からと下からと言わずに銃弾の雨が降り注がれていた。それを、後ろへ、左へ、右へ、前へと順番もタイミングも不規則に、相手を翻弄する動きで全てを回避し、グレネードを適当に発射してゆく。

 グレネードの圧縮率は低くしておいたので、これで死ぬ事は無いだろう。が、少しばかり細工をしていた。圧縮の際、砂漠の砂塵を混入させておいたのだ。多分良い目潰しになってくれただろう。


 グレネードによる制圧で銃火の薄くなった場所を急襲し、一階の窓を破って建物内の一室に侵入する。侵入の間際、小銃は背中へ担ぎ、代りに右手に拳銃を左手には短機関銃を握る。魔力は速筋に全振りにした。


 室内に居た兵達は、砂塵混入グレネードの目潰し効果で、涙目を薄く開けながらわたしを捉えようとしていた。だが、わたしは侵入と同時にジャンプしたためこの身は天井付近にあり、彼等の視界内には居なかった。天井に足を着いたその一瞬に、短機関銃の弾倉を空にする勢いでその部屋中に弾丸を振り撒く。

 床に着地した時、立っているものは誰も居なかった。


 銃撃の音は止んでいた。代りにけたたましい、廊下を駆ける靴の音が響いてくる。建物への侵入を果したわたしを追ってきたのだ。


 拳銃と短機関銃に替えて再び小銃を構えたわたしは、侵入した窓から小銃だけを窓の外に出し、建物の壁沿いにやってくる兵達にグレネードをお見舞いする。次いで掃射。それも銃口を右から上へ、そして左へと180度薙ぐように。窓の外に動く者はいなくなった。上階からの火線もなくなった。

 外に出たわたしは建物の一番端へと駆け、そこから再び屋内に侵入を果たした。


 わたしは一階の端から端へ、そして上階へと兵達を掃討して行った。時には壁を走り、時には天井を蹴り、時には地を這うように走りながら横殴りの銃弾の雨を掻い潜り、拳銃と短機関銃を撃ちまくった。部屋の扉を通過する際には、置き土産に大した威力の無いグレネードを放り込んでおいた。わたしが通り過ぎた後に動く者は居なかった。


 最上階まで掃討を終えた。侵入したのと反対側の窓から下を見ると、倉庫群や塔に居た兵達がこちらへ向かって来るのが見えた。足止めに何発かグレネードをお見舞いする。

 彼らを迎え撃つ為一階に降りようとした処で、胸が振動で震えているのに気付いた。振動の元はウーレンベック主任からいただいたカードフォンだった。

 恐る恐る表示を確認する。そして目に飛び込んだ文字は……


『カーリVV。ターニャP。30分後現着』


 待ちに待った連絡だった。わたしのコードを知っているのはこの地上にはヴェロニカ隊長しか居ない。だからVVとは彼女でしかあり得ない。


「よかった……」


 あの遺体の小山の一部とはなっていなかったのだ。心の奥底から、安堵した。


『ターニャP。カーリVV。現在管制室棟掃討中。……』


 メッセージを入力しながら、後ろも見ずに背後に拳銃を撃つ。強い敵意を感じたわたしのその動きは完全に反射だった。


『……到着を待つ』


「舐めるな。敵意には敏感なんだ」


 メッセージを打ち終え、送信したわたしは、すでに意識の無い兵に言い捨てた。

 後30分。それ位、幾らでも保たせてみせる。わたしは今倒したばかりの兵を乗り越え、一階へと走り出した。


 まだ意識のある兵達を蹴り飛ばして眠らせながら一階に降りたわたしは、躊躇(ためら)う事なく外へと飛び出した。わたしの能力を十全に発揮するには、屋内よりも動き回れる外の方が良い。それも壁際が良い。三次元で動けるからだ。


 手には小銃が握られている。前後左右、時には壁走りを加えた上下の変幻自在のフットワークで相手を翻弄しながら、時には掃射、時にはグレネード制圧を繰り返し、相手の突撃を抑え込んでゆく。そして30分後……


 ヴェロニカ隊長率いる部隊が、カーリ宇宙基地を完全に包囲。占領していたRTO軍は降伏したのだった。


----


「此処への増援を防ぐため、私達は先ずアーフに居るRTO軍を抑えに行ったんだ」


 だから此処へ来るのが遅くなったんだ、と降伏したRTO軍兵士たちの処遇を終えたヴェロニカ隊長は、そうわたしに語った。今回、わたしがドローンに出会(でくわ)さなかったのも、そのお陰だったらしい。あの兵器の制御室がアーフにあったのだ。


「それにしても、良く一人でここ迄やれたな」


 すこし間を空けてわたしは答える。


「元ETO軍特殊部隊特科隊隊員ですから」


 彼女ならこれくらい話しても大丈夫。その為人(ひととなり)は信頼できるものだ。


「……あの、ワンマンアーミー(一人軍隊)の特科隊か。それなら納得だ。そうすると同じ特殊部隊に居た事があったのか」


「ええ、わたしが特科隊に居た頃から、幾つもの対テロや激戦地での活躍など、ヴェロニカ隊長の噂は良く聞いてました。有名人でしたよ」


 いや、それは恥ずかしいな。と言いつつ満更でもない顔のヴェロニカ隊長とそれを見詰めるわたしを、少し欠けた中天の月は優しく照すのだった。


----


 その後、ETOとRTOの間で何回もの協議が行なわれた。その間、捕虜の解放・非人道的行為の秘匿と交換にエニグマの査察及び使用制限がなされた。そして、カーリ宇宙基地奪回から半年後、ETO側は移住先としてL4を含めた難民の受け入れを、RTO側はエニグマの全ての情報開示と技術提供を条件として、今回の紛争は一応の終息を見たのだった。


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