おまけ1 ある役員たちの苦労
僕の名前はケイ。好きなものは虫と水泳。そして、星小学校学校会の書記をしている。
うちの学校会の会長はとっても頼りになる。と全校生徒は思っているだろう。まあ、実際仕事中は頼りになるが、普段はそうでもない。
クラスメイトで普段のあいつを知っている僕からすれば、抜けてるところとか、いたずらっ子っていうのがあいつの印象。
下級生たちは思いもしないだろう。あのユキが校長室に呼び出される半分はいたずらのお叱りだと。
なんだか思考がおっさんぽいので、みんなテレビで一度は見たことがある、あのしむ〇け〇さんみたいないたずらを仕掛けてくる。例えば教室のドアの上に黒板けしをおいて、入ってくる先生にあたるようにしたりとか。
本当にまるで昭和のいたずらだ。
そんなユキだが、仕事中は怖い。いろいろと。
まずは日常生活の中で本気になったユキを見ていただこう。
ある時、クラスメイトのミユキがヤンキーにからまれたことがあった。まさかと思うかもしれないけど、いるんだよ。まだ。この片田舎にはね。
ミユキは一応いいとこのお嬢さんだ。身に着けてるものもね。そこに片田舎のヤンキーが目をつけて、絡んできた。いつも僕とリョウ、ユキとミユキで学校から帰っている。その日はリョウが歯医者だったので、僕とユキとミユキで下校していたんだ。
「お嬢ちゃん、俺はこのへんで番張ってるもんでい。痛い目見たくなかったら金を出せ。」
まあこんな感じで、高校三年くらいのヤンキーが声をかけたわけですよ。ただ、声をかける相手が、いや正確にはその友達が悪かった。その時ユキは、今、腹の中を真っ黒に染め上げましたとでもいうような悪そうな、それでいてかっこよく、不敵に笑ったんだ。そして。
「はああん!?お前なんつった、ミユキに向かって脅迫?ざっけんな!今あんたはか弱い小学生を脅迫した。よって正当防衛の権利が発生する。よってお前をボコす!」
とても小学生と思えぬ殺気、そして度胸。でも相手は高校生。ユキのその発言を聞いたとき、僕は正直肝が冷えたよ。
「はあ!小学生ごときが俺に勝てると思ってるのかよ。番はってるんぜ、番。」
おっしゃる通り。そこで僕はユキにやめとけの視線を送った。
「それがどうした。タイマン張れぇー。このくそ野郎。やらないのか?勝てないんですかねぇ私に。」
やめとけユキ。頼むから。という僕の必死の視線を見て見ぬふりをして、相手を挑発したんだよ、あいつは。もう一度いう、見て見ぬふりをしたんだ。案の定、高校生は激高して殴りかかってきた。
が、その直後。
バシッ
ゴフッ
ボコッ
グッ
明らかに一方的な音がして、無傷のユキ。なんとぼこぼこの高校生。
「へぇー。あんだけ言っといて、これだけ簡単にやられちゃったねぇ。ばーか。もうミユキに近づくなよ。もしなんかしたら、わたしが出るからよ。」
となんともかっこいいことを言って、その場を後にすることになる。
ていうのがユキが怖いって思った前科。その次の日校長室に呼び出されたけど、ユキの正当防衛という建前により、ユキとなぜか僕が一週間トイレ掃除をするということで丸く収まった。のかな。
そのあともヤンキーがユキに果たし状を送り込んで大変だったみたいだけど。みーんなおんなじようにボコされたそうです。
そんな感じで、咄嗟のときの逃げ道確保や、物理的な強さもあり、とーても怖い。
そして今。僕たちは校長室でおえらいさんと話をしている。
「なに、簡単なことだよ。今の学校の現状と、給食の良さなどをスピーチしてもらいたい。国会でね。
僕は、この腐った教育現場を立て直したい。このままでは日本は将来時代の波から落っこちて、悪い方向に進んでいくからね。僕はある法律を制定したいんだよ。内容は承諾してから教える。できれば今ここで決めてもらってもいいかい?それに、学校会長の給食に対する熱意はちゃんと教えてもらったよ。この県の僕の部下を通してね。」
国会なんていう大層な場所でスピーチ?承諾かどうかを今決めろ?なんていう無茶ぶりを聞いて、僕は大変混乱した。
そんな中、うちの会長は、今まさに腹の中が真っ黒に染まった顔をして不敵にほほ笑んだ。その笑みを見て直感したんだ。ユキが本気になったと。
そして、大臣の前であのヤンキー時みたいにするんじゃないかと。それでやめてくれ、ユキ。という視線を送った。そしたらまたしても、またしても見て見ぬふりをされていた。そして。
「そんなことを言ったら、断れないですねぇ。おおかた、プレッシャーと圧で押し切ろうとしていません?学校で選ばれたとは言え、まだまだ子供だ。と腹をくくっていました?私たちはそんな甘ちゃんじゃあない。それに加えて、わざわざ自分の地位をギリギリで教えて緊張させる。この県のお偉いさんを送るほどの時間があったなら事前に教えてくれてもいいだろうに。腹黒なんですか?まあ、その若さで大臣にまで上り詰めるのは大変だったでしょうしね。というわけで、今回の話は少し時間をいただきます。まさか、大の大人が、か弱い小学生に迷う時間も与えないなんて、そんなことしませんよねぇ。文部科学大臣。」
という、今度は言葉の暴力を使って反論したんだ。心底すごいと思った。だって、ユキがいったことは確かにそうだと思ったし、圧も、言葉の筋も通していた。正直すっきりしたよ。せいせいもした。
そして、だからこの仕事はやめられない。と思った。
苦労が絶えない書記係、ケイ。今回はその苦労と心情を書いてみました。ユキの前科も含めて。