君と僕の表情
ずっと空を眺めていた。朝も昼も夜もずっと星が浮かぶ空を。僕もいつかあの星のように自由に浮いてみたかった。
「何してるの?」
「星を見てる」
「そ、今日はどう?」
「いつもより楽しそうだよ」
僕はいつも星の表情を見ている。表情といっても、星の動きがゆっくりかどうかや星同士が混在してできる模様のようなものを見て勝手に解釈しているだけだ。
「ふーん、あなたは楽しい?」
「いつも通りかな」
「あやふやだなぁ」
さっきから話しかけてくるのは唯一の友人で、空を眺めているといつも声をかけてくる。どうやら僕が星の表情をいつも決めつけているのが面白いらしい。
「君は僕と話して楽しいの?」
「楽しいよ。あなたの感性は独特だもの」
「そっか、それならいいけど」
会話はいつもこの程度で、後は友人が寝落ちするまで星を眺めている。こんなところで寝たら風邪ひいちゃうから、友人が寝たらいつもおぶって帰るんだ。
「今日は眠くないかも」
「珍しいね。昼寝でもし過ぎたの?」
「いや、昼は散歩してた」
「なら少しは疲れてるんじゃない?」
「さぁ?どうだろうね?」
「君自身のことじゃないか……」
「私は君と話したい気分なんだ」
「いつも話してるじゃないですか」
暇人なのかもしれない。それなら他のことをして暇を潰してほしいと思う時もあるが、今は少し心地よくなってきている。
「私の表情は見てくれないの?」
「君の表情?」
「星ばっか見りてないで、たまには私を見てほしいな」
確かに表情をよくみたことはない。いつもどんな表情をして僕と星を見ているのだろうか。
「お、見てくれるのかい?」
飄々としている感じの表情だな。昨日はどうだったっけ。確か、疲れて眠そうだったような。
「どうかな、私は?」
でも今日は昼間散歩したと言っていた。昨日は疲れていたんじゃなくて単純に眠かったのか。
「おーい」
今日は星よりも楽しそうな気がするが、それは笑顔を間近に見るのが初めてだから、僕がそう感じているだけなのかもしれない。
「……そこまで見つめられると照れるんだけど…」
いつも会っているからわかるだろうと思ったけど難しいな。今どんな表情をしているのかわからない。
「………」
「痛ッ」
急にほっぺをつねられてしまった。僕が何をしたっていうんだ。
「…見過ぎ」
「見てって言ったのは君だろう?」
「そうだけど……どうだった?」
「わからない。けど、そうだな……星よりも君の表情の方が好きかな」
「…………そう」
「明日から君を眺めるのもいいかもね」
コロコロ変わる表情は面白い。星も変わるが雨や曇りの時は見えない。
「明日から…?私を?」
「うん」
「……いいよ」
「ありがとう。明日も来てくれる?」
「うん」
こうしていつの間にか星の表情から友人の表情を眺める毎日に変わっていった。友人も毎日楽しそうだから僕は嬉しい。彼女の表情を見ている僕は、どんな表情をしているのかな。
「あなた、幸せそうな表情をしてるよ」
一度聞いてみたらそう返ってきた。僕は今、幸せなんだ。僕もそう感じているから間違いない。これからもずっと、彼女の表情を見れるのなら、僕の表情を見ていてくれるのなら幸せだ。