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土塊の戦士  作者: ライブイ
2章 王都
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第35話 試練

 リゼラから遠く離れた魔境クラメガの奥地、ランクの6の魔物が徘徊し並みの冒険者ならばたどり着く事すらできない危険地帯に二人の姿はあった。


「【破城壊槌】!」

「【刹那開闢】」


 トラストが城塞すら破壊する槌の一撃を振り下ろし、デーディーが静かに、しかし空間を切り裂くような恐ろしい切れ味の剣先を振り上げる。

 お互いの武器がぶつかり合う度に大気が揺れ、余波で木々が切り倒れ裂かれる。本来ならば狂暴な魔物たちも二人を恐れて逃げ出している。この場に留まっていれば余波だけで絶命しただろう。


「腕を上げたな。今の一撃、中位の竜でも一発で倒せるだろう」

「いつっ……っ!剣で槌ごと切り裂いておいてよく言いますね!ですがまだまだです!」


 腕まで縦に切り裂かれた槌を放り捨て、鎧を再構築し再び攻め立て始めるトラストだが、その戦闘能力は明らかに上がっていた。初めて会った時ならば、デーディーはその場から動かずとも瞬殺出来た。リゼラに帰ってきた時ならば、五歩圏内を動き回らなければならないが、その程度で瞬殺できた。


 しかしトラストの少し上と圧倒的に格上の強さを使い分けてくれるデーディーを相手にすることで、トラストはめきめきと力を付けている。さながらいままで蓄えた経験を実力という骨肉に変えているようだ。


(まだまだ俺の方が強いが、衰えた今の俺では負けるかもしれないな。いや、そうでなくては鍛えがいがないというものだ)


 【渦割り】という他人の血液を操作し体内から爆破する魔術も魔力の結界で受け流された。胴体は避けていたとはいえ、覚えるために何度爆破されても挑んでくるのは狂気すら感じさせる。


 トラストに才能はあるのだろう。努力をしているのだろう。それが出来る環境もあるのだろう。しかしそれ以上に負けん気が強い。それがデーディーにとって一番好ましいことだ。

 死んでいないのであれば魔術やポーションですぐに治せる。しかし治せるからと言って何度体を切り刻まれても立ち向かえるのは戦士の証だ。彼我の実力差を理解してなお、勝とうとする心が最も重要なのだ。


「もう終わりか?」

「まさか!勝てるとは思ってませんが、勝つことを諦めることはありません!」


 両者が衝突し、爆風が広がる。その速度は音速を超えていた。

 音速と簡単にいうが、これは非常に高度な戦いだ。動けばすぐに衝撃波が生じ自分の認識が追い付かない事態になる。五感をフルに使いことでようやく形になるのだ。


 トラストは宙に浮かべた武具を鎧から生やした突起で弾きながら波状攻撃を仕掛ける。剣や槍が投擲されデーディーが対応できる以上の数で潰しに行く。

 しかしデーディーはトラストに武術を複数の流派を含めて教えた人物だ。腰に携えた二本の短刀を投擲に軌道を操作することで巧みに回避する。ユニークスキルの様な特殊能力を使うトラストを相手にただの武術で圧倒する。


「これならどうだ!【大隆起】!」


 しかしトラストも無駄に負け続けているわけではない。デーディーに勝つために開発した魔術を使う。二人を中心に半径五十メートルの地面がくり抜かれ塔のようにそびえ立ち、空中で爆発し足場が崩れる。


「ほお、これは初めて見たな」

「さっさと死ねぇええい!」


 どのような武術であれ、地面が平坦であることが前提だ。崩れた地面、ましてや空中に放り出されては実力を発揮することは出来ない。

 トラストは瓦礫となった地面を足場に飛び跳ねながら襲撃を仕掛ける。ばねがはじけるように足場を蹴り砕いて斧と槌を振るう様は暴力の化身だ。その威力は新幹線と正面衝突するよりも大きいだろう。


「いい戦略だ。俺でなければ対応できないだろう」


 しかしデーディーは突如空中に投げ出されたにも拘わらず、体を捻って態勢を整え、剣を犠牲にしてその威力を受け流して見せた。対価は剣一本。支払わせた対価はあまりに安い。


「なっ……!」

「助言だが、この魔術は自分が使う以外の足場はすぐに崩したほうがいい。それと一直線に襲撃するのも甘い、襲撃は対応が遅れる背後からが鉄則だ」


 返す剣でトラストを切りつける。硬いはずの鎧を抜け胴体を半分切り裂く。

 しかしその剣術のレベルの高さが幸いし、あまりに手ごたえがないことに違和感を覚えるのに一瞬の時間を要してしまった。


「なに?」

「さすがのデーディーさんでも、下からの攻撃には反応が遅れますね!」


 目の前の鎧は空洞、では中身はどこに。そう考えた瞬間、背後のやや下から死の気配を感じた。背後はまだしも下方という通常ならば経験を積めない位置からの襲撃。空中だからこそできる攻撃だ。


「はあああああああ!」

「見事だ。だがそれでも‥‥‥っ!」


 そのままトラストの長剣はデーディーを捉え、薄く張っていた結界を切り裂き、切っ先がようやく肉体に到達した。


「これは……毒か?」

「ええ、以前戦った天魔の毒を薄めたものです。俺は抗体を入れていますが、ランク8の熊でも麻痺させる程度には強力です……全然効いていないように見えたので、驚きましたが」

「対状態異常用のマジックアイテムを身に着けているからな。……貫通してくるとは、これはまいったな」


 地上でデーディーは満足げに笑いながらトラストを称える。ようやく届いた一撃。たった一撃だが、この一撃はデーディーに教わったこととトラストの経験の集大成だ。


「合格だ。お前ならどこに行ってもやっていけるだろう」

「ようやくですか!ありがとうございました!」

「ああ。……よし、せっかくだからアシュアムの薬学の試験も受けてこい。俺はその間にお前に渡すものを準備しておこう」

「はい?」





「そうか、やはりあいつは合格と言ったのか。なら、俺からも最後の試験を受けさせてやる。受けるか?」

「受けます!」


 場所はリゼラに戻り野草屋。陰気な老人アシュアムが野草や魔草を並べていた。


「ではこれを飲め」

「はい……ごふっ!」


 そしてアシュアムに渡された丸薬を飲み込んだ瞬間、トラストは吐血した。


「こっ……これはっ!?」

「毒だ。常人なら一時間で死ぬほどのな。これを自力で解毒しろ。ああ、材料はここにあるやつで足りる。これが最大のヒントだな」


 何かの間違いを期待したが、本当に毒の様だ。続けて告げられた言葉に理解したが、「嘘だろ?」という真っ先に浮かんだ心情が打ち消されることは無い。


「薬師をやっているとそのうち【毒耐性】や【状態異常耐性】を覚えるからな。その前にこれを受ける必要があるんだ。言ってみれば見習いの卒業試験だな」

「……な、なるほど」


 この世界では化学の代わりに錬金術が発展しているが、薬品を扱う技術は低い。地球の様な試験紙や金属を使うのではなく、薬師が舐めたり嗅いだりといった体を張る方法が一般的だ。当然危険な行為でありそのうち耐性系スキルを覚え、薬物が効かない体になってしまう。

 そのためその前に薬物の危険性をその身に叩き込む必要がある。これはそういった試験だ。


 ……せめて事前に説明してくれ、そう思ったが、なんとかその言葉を飲み込んでトラストは素材に手を伸ばす。


 まずは自分の状態を確認する。吐血、発熱、間接の痺れ、頭痛、腹痛、眩暈に嘔吐感。何が毒で引き起こされた症状で、何がその症状に付随して起こっているものなのか。正確に判断しなければならない。


(いや、こんなに早いなら解毒薬も即効性のあるものになる。なら、だいぶ絞れるか)


 ヒントでもある目の前の素材とアシュアムから受け取った教本を思い出す。これは理不尽な扱きや悪意の産物ではなく、ちゃんと勉強したことを活かせば達成できる試験だ。焦らず、自分の生命力を信じて素材とすり鉢に手を伸ばす。


「出来ました」

「正解だ。命の危険に動じないのはさすがだな」


 四十分後調薬が完了した。解毒はすぐに終わったので文句もないが、それ以上に気になることができた。


「アシュアムさん、一ついいでしょうか」

「いいぞ。どうした」

「この試験を受けたのって、俺は何人目ですか?」

「俺は師匠から受けさせられたから全体の正確な数は知らないが……俺が受けさせたのはお前が初めてだな。そもそも俺たちに弟子はお前が初めてだ」

(やっぱり)


 一か月前に会った時はトラストの無事を喜んでいた。その反面、今日はこちらの命を危険に晒してきた。恐らく信用しているというのもあるのだろうが、それ以上に弟子がいたことがなかったのだ。


(この先生たち俺を殺しに来るのが多かったけど、俺が一人目だったから加減を知らなかったのか。……まあ、怒ってるわけじゃないけど)


 納得して教えを受けた以上、命の危険に晒されるのは構わない。

 しかしそれが悪意や悪ふざけに起因するのでないと分かるのは、少し安心することだ。


「アシュアムからも認められたようだな。ではこれをやろう」


 奥の部屋から出てきたデーディーが古ぼけた長物を渡してくる。

 見た感じ錆びた剣だ。鞘まで錆びついており、率直に言ってゴミに見える。


「これは?」

「聖剣だ。俺が若いころに使っていた」


 聞き間違いかと思った。


「………………聖剣、ですか」

「ああ、たしか王都にはアウローラという聖剣使いがいたな。そいつのと同種の聖剣だ。俺が御使いを降ろして邪神を倒した時に使っていたものだが、俺はもう使わないからな。お前にやる。お前なら使えるはずだ」

「………………ありがとう、ございます」


 本当に受け取っていいのか、そもそもなぜそんなものを持っているのか。疑問が浮かぶが、先生が卒業の証としてくれるというのだ。ならば黙って受け取るのが礼儀だろう。

 何か貶めてやろうだとか、厄介ごとを押し付けてやろうだとか、そんな気配を感じないのもあるが。


「俺からはこれだな。古代語の辞書と古文書、それとマジックポーチだ」

「前半は嬉しいですけど、マジックポーチなら俺も持ってますよ?」

「格が違うんだよ、持ってみな。空間術者なら分かるはずだぞ」

「……確かに、広いというか、深い?ですね。俺じゃ使えません」


 トラストが使っている通常の虚空庫やマジックポーチが四桁の数字を組み合わせて開くならば、これは数字とアルファベットと文字を百二十八桁組み合わせなければ開けない。そんな格の違いを感じる。


「その中にはある証文が入っている。俺たちからすると捨てるしかないものだが、まあ、きっとお前には使い道があるものだ。俺がお前にやれるものは、それで全部だ」

「……ありがとうございます」


 トラストには、聖剣、古文書、謎の証文が与えられた。その価値を直ぐに実感することは出来ないが、目の前に二人はトラストには手が届かないほどの強者であり、そんな二人がくれものならば、実感できないのはトラストがまだ未熟だからであろ。

 ありがとうございます。それ以外の言葉を重ねることは失礼だろう。


「ほら、受け取ったならもう帰れ。今日は記念日だろう」

「記念日?何かの祝祭でしたっけ?」

「帰れば分かる。ボレトさんによろしくな」

「???分かりました。では改めて最後に、今までありがとうございました!」


 遠ざかっていくトラストを見ながら、デーディーとアシュアムは満足したような顔をして小屋に戻っていった。





「「「トラスト!十二歳のお誕生日おめでとう!」」」


 家に帰ると、ご馳走が並び家族が紙でできた花びらを散らしてきた。


「え、あ、……そっか。誕生日だった」

「もう、忘れちゃだめだよ。はいあーい」

「もがもが」


 トラストが呆けていると、アレナが肉を口に詰め込んでくる。

 とても美味しい。この一か月は親の手料理を毎日食べていたが、力を入れたのか格別だ。


「トラストもアレナも、今日を最後に家を出るからな。すこし早いが、祝杯をあげようじゃないか」

「もう、あなたったら。そんな寂しいことは言わないの。ほら二人とも、たくさん食べて大きくなるのよ。二人はいつまでも私たちの可愛い子供なんだから」

「はーい。ほらトラストも。早く部屋着に着替えてきなさい」

「う、うん!」


 その夜は今までも人生でも特に楽しく、嬉しい時間であり、家族と過ごす楽しい最後の時間だった。

これで王都編の終了です。次回からは学園編が始まります。

その前に人物紹介を挟みます。書きたかったけど書ききれなかった設定で今後出てこないであろうものは置いておきます。



なんだか序章がとんでもなく長くなっていますが、これからも連載していきますので今後ともよろしくお願いいたします。

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