4.いつかまた
どういうわけか、ルゥは一晩眠ったら元の森に帰っていたのです。よくよく考えると、昨日の夕暮れに着いたのは、自分の生まれ育った森だったことになります。
到着したのは、ルゥのすんでいた場所から少し離れていました。ふくろうたちのすまいでしたので、見覚えがあったわけではないのですが。
故郷の森だと気づかないほど疲れていたのかもしれません。
そうして、ルゥはあっという間に星に祈ったことを叶えてしまったのです。
『仲間に会いたい』という願いごとを。
ルゥはトパと木の実の食事をとりながら、話し合いをしました。
おだやかな気持ちで、ルゥは語りました。
「みんなが認めてくれなくなったし、自分でも飛ぶことが物足りなくなって、ずっと遠くまで行ってみたんだ。けれど、世界の果ては全く見つからなかったよ……」
トパは、うなずいてよく聞いています。
「お疲れさま。本当にたくさん飛んだんだね」
ルゥの様子を見てとったのか、いたわるように言ってくれました。
だから、ルゥは素直になれたのです。
「どんどん自由に飛べて、最初は楽しかったけれど、ずっと飛ぶうちにみんなのことを思い出してね、寂しくなっちゃったんだ。……今は、トパに会えて、とてもうれしいよ」
「誰ともしゃべらないのも、ずっとじゃいやなもんだろうなあ。どうしているかと思ったけど、大冒険をしてきたんだね」
思いやりのある言葉をかけられて、ルゥは心からほっとしました。
「ありがとう、トパ。ただ飛んで、何もわからないまま帰ってきただけだったけど、それでも帰ってこられてよかったと思うよ」
夕方になって、ルゥはトパと一緒にふくろうのところへあいさつに行きました。
「ぼくは、長いことまっすぐ飛び続けて、世界の果てがあるかどうか確かめようとしました。でも、見つからなくて寂しくなってしまって、もう戻りたいと思いました。帰って、みんなに会いたいと流星群に祈ったのです。そうしたら、いつの間にかすんでいた森に戻ったみたいで不思議なんです。とにかくもう願いごとは叶いました」
ルゥは、ふくろうにお礼を言います。
「ぼくが一番願っていることをちゃんとお星さまに届けられたのは、ふくろうさんのおかげです。ありがとうございました」
「いやいや、礼には及ばんよ。それより、どうやらわしの願いごとも叶ったようなんだ。こっちこそ、お礼を言いたいよ」
「えっ、どういうことですか」
ふくろうの発言に、ルゥもトパも驚きました。
「実はな、わしは世界の果ては存在しないのではと考えていたのだが、渡り鳥たちに水平線がどこへいっても丸く見えると聞いてから、いよいよその存在を疑っておったのだ」
「世界の果ては、ないんですか」
「うむ、それを証明したかったのだが、方法が分からなくてな。昨夜証拠が見つかるようにと星に祈ったのだよ。そうしたら、今願いが叶ったんだ」
「というと?」
ルゥとトパは、目をぱちくりしながら問いかけました。
「おまえさんはずっとまっすぐ飛んでいったら、元のところへ戻ってきたという」
「はい、不思議なことです」
「それが不可思議なことではないんだよ。大地は丸くなっているとわしが思っていた通りだった証拠なんだよ」
「はぁ?」
よく理解できず、ルゥもトパもすっとんきょうな声を上げてしまいます。ふくろうは笑顔で説明しました。
渡り鳥たちの話から、大地が丸いのではないかと思っていた。だから世界の果てはないと考えたけれど、丸いという証拠がなかった。ところが、ルゥがまっすぐ飛んで元に戻ったということは、やはり丸い証拠じゃないか、と。
「信じられませんけど、それだったら帰れますね」
「うむ、おまえさんのおかげだよ。ありがとう」
「いえいえ、こちらこそ、とても感謝しています。流れ星、すごいですね」
「そうだな、流れ星にもあいさつしたいところだな。だが、しばらく流星群は来ないから、夜空から伝わるかどうか」
ふくろうは、ほっほっほと声を立てて、笑いました。
「流れ星を予想したり、世界の果てを調べたり、ふくろうさんは偉いですね」
ルゥがすっかり感心すると、ふくろうは小さく首を振りました。
「いやいや、偉くはないよ。自分が好きなことをしているだけさ。森の草木は、春に芽を出し、夏に葉を伸ばし、秋に実がなり、冬に休む。そんな季節のめぐりや、月の満ち欠けや星々が空をかけることで歳月を知る。それにいろんな知識から世界を知るのは、ただただ楽しいのさ。おまえさんだって、飛ぶのは楽しいんだろう?」
「はい。でも……」
ルゥはうまく言えなくて、そこで口ごもりました。ふくろうは、そんなルゥを見守っていましたが、こう告げました。
「そうだな。好きなことをひとりでやっているだけではなくて、話し合うことも大切だな。わしは渡り鳥たちと話していろんなことを知ったし、おまえさんと会うことで理論を証明できた。ひとりではできなかった」
「そうですね。飛ぶのは楽しいけれど、ずっとひとりきりでは飛べなかったです。やっぱり話し合う仲間がほしいと思いました」
ルゥはそうして、自分のこれまでの毎日に思いをはせたのです。
ふくろうのもとから家に帰る途中、トパが話しかけてくれました。
「ルゥは、何も見つからないまま帰ってきた、ってがっかりしていたみたいだけど、そうじゃなかったね。ふくろうさんの役に立てて、よかったね」
「うん。やっぱり行ってきて、よかったと思うよ」
ほうっと一息ついて、ルゥは晴れやかな気持ちで話します。
「戻ってこられるのが分かったから、また今度、少し遠くまで飛んでみようかな」
どうやら、ルゥはだいぶ元気になったようです。トパが尋ねました。
「そのときは、ぼくも一緒に行ってもいい?」
その言葉に、ルゥの心ははずみました。
「もちろんだよ!」
飛んでいく二羽の前に、夜の帳が降りようとしています。本当に故郷に帰れたんだなとルゥはやっと思うことができました。
まずは帰ってゆっくり休もう。そして、いつかまた飛んでいこう。
ルゥはトパとともに、ゆっくりと羽ばたいて飛んでいきました。
実は夢中で飛ぶうちに、ルゥは地球の赤道辺りを八周も回っていたのです。
ぐるぐるとめぐっていたことは、のちに再び飛んでみて、初めて知ることになります。
そんなルゥですが、今はねぐらでぐっすりと眠っていますよ。
そっと、静かにしておきましょうね。