第十四話 準備開始
ちょっとほっこり。
「さてと、どうすっかなー。」
学校から帰宅後、お風呂とご飯を済ませ、速攻で自室に引っ込んだユキは、部屋着にヘッドフォンと完全に作業体制に入っていた。
パソコンのソフトを使って、ロジックツリーを組み上げていく。
ーー腐ってもこの国の中枢、下手な真似はできない。かといって媚びへつらったスピーチもしたくないんだよね。
ノートパソコンに向き合い、頭を抱えていると、ドアが開く音がした。
「ユキ、かんっぜんに作業体制だな。」
生意気な弟、シュウが部屋に入ってくる。ユキは音楽を止め、ヘッドフォンを外すと、シュウに向き直った。
「邪魔。帰れ。」
どうせ邪魔をしにきたのだろうと追い払う。
「せっかく心配してユキの好物の最中と緑茶持ってきたのに?」
「うお!やったー!でも、シュウのくせに、気遣いができてる・・・・」
「あ?なんか文句でも?」
「ないない、ない。ありがたーくいただきまーす!」
最中と緑茶はユキの大好物である。噛んだ瞬間に広がるあんこの甘みに、パリッとした音を立ててやがて口の中でとろける皮。特有の味とちょうど良い厚みを持つそれは、あんこと合わさることによって究極の旨みを引き出す。そして、飲み込んだ後に緑茶をひとくち。口に残っていたあんこの余韻に緑茶の苦味が加わることで、また別の味わいを。
「な、よろこんだだろー。」
笑顔で最中を頬張るユキを見ながら、シュウが誰かに話しかけた。
「む。だって邪魔したくなかったんだもん。」
少し拗ねたような可愛い声が聞こえてきたかと思うと、末の妹、ナツカがひょっこりと顔をだした。
「ナツカもありがとね。がんばれそう!」
溺愛している妹の登場により、ユキはメキメキとやる気が出てきた。
「そろそろいくぞー。」
「うん!」
二人が完全に部屋を出ていき、部屋はユキ一人となる。再びヘッドフォンをつけ、パソコンに向き直った。
甘いものを食べてしっかりと休憩をしたら、仕事モードに切り替わる。
急いでユキ、ミユキ、ケイ、リョウみなのスピーチ内容を整理しなければならない。愛用のロジックツリー作成ソフトを開き、順に打ち込んでいく。
内容の柱は大きく分けて三つ。給食の素晴らしさ、私たち小学生から見た給食の有用性、給食に関するエピソード。そして、最も重要な初めとしめ。それぞれに求める提案の形を提示し、相応しいと思う人を当てはめていく。
とにかく熱意を伝えたい素晴らしさには素直でまっすぐなリョウを。
小学生の視点ながら客観性を求める給食の有用性に関しては大人びているミユキを。
相手にしっかりと落とし込むことが大事なエピソードに関しては魅力の説明が上手なケイを。
そして、そのすべてを見極め全体のバランスをとる役割であるはじめとまとめを自分、ユキに。
最も責任あるその役割を自分に振り分けたのは、会長としての役割を考えたこと、なにより強い自信からである。
「さあ、これからがんばるぞー!」
そのころ、帰宅した学校会のメンバーは・・・・・・・
「ぐぅ。なんか嫌な予感がするぞ。そういえば今日、スピーチの役割を決めてくるってユキが言ってたなー。どうか俺が得意な分野にしてくれよ。」
とリョウ。
「今日、スピーチの役割が決まるんだったよね。私、いったい何を任されるのかな?まあ、ユキのことだから、それぞれの得意分野にしてくれるのでしょうけど。」
と、ミユキ。
「そういえばユキが、今日スピーチの役割を決めてくるって・・・・ああ、もう胃が痛い。頼む、頼むから、得意分野を!」
と、ケイ。
奇しくも願うことは同じ。メンバーの心は強く通じあっていた。