表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
土塊の戦士  作者: ライブイ
2章 王都
27/38

第27話 酒場の喧騒

 冒険者ギルドは冒険者街とも呼ばれる南区に存在するが、冒険者街にある酒場や飲食店は夜遅くまで営業している店が多い。それは迷宮内にも偽りの昼夜が存在し、夜にしか出現しない魔物を狩猟対象にしている冒険者も存在することや、何らかのトラブルで地上への帰還が夜になることもある。そんな冒険者を客層にしているからだ。


 そしてそんな店に集まる冒険者は強者であることが多い。夜という人間が活動するのに向いていない時間帯に活動し、それを継続できるのは未熟な冒険者には出来ない。ユニークスキルや特別な装備を持っているわけではないが、皆が携えている鎧や武器には年季が伺え、それを持つ冒険者たちも駆け出しは一人もいない。

 とはいえ、そんな冒険者たちが集まる食事処というのも決しておしゃれなわけではなく、普通の酒場だ。椅子や机といった調度品は安物で、食事も量を優先した雑なもの。肉をただ焼いたもので十分うまいと言える人でなければ不満だろう。


 食事を酒で流し込み友人と馬鹿みたいに笑い合いことが目的の酒場には、様々な催しものがある。ボードゲームやカード、芸人や吟遊詩人たちが歌や踊りを披露するのが一般的だが、荒っぽい冒険者たちらしく喧嘩や賭け事をすることも多い。

 基本的に酒場では喧嘩が行われ、その勝敗に対象に賭け事が行われている。


「よし五十連勝!」

「うおぉぉーーー!!!またトラストの勝ちだ!」

「トラストの野郎また強くなってんな。今夜は大勝ちだ」

「誰か止めろ!このままじゃ大損だ!」


「百戦やって全勝、案外何とかなりそうだな」


 そして冒険者街の一角にある酒場では、トラストが喧嘩という名の賭け試合に参加していた。

 トラストが百人と戦い何人に勝てるかという賭け事だ。五十勝より上か下か、全勝か全敗か。そんな賭けを行っている。


「ふっふっふ、それじゃあ次は本命の俺様が……ぐぁぁぁぁ!!!!!」

「はい次!」


 悠々と大物ぶって現れた大男の言葉を最後まで聞かず、顔面を初手で殴り飛ばし一発で気絶させる。どこかで見た気がするが、名前は何だったかと考え、何でもいいやと次の相手を求めて声をかける。

 この酒場は小さいが、店の前で決闘を行っているため人が集まってきているため人影は絶えない。次から次へと挑戦者……というか、秩序だった乱入者が現れる。


「トラストのやつ、相変わらず狂暴だな」

「それよりこのまま続けるか?百人と戦って全勝、実は冗談だったんだが」

「まあ、あいつも異名に竜と呼ばれるだけあってその性格は温厚とはほど遠い。いま止めてもトラストは勝手に続けるだろ。それに賭け金を受け取っちまっだろ」


「次の相手は僕たちだ!」

「よし来た!……ってまだ子供か。二人同時でいいぞ」

「お、お前よりは年上だぞ!馬鹿にするな……ぐふっ!」

「そうだそうだ!僕たちが所属しているクランは……ぎゃふん!」


「よし九十九勝!最後は誰が俺と戦う!?」


 胴元たちが話し込んでいる間にトラストは順調に冒険者たちを殴り倒し、ついにあと一戦にまでなった。


 トラストは敬語を使い穏やかな性格であることが多いが、それは相手に合わせているからだ。

 常識的な人間であるトラストは、友人であっても冒険者以外の非戦闘員や一般人相手には丁寧だ。何か贔屓をしているわけではなく、冒険者同士なら気軽に殴ったり叩いたりするが、それが冒険者以外の文化にはないと理解している。一歩引いて会話をし、紳士的であることを心がけている。


 しかし冒険者同士ならトラストも本性……と言うと聞こえは悪いが、素の自分の言動や行動になる。

 トラストは【小竜】という異名で呼ばれている。それはトラストの戦いっぷりを見た冒険者が名付けたからだが、トラストの行動や言動がまさにその通りだったからこの異名が継続している。


 竜。それは強さの象徴でもあるが、同時に狂暴な生き物である。

 強靭な肉体に強固な鱗。翼で空を飛び爪は魔剣を超えるほど鋭く、口から吐く息吹は脆弱な生き物を死滅させるほど強力で、竜に生まれなかったものは首を垂れるしかない。神聖さする感じてしまう程の強力な生き物だ。

 始まりの竜である龍皇神リベツリリウスは大神の一柱として生まれた龍だが、龍の子孫たちは血縁が遠くなるほど魔物に堕ち知性の劣る竜となった。そんな竜を倒せるものは英雄であり、絶望と同時に畏怖を抱く試練の象徴だ。当然異名に竜の文字を関する者も同時に恐怖と畏怖を抱かせる類の強さを持っていることが多い。


 同時に恐怖の象徴なのは、竜は狂暴ない肝であり暴れるとその被害が甚大だからだ。少しずつ衰退していた国家が魔物の大群に滅ぼされることはよくある悲劇であるが、繁栄の絶頂期にあったはずの国が竜の怒りを買いに滅ぼされるなんて話は喜劇にしかならない。

 温厚とはほど多い狂暴な生き物、竜にはそんな側面もある。


 トラストが【小竜】と呼ばれることも同様だ。ダンジョンの中で魔物を相手に暴れまわる姿が獰猛な竜のようだとして竜の文字を冠するようになったが、それ以上にそんな異名が受け入れられたのは、トラストが非常に喧嘩っ早いからだ。


 酔っ払いに絡まれれば拳で殴り、因縁をつけて来たものには頭突きで沈め、噂を聞いて挑戦してきたものには堂々と倒す。

 そんな振る舞いを一年半も続けてきたトラストは冒険者たちから一目置かれると同時に凶暴さが知れ渡り、決闘を挑まれることも日常。その決闘も賭けにされることもよくあることだ。


「ようし!それじゃあ最後は俺が相手だ」


 しかし、今回は最後に挑んできた相手は格が違った。


「エリク!?まさかエリクがこんな酒場にいるとは驚いた。家族と一緒じゃないのか?」

「はっはっは。今日は他の冒険者たちと飲んでいたんだ。ちょうどお前が面白いことを開いていると聞いて駆けつけて来たのさ。俺からは逃げるか?」

「まさか。今日こそ勝たせてもらうよ」


 現れたのは大男。年齢は四十には届いていないだろうが、悪戯小僧の様な表情とは裏腹に凄みを感じさせ、その迫力を受けるものは本能的に格上だと感じてしまうだろう。身長は百八十程度と巨人とは言えないが、岩を削り出したような筋肉が全身を包み身長以上の大きさに錯覚させる。

 A級冒険者の名に見劣りしない、屈強な冒険者だ。


 トラストと並ぶと大人と子供、格上と格下に見える。

 実際間違いではない。トラストの等級はE級。等級以上の戦闘能力を一時的に発揮できるが、それでもB級冒険者に匹敵する程度だろう。経験も実力も、何もかもが格上だ。


「うっひゃー!エリクさんが来ちまった!これは九十九勝で終わりだな。お疲れー」

「い、いや。まだトラストが勝つかもしれないだろ!賭けはまだ終わってない!」

「いや無理だろ。いくら冒険者同士の決闘では武器や武技を使わないとはいえ、エリクさんとトラストじゃあさすがに差がありすぎる。せめてあと二十年はかかるだろ」


「おーい胴元たち!」

「ん?トラスト?どうした!ここまで来た逃げるのは許されねえぞー!」

「誰が逃げるか!新しく賭けをするぞ!金貨100枚を俺の勝利に賭ける!」

「まじで!?」


 トラストの強気の行動に酒場が盛り上がる。

 金貨100枚。この世界の物価に換算すれば百人を一年ほど養うことができる大金である。間違ってもポンと気軽に掛け金にしてよい金額ではない。


「まじか!まじでまじか!」

「あいつそこまで馬鹿なのか!?あいつじゃあエリクさんに勝てるはずがないぞ!?」

「いやでも、ここまでするからには勝機があるんじゃ……よ、よし!俺はトラストに賭けるぞ!」

「俺は堅実にエリクさんに賭けるか。ここで金を稼いで武器を買い替えよう」


 賭けに勝ったとしても一人一人に金貨100枚が入るわけではないが、それでもかなりの大金が入ると考え観客たちが色めきだす。冒険者はその瞬間を生きる性質があるため、賭け事はあくまで楽しむためだ。そのため胴元が大儲けすることは無く、賭けられた金は賭け金に応じて割合で分配される。

 賭け事に参加している人数を考えると、一人あたり金貨1枚か2枚といったところだろうか。たかが金貨1枚、ではない。十分な大金であり、貯金が出来ない冒険者たちにとっては高価なマジックアイテムや武器をより上質な武器に買い替えるチャンスだ。思いがけず降ってわいた幸運に盛り上がるのも当然だろう。


「金貨100枚とは随分と金持ちだな。俺に勝てると思っているのか?」

「勝つつもりだよ。だから十分だ」

「そうかそうか。金の使い方だけならすでに一流の冒険者だな」


 エリクとトラストは不敵に笑い、戦意を高めあう。たかが酒場の決闘とはいえ、負ける気はどちらにもない。


 因みに、トラストはちゃんと貯金をしているため学園への資金金貨2000枚は別に確保しているが、最近はアロマに授業料として大金を貢ぎ過ぎているため非常に金欠気味だ。ここで金貨100枚を失うと大急ぎで仕事を受けなければならなくなる。

 面白そうとか言って後先考えずに行動しているので、自業自得であるが。


 両者ともに構えを取り、エリクは上から、トラストは下から、拳をぶつけ合う。

 身体能力に任せたオーガやミノタウロスすら拳で粉砕する巨大な拳と、小柄な体だが十分な武術を身に着けた拳。両者がぶつかり合うと空気を揺らし周囲の建物まで揺れた。


「うおおおお!?どっちもつええぇぇ!」

「トラストも強気なだけあって食らいついてる」

「ふむ……エリクさんは【斧術】の達人だが【格闘術】はそこまでだからな。【格闘術】がメインのトラストの方が有利なんだろう」

「え?トラストって【格闘術】がメインなのか?俺は【剣術】と【水属性魔術】が得意って聞いたぞ」

「それよりこの酒場大丈夫か?壊れそうだけど」

「心配ない。すでに弁償してもらってある」

「壊れるのが前提かよ」


 観客たちも中堅以上の冒険者だけあって空気を揺らす拳のぶつかり合いにも怯えるものはいない。珍しい強者同士の決闘を楽しんでいる。


「勝つというだけあってそこそこやるな。前よりたしかに強くなってる」

「それはどうも。でも上から目線の助言は気にくわない!」

「はっはっは。負けん気が強くて結構だ!だが現にまだまだ俺の方が……うおっ!」


 打ち合う寸前で後ろに下がり拳を避け、次の瞬間トラストはエリクの軸足を蹴りで払う。まだ十一歳で身長も百十程度という背の低さを生かした戦い方だ。エリクも分かっていても足元でちょこまかと動き回われてはうまく避けることができない。


 お互いに全力が出せないが、街のルールの範囲では全力だ。


 上位の冒険者は山を砕き海を切り裂くような超人も存在するが、決闘は街中で行われるため加減が必要であり、具体的には武器も武技は禁止、使っていいのはパッシブスキルと一部のアクティブスキルのみ。街中で武器や武技など使ってしまえば死人が出る可能性が跳ね上がってしまうからだ。

 仮にA級冒険者同士が決闘し武技を使えば、余波で建物は崩れ街の形が変わり見物人は全滅してもおかしくない。場合によっては街の反対側にある貴族街や王城にまで武技がとどいてしまうだろう。


 そんなことになれば当然犯罪である。


 エリクはトラストよりも遥かに強いが、武器を持たない斧術師と格闘術もメインで使う何でも屋。能力値も十倍以上の差があるがその上で互角の戦いになっていた。


「いってぇ!トラストお前、その腕はどうした!皮膚の下に金属でも仕込んでんのか!頑丈すぎるぞ!?」

「あいにくと、俺の両腕は素で金属並みに硬くしたんだよ」

「はぁああ!!正気かお前!?」


 トラストにはユニークスキル【生命変換】がある。元は【闘気】という生命力を身体能力に変換するだけだったが、遠征に行った際に生命を効率的に変換できるようになった。

 そして変換できる先は、自分の体ならばなんにでも変換できることに気が付いた。


 これまで通り身体能力は勿論として、負傷した肉体に折れた骨、再生能力など何でもだ。

 そしてそれに気が付いた時、トラストはふと思いついた。

 「俺の両腕、キルニスの義肢みたいに出来ないかな」、と。


 キルニスに着けた義肢は日常生活に戻れる程度のマジックアイテムだが、その過程の実験で製作した義肢は戦闘にも使えるものがある。

 素材が金属であるため生身より頑丈であるのは当然として、表面や内部に術式を刻み結界作成や身体能力増強などの魔術を魔力を流すだけで発動できる。トラストはこれを自分の腕にしたいと考えていたのだ。


 人間の体というのは弱い。どれだけ能力値を上げ攻撃力が高くしても、本体である人体が脆いのだ。この世界の人間はステータスシステムのおかげで生き物としてありないほど成長し、その果てには巨人と生身で殴り合い、剣や弓といった原始的な装備でドラゴンさえ倒せるようになる。

 しかしそれは、人間という生き物が、生き物として変質しているわけではない。超人ならば生命力が上がったことで全身に血液を送る心臓を破壊されても一時間は死なないが、それは耐えられるだけで攻撃が効かなくなるわけではないのだ。皮膚はナイフで切れ、骨は事故の衝撃で砕け、体調の変化で内臓機能が低下する。

 ゲーム風に言えば、最大HPが上がるだけで防御力はゼロのままといったところだろうか。


 もちろんそれは人間として、生物として当たり前のことだ。亀や海老のような甲殻類でもなく、蜥蜴や蛇のような爬虫類でもない。そんな人間は盾や鎧といった防具を身に着けることで防御する。人間とはそういうもの、そういう生き物だ。

 他者と殴り合うのに腕の強度が足りないなら、ガントレットを装備する。それが普通である。

 

 しかしトラストは思った。腕そのものの強度を上げられるならそれが一番だと。

 本来は出来るわけがない上に出来たとしても自分自身に人体改造など誰もしないが、トラストはそれが出来るユニークスキルと、自作した義肢のマジックアイテムとしての機能を生身にもつけたいなという発想。

 そして、トラストの死に近づくのが好きだという感性と、それに付随して危険に対するブレーキが壊れていたことで人体改造に踏み切った。


 両腕を改造するだけでも成功率は片腕あたり三割。両腕なら一割にも満たない成功率。失敗すれば両腕の内部が破壊される。だが、失敗しても両腕も切り落として義肢にすればいいや。

 そんなトラストは緊張することもなく改造を進め。結果は成功。

 両腕は生身でありながら金属でもあるという特殊な性質を持つようになった。


 トラストは知らなかったが、それは神話の時代に神が人を作る時に使用した生命金属という者に非常に酷似しており、文字通り通常の人間とは一線を画すものだ。


「ユニークスキルで両腕を金属にしたってことか!?なんちゅうやつだ!」

「……まあ、だいたいあってるよ」


 特に隠すことでもないのでエリクに説明したが、残念ながらエリクは脳筋であり、あまり頭は良くないのでユニークスキルでなにかをしたとしか理解できなかったようだ。

 実際、ユニークスキルで過去の常識が覆されることは、稀によくあることであるのだが。


「なんにせよ驚いただけだ。それだけで俺に勝てるほど、俺は弱くないからな」

「わかってるよ!」


 エリクの言葉は正しく、エリクは非常に強かった。

 斧術師でありながら素手で戦っている時点でハンデをもらっているようなものだが、その上に両腕が金属であるため真っ向から打ち合うこともできるている。

 そう、ここまでトラストに有利な条件がそろっているのに、互角なのである。


 まだトラストは経験不足であることもそうだが、成長期前の子供であるためジョブ数の割には能力値が低い。

 対してエリクは歴戦のA級冒険者だ。経験したジョブ数は十を超え、能力値は最も高い生命力は50000、力も8000を超えており、およそ人外という言葉以外でしか表現できない領域だ。武術は能力値が低くても勝つためのものだが、トラストは能力値に百倍の差があっても勝てるほどの達人ではない。


「お前が強いのは分かっていたことだ。全力で行くぞ!」


 トラストは柔の格闘術の構えをとり、エリクに襲い掛かる。冒険者の決闘に明確な勝敗の基準は存在しない。気絶させれば確実だが、それを実力的に不可能だ。ならばエリクに参ったと言わせるか、周囲にどちらが格上か認めさせればいい。

 エリクの拳は強力だが、今のトラストならば耐えきれる。一発耐えて、背負い投げで酒場の中に放り込むのが狙いだ。


 しかし、そうはならなかった。


「よし来い!俺も全力で相手を……あ、すまん。時間切れだ」

「は?なにを……うわぁっ!」


 近づいてきたトラストを殴るのではなく、なんとエリクはつかみ上げ……そのまま酒場に放り込まれてしまった。

 あっけない決着に観客は言葉を失う。静寂の中エリクが賭けの胴元の人たちを見ると、審判代わりに彼らが決着を告げる。


「勝者エリク!エリクに賭けた奴は全員こっちにこい!」

「嘘だろトラスト!俺の金がぁぁああああ!!!!!」

「新しい魔剣を買うつもりだったのに、全部パーになっちまったぞこんちくしょう!」

「あれ、そういえばエリクのトラストの勝敗と百勝出来るかって別の賭けなのか。じゃあいいか」

「どっちも負けた……」

「しかしそうか、トラストにはああすればよかったのか」


 観客たちは一気に盛り上がるも取り戻し、酒を呷るのに戻る。中にはエリクとトラストの決闘を振り返るものもいる。


「ま、まけた……」


 トラスト自身も勝つつもりで戦っていたため、落ち込んでいた。逆さまに叩きつけられても起き上がる余裕もない。

 実は小柄であるトラストはその見た目通り非常に軽いため、持ち上げれば肉体労働者でも決闘に勝てるのである。

 当然生き死にがかかった戦いならそれだけで決着は決まらないし、トラストももう覚えたため二度目は食らうつもりはないが、なかなか残念な結果である。前向きなトラストでも少し落ち込んでしまう。


「まー楽しかったからいっか」


 そして一秒で起き上がった。だいたいなんでも好きなトラストは戦いそのものだけでなく敗北にも喜びを感じる。

 自分より強い人がいる。自分では思いつかない発想の人がいる。それだけで、まだまだ目指すべきもの、学ぶべきものがあるということなのだから。


「相変わらず前向きなことだな」

「おっ、リッケルトじゃん。いたなら声をかけてくれてもよかったのに……あれ、エリクは?」

「あっちだ。迎えが来ている」

「本当だ。あれって奥さんだっけか。斧術の稽古をして欲しかったけど、時間切れってそういう事か」


 飯を食べに酒場の席に戻ったトラストに、貴公子のような青年が話かけてくる。

 クラン「秩序の調べ」。一種の治外法権が働いており、衛兵も入ってこない冒険者街の治安維持をしているクランのメンバーだ。

 冒険者の取り締まり、すなわち極力怪我をさせずに拘束するのが通常業務なだけあってこのクランの実力は非常に高く。最もダンジョンの到達階層が深い獣王の後継に次ぐほどだ。メンバーも熟練の冒険者揃いだが、エリートという言葉を使いたくなるような比較的上品なものが多い。


 そんな中でも貴族の家に生まれながら家督を継げないため冒険者になった青年リッケルトは、疲れ切ったように揚げ物を酒で流し込んでいる。

 まだ二十代前半のはずだが、おっさんにしか見えない。


「去年エブリムたちが俺たちの到達階層を更新してから、俺たちをなめていうことを聞かなくなった冒険者が多くなってな。また地位回復のために動いていたから、疲れているんだ」

「もう一年も経つのにまだそんな奴らがいるのか?」

「馬鹿ってのは都合のいいように世の中を考えるからな。俺たちが二番目になったことで弱くなったと解釈して徒党を組んでいたんだ。その中でも商会と繋がっている奴らまでいて時間がかかってしまった。……もとより、秩序の維持なんてしてる俺たちを良く思っていないやつらも多いしな」

「はーんお疲れ」


「……よくわかってないだろう、お前。いいよなお前は。ひたすら好き勝手暴れまわってその影響で陰謀好きの恨みを買っても、なーんにも気にせず暴れ続けるんだから。どうだ?俺たちのクランで社会という者を学んでみないか?貴族や商人相手に話術でも戦いが経験できるぞ」

「俺は拳を振るっているほうが好きなので遠慮するー。代わりにビールに氷をプレゼントだ」

「感謝する」


 その後はしばらく揚げ物を食べながらぐだぐだと中身のない会話を続け、夜が更ける前に酔いつぶれたリッケルトを放置してトラストは帰宅した。

主人公を強化するイベントがあったはずだけどなかなか出来ないからプロットを組み直したらさらに遠のいた。

しばらく序章が続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ