表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
土塊の戦士  作者: ライブイ
1章 田舎の町
4/38

第4話 父親

 男は悩んでいた。欲望とどう向き合うべきかと。

 男は商人の三男だった。その家は祖父が商会を設立し、その息子である父が後を継いだ。この世界では一般的な一族経営の商家だ。

 商人としては正しいことだが、この一家はとても欲深い性質だった。祖父の息子は自分の後を継ぐ子供を作った。予備として作ったはずの次男にも同等の教育をした。欲深い祖父と父を見て育った結果、年の離れた三男は欲深いことを忌避するようになった。


 欲深い祖父、父、兄二人。彼らと同じようには成れないと思ったが、自分も息子である以上ただの一従業員でもいられない。そのため身近にいた侍女と駆け落ちし、異国の片田舎で慎ましく暮らすことになった。

 そして時は経ち、自分の実家が利益を追求しすぎた経営方針の末に、全てを失い処刑されたと知った。


……男は欲望の愚かさを知り、慎ましく生きることを至上の生き方だと考える。しかし同時に燃え上がるように生きていた欲深い家族たちが、夢を追いかけるように、自分以上に幸せそうに生きていたことも知っている。

 ならば自分の大切なひとが欲深く生きようとしたとき、自分はどうすればいいのか。


 そうして男はーートラストの父親は決断した。





「トラスト、冒険者を止めるんだ」


 トラストが冒険者になって三か月後、いつものように魔物の討伐をして家に帰ると父親からそんなことを言われた。


「な、なんで!?どうして!?せっかくうまくやっていけているのに!」


 トラストは理解できないように狼狽する。なぜ冒険者活動を止めてはいけないのか分からない訴える。

 実際、トラストはうまくやっていると言える。


 この世界では一般的に、成人するまでは親の仕事を手伝う。貴族や金持ちは学校に行かせたり家庭教師をつけて勉強させるが、一般的に庶民派十歳から成人まで親を手伝うことで仕事を覚える。みんなは家業を手伝い、成人したらそのまま家業を継ぐのだ。

 家業を継がないものは、成人したら何処かで弟子入りする。どこに行くかは本人の希望や店の都合による。


 そうした店に入るものがほとんどだが、例外的に継承される技能よりも個人の技術が重視される職業もある。

 つまりは衛兵や騎士、傭兵、そして冒険者だ。


 当然こちらも最初は大きな組織の助けや先人の下で学ぶことから始める。冒険者ならば冒険者ギルドの格安で受けられる講習で戦闘系スキルの習得、薬草などの採集物に関する知識、魔物の討伐部位や解体方法、場所によっては魔術の講習や読み書きを教わる。その後は街中で小銭を稼ぎ、先輩冒険者の従者として郊外に行き魔物と戦う実戦経験を積む。

 十歳から十五歳までの間は下積み時期とでも言うべき修行期間である、これを終えると成人と共に家を出るのが基本だ。


 その点、トラストはかなり例外的だが、よく言えばとても順調と言える。十歳になって三か月にして魔境に入り、ランク2の魔物を狩る。これはE級冒険者に匹敵する活躍だ。十歳の少年がニ十歳の青年並みの働きをしていると言えばその異常ともいえる優秀さが分かるだろう。今後も冒険者として活動していれば歴史に名を残すかもしれない。


 しかし、親としては意見が違うようだ。


「トラスト、確かにお前は優秀だ。このまま冒険者を続けても、ある程度力を付けてから騎士を目指しても大成するだろうが……親としては、毎日大けがをしてくることは容認できない」


 毎日大けがをして帰ってくること、それが親として見過ごせなかった。

 トラストの強さの最大の理由は【危機感知:死】だ。死を知覚できるこのスキルは、自分に死を与える攻撃は未来視に等しい水準で察知できる。しかしその反面、死なない程度の攻撃には役に立たない。

 初めてランク3の魔物と戦ったすぐあと、ゴブリンの仕掛けた落とし穴にかかって逃げられず危機的状況に陥ってしまったことがある。そのためトラストはあえて自傷し死に近づき、落とし穴に落ちた程度、小さな投石でも死ぬほど弱ることで、あらゆる攻撃を察知し戦っている。


 当然毎日血がだらだらにぼろぼろ、傷だらけで帰って来るため親として心配しないわけがないのだ。


「だから父さんとしては、トラストには今すぐ冒険者を辞めてほしい。騎士を夢見ることもだ。【見習い戦士】では生産職をやっていけないから転職できるまだはいいが……それが限界だ。

 だがそれでもトラストが続けたいというなら、薬草学か治癒魔術のどちらかを覚えるんだ」

「薬草学か、治癒魔術?」

「ああ、お前が傷ついたとき、自分で治せるようにするんだ……せめて、死なないようにな」


 血塗れになり、傷だらけになり、死にかけていても、見たこともないほど楽しそうにしている息子を見ていた。そのためトラストの父は危なっかしい息子の身を案じ、傷を治す技術を身に着けさせることにしたのだ。


「薬草学……スキルで言うと【錬金術】スキルだな。治癒魔術は適性次第だが、水属性魔術か光属性魔術なら確実に治癒魔術を習得できるだろうな。職人になるなら、トラストは鍛冶師か装飾職人もいいな。

それで、どうする?何を選んでもいいぞ」


 その言葉には、力があった。子供らしく好き勝手に行動して、自分を心配する人のことなど気にも留めない。当然親の考えも理解しようともしない。……事実として十歳の子供なのだから当然だが、そんなトラストにも響く言葉だった。

 トラストも前世では親をしていたが、目の前の父親はその頃の自分よりもはるかに親としての責務を果たしているだろう。


……だが、心配してくれるのは嬉しいが、トラストの答えは決まっていた。


「もちろん、冒険者を続けるよ」


 トラストの言葉に父親は、理解してくれない悲しさと、これからも危ないことを続ける息子への不安と、まだ子供なのに親を相手に真っ向から自分の意見を伝える姿に、頼もしさと誇らしさをその顔に見せた。


「でも父さんの不安も分かるから、全部覚える。薬草学と治癒魔術、どっちも学ばせてほしい」


 トラストの言葉に、父親は驚く。

 ただでさえ何かを学ぶことは大変なのに、それを複数。すでにスキルを習得しているトラストは、それを理解していないわけではないだろうに。


「両方?トラストは今まで体を鍛えていただけだろう。薬草学も治癒魔術も最初は座学が中心だ。できるのか?」

「もちろん。でも、錬金術と治癒魔術のどっちも覚えたら、冒険者の活動を再開してもいいよね」

「ああ、怪我をするのは仕方がないが、出来るだけ怪我はしないようにすること。そして怪我をしても、治せるようになってくれ」


 父親は嬉しそうにしながら、教師を引き受けてくれた友人の場所を伝えた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ