第十話 束の間の日常
緊急会議の次の日。その日は珍しくいつもの日常が見られた。そう、いつもの日常が。
「じょーそーうーさーん!」
とリョウ。
「ざっけんな!ピーマンのくせに!」
とユキ。ちなみにリョウはピーマンが逆鱗。
「はあ!お前今ピーマンって言ったな!しばく。」
「やれるもんならやってみろやー。ピ・イ・マ・ンさん♪」
と幼稚園児以下の喧嘩をするユキとリョウ。
「「まあまあまあまあ。」」
静止の声がハモるミユキとケイ。
って具合に。そしてそれは給食時間も同じ。この日は、より白熱した戦いになる。あとに、5-2の歴史に残った戦いだったといわれるぐらいには。
今日の給食はフルーツポンチと黒砂糖パン、ナポリタン。
口に運んだ瞬間に広がるフルーツの甘みとプルンプルンの寒天がベストマッチしている。このフルーツポンチは、残る量は少ないのに食べたい人はたくさんいる。実に燃える戦いである。
次に黒砂糖パン。ふわっふわの生地に甚割とほのかに香る黒砂糖の風味。このパンに先ほどのフルーツポンチのシロップをつけて食べると、最高である。
最後にナポリタン。少し太めのパスタ麺に、真っ赤なケチャップが絡めてあり、さらに厚切りのベーコンが入っている。食べ始めると止まらない病みつきの味だ。
「ユキ、今日は負けないからな。なんてったって、俺の大好物のフルーツポンチだ。」
とリョウ。フルーツポンチの日は、リョウの熱意がすごい。もちろん、私だって負けるわけにはいかない。だってフルーツポンチは私も大好きだからね。
「ええ、勝てるのー?連敗中なのに?タイマンでも、給食でも。」
とユキ。最近、タイマン(空手道場でやる試合をタイマンって言ってるだけ。)でリョウに勝てるようになってきたんだ。もちろん、給食は最初から勝ってたよ。
「はあん?それはお前のが体格いいからだろ!俺はこれから成長期なんですー。これからおおきくなるんですー。」
「フン。」
「ユキ、リョウそんなことしてたら出遅れるよ。ほら、最後の人が減らし始めたよ。」
とケイが話しかけてきた。
「「てんきゅ!」」
警戒態勢に入る。椅子にぎりぎり腰をつけ、ほかのところは浮かせて、給食台に一直線に駆け出せるように。あんな口喧嘩をしながらもユキもリョウも食べ続けていたので、二人のお皿はすべて空っぽだ。だから怒られない程度に走ってもこぼれない。
最後の人が減らし終わり、席に座る。その瞬間、すべての力を足に集中させる。いつも私より足が速い量だけど、この駆け出しだけは私が一歩リード。
タンッ!
みんなが一斉に列に並ぶ。一番最初は・・・・・・・ユキとリョウ。同時だった。
「「「えー!」」」
いろんな人の声が重なる。5-2組のクラスメイトならみんな知っている。こんな状態になったとき、まちがいなくうるさいじゃんけんが起こる。
「ユキ、ここは正々堂々じゃんけんだ。せーの!」
教室に緊張感が走る。
「「最初はグー!じゃんけんポン!」」
まるで運動会の応援団のように声を張り上げたじゃんけんの結果、まったく運がない私、ユキが敗北した。
「ぐあー!」
ユキは大ダメージを食らっている。
「っしゃあー!」
大喜びのリョウ。
こうしていつも通り?5-2の給食時間は幕を閉じた。
「ありゃりゃ。うるさいですねぇ。楽しいのはいいんですが、静かにやってほしいものです。」
と小原先生。
ハチャメチャな中、その言葉を拾えたのはミユキだけだった。
ー困ったものだね。ったく、ユキもリョウも限度ってものを知らないんだから。
ただ苦笑するしかないミユキだった。