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土塊の戦士  作者: ライブイ
2章 王都
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第24話 引きこもり

 A級ダンジョン「地獄の宮殿」は王都トラビアの南側の地区に存在し、南側の地区は別名冒険者地区と呼ばれている。冒険者地区には冒険者ギルドや冒険者向けの武器屋や魔道具店、宿屋などが乱立し冒険者たちが必要なものはすべて揃う充実した地区になっている。


 そんな冒険者たちが集う冒険者地区は、基本的に安っぽく治安が悪い。冒険者は英雄譚や伝説で謳われるような華々しい活躍を残すものもいるため街で暮らす貴族や平民がなることもあるが、基本的には食い詰めた農民の子供や運のいい貧民が大半を占める。地球で言えば中世のようなこの世界の法律で犯罪に当たることはしないが、基本的に冒険者は荒くれ者で喧嘩っ早く暴力的だ。

 頻繁に椅子やテーブル、家まで壊すため町全体で安物が使われ、個人主義が強い上に個人の戦闘力が高いせいで衛兵もあまり干渉しない。冒険者地区では有志の冒険者が治安維持までしており、半ば独立した自治区のようになっている。


 そんな冒険者地区にも上級冒険者たちの住居も存在している。A級やB級の上級冒険者と言われる者たちは超人だ。生まれが農民の三男や貧民街で育った捨て子でも関係なく、豪邸を購入し使用人も雇い、冒険者ギルドの美人な受付嬢と結婚するというサクセスストーリーを打ち立てているものが多く、小国ならば国一番の冒険者であることも珍しくない成功者だ。資産は小規模の領地を持つ程度の貴族を遥かに上回り、英雄と言われる者も多い。

 上級冒険者たちも住居は冒険者地区にあるが、その住居はマジックアイテムや高価な家具が多くそろえてあり、治安の悪い冒険者地区にありながら豪邸や上品や家が立ち並ぶ別世界のような景色になっている。


 そんな上級冒険者たちの居住地に、荒くれ者である冒険者の自宅とは思えないほど綺麗で上品な家がある。

 冒険者クラン「獣王の後継」リーダー、エブリムの住居だ。多くのクラン所属の冒険者は専用の拠点に寮を併設し住んでいるが、彼は家族3人で小さな家に住んでいる。


「アリサ~、もう朝ごはん出来てるわよ」

「ふぁ~~~い……」


 2階の自室から娘でありクランリーダーの後継者でもあるアリサが降りてくる。

 アリサはトラストよりも幼い10歳の少女でありながらトラストをして勝てないほどの才能と経験を持つ実力者だが、寝起きで髪が乱れ目も虚ろ、今は年相応の迫力だ。


「アリサ、今日はお前に頼みがある」

「……ふぁい?お父さんが私に?」

「ああ、俺よりアリサの方が適任だろう」


 朝の食卓でアリサはエブリムから頼み事をされる。ここヒブムライン王国にとどまらず大陸でも最大規模のクランのリーダーであり、エブリム自身もA級冒険者、出来ないことを探す方が難しいだろうに。


「トラストが最近姿を見せないんだ、自宅まで様子を見てきてほしい」

「ええ……あいつの?」


 あり得るとすればお母さんになにかやらかしたのだろうか、そんなことを考えていたアリサだが嫌な名前を聞いて眉にしわがよる。


「三か月前に風を追う万刃というクランが上層に到達したことは教えたな。覚えているか?」

「ええもちろん、50層にユニークボスが出たなんて珍しいからよく覚えているわ」

「その遠征で死人が出たらしいんだが、その時死んだのはトラストの知り合いらしくてな。それから三か月、一度も冒険者ギルドに姿を見せていないんだ」

「なっ……あいつ!知り合いが死んだ程度で落ち込んでるの!?ふざけるんじゃないわよ!!」


 話を聞いたアリサは沸騰したように激怒し、拳を握りして勢いよく立ち上がる。


「落ち着きなさい、アリサ。朝ごはんがこぼれるわ」

「落ち着いてなんかいられないわ!あいつ、私に傷を付けておきながら冒険者を止めるつもりじゃないでしょうね!勝ち逃げなんてふざけるんじゃないわよ!」


 気炎を吐くように怒りの声を上げ続けるアリサ、その表情には怒りを張り付け鬼のようだ。


 冒険者は10歳から登録できるが、成人する前に冒険者になると優秀な者ほど早くに辞めてしまうというジンクスがある。

 天才的な才能を持ちメキメキと力を付け、将来の英雄と言われるような冒険者は多く存在するが、その大半は幼いまま冒険者を止めてしまう。

 それは友人の死に耐えられないからだ。


 大抵の冒険者はパーティーを組む。5人前後の集団でダンジョンや魔境に潜り探索するが、天才的な才能を持つ優秀な一人がリーダーとなり、そんな天才の自分を基準に方針を決めて行動し、結果自分以外は全滅。そんな出来事に耐え切れず冒険者を止めてしまうことが多いのだ。

 今回の場合はトラストのパーティーメンバーでは無くトラストが方針を決めたわけでもない。しかし知人を同じ探索で失うというのは同じ程度にはショックな出来事だ。


「アリサがそこまで感情的になるのは珍しいな。そんなに思い入れがあるなら引き受けてくれるか?優秀な冒険者が大成するまえに引退するのは避けたいことだ」

「……そんな情けない奴、知ったことじゃないわ」


 しかし、知人を失うなど冒険者をやっていればよくあることだ。

 アリサは自分が天才であることも飛びぬけて優秀なことも自覚しており、そんな自分に傷を付けたトラストのこともトラスト以上に評価している。

 そんなトラストが「探索中に知人が死んで怖くなったから」なんてよくある理由で冒険者を引退するなど、直視したくないことだ。


「そうなの、残念ね……もしアリサがトラスト君を引き戻せたら、心が強いと認めてD級冒険者の昇級試験を受けてもいいと言おうと思っていたのだけど……本当に残念ね」

「……本当!?」


 今まで禁止していたD級冒険者への昇級試験を受けてもいい、その言葉にアリサの目の色が変わる。


 アリサは現在E級冒険者だ。戦闘力を考えれば低すぎるが、それには理由がある。

 D級冒険者からは、仕事で人を殺せる必要があるのだ。


 D級からは昇級に試験が存在する。試験はギルド職員による面接と、人間を討伐対象にした依頼を達成できるかの実践試験だ。

 D級からは山賊や海賊、盗賊といった賞金首の人間の討伐や捕縛を目的とした依頼や商人の護衛といった人と戦闘になりうる依頼があるため、人を殺せること、人を殺しても倫理観を失わないことが求められる。


 これは人間であれば誰であれ大きな壁となるが、子供であればさらに困難な壁だ。天才的な戦闘の才能があったとしても、心の強さは経験でしか成長しない。

 子供でありながら冒険者という不安定で血生臭い仕事につく者は大抵夢見がちだ。邪悪な魔術師を倒してお姫様を救う話や、魔物の大群を撃退して街を救う話。そういった英雄に自分もなりたいと夢を見て冒険者になる。

 そんな子供たちにとって、金銭と引き換えに仕事で人を殺すという現実は耐えがたいものだ。これが大抵の冒険者ならばD級に昇格するのは20代の半ばなので現実に折り合いをつけているが、天才すぎて10代前半でD級に昇格しようとすると、現実と折り合いを付けられず、心が折れてしまい冒険者を止めてしまうのだ。


 トラストのように「命の危機を感じられて興奮する」などというとち狂った考えで冒険者をしているものはごく一部だ。


 アリサも一人前の冒険者以上の戦闘能力を持つが、まだ9歳の子供。心の強さという目に見えないものを信じるには早いだろう。そう両親は考えていた。


「じゃあ、引き受けてくれるわね?」

「ううっ……分かったわよ」


 しかしいつまでもそんなことは言っていられない。冒険者をしていれば仕事で人を殺すのは早いか遅いかの違いであり、娘も出来ると言っている。ならば信じてみよう。


 そんな両親の気持ちが伝わってのかは定かではないが、アリサは頷き、トラストの自宅に向かうことになった。





「よかったわね、引き受けてくれて」

「ああ、トラストなら、アリサのいい友人になってくれるだろうからな。ここで引退されるのは惜しい」


 アリサを見送った後、アリサの両親は一息つくように話し合っていた。


 アリサは優秀な冒険者だ。5歳の時には剣を持ち、獣人としての恵まれた身体能力を生かして戦いすでに最前線で活躍できる。


 しかしそれゆえに常にダンジョンに潜っており、趣味らしい趣味もなく同年代の友人は一人もいない。積極的にダンジョンに潜り、それ以外の時間はスキルを磨くことに時間を費やす。

 冒険者の先人としては非常に理想的だと喝采を送りたいが、娘を持つ1人の親としては非常に心配だ。


 エブリム自身、ダンジョンに潜っていないときは同じクランのメンバーと酒場に行ったり遊びに行ったりと、常に探索に明け暮れているわけではない。肩の力を抜き冒険者であることも忘れることも大切だが、アリサはそれを理解していない。

 9歳という幼さで大人を上回る力を持つアリサは、個性が強く例外的な超人も多い冒険者の中でも異質だ。大人より強い子供というだけならそれなりに居るが、アリサは単独でランク6の魔物を倒すという一人前以上の冒険者に匹敵する活躍をしている。アリサの年齢を考えれば匹敵するものを見つけるには歴史を紐解く必要があるだろう。

 それゆえに半ば諦めていたが、歳も実力も近いトラストが現れたことで考えが変わった。もしかしたらアリサにも一人は友人が出来るかもしれないと。


「天才は孤独とはいうが、俺たちの可愛い娘だ」

「そうね。あの子も、自分が孤独だと気づいてからでは遅いもの」


 この時の二人の顔は、冒険者の先人ではなく幼い娘を持つ親の物だった。





「ここがあいつの家ね。……結構ぼろいわね」


 ぼろくはない。標準である。


 A級冒険者を両親に持つアリサは上流階級の人間と言える。家中にマジックアイテムがあり暖房冷房湿度管理が完璧。使用人こそいないが皿洗いや家や風呂の掃除などなど全てマジックアイテムで解決しているため、トラストの住んでいる一般人が住むような普通の家は物珍しく映る。


「しかし、なんて声を賭けたらいいのかしら」


 とりあえず言われた場所まで来てみたが、精神的に参っている人間のメンタルケアなどしたことがない。クランメンバーのみんなはすでに一人前の冒険者であるため身近に精神的に参ってしまった人は居なかった。

 アリサは扉の前でうろうろと右往左往している。手には手土産に果物があるが、病人と言えば果物の差し入れじゃない?という安直な考えで買ってきたため自信の拠り所としては頼りない。

 私の方が年が近いからとか言っていたが、お父さんの方が声をかけるのに向いているんじゃない?そんな逃げるようなことまで考えてしまう。


「まあいいわ。とりあえず入りましょう。弱っちいおにいさーん!いるかしらー!」


 しばらく迷った後、うじうじと悩むのは自分らしくないと大声を上げ扉をたたく。

 アリサにとってトラストは同年代で初めて自分に傷をつけた男だ。本人は自己評価が異様に低いため否定するだろうが、【獣化】を使い原種としての力を使っても、おそらくトラストが最後には勝利していただろう。それほどにアリサはトラストに高く見ている。


 トラストが精神的に参ってふさぎ込むなど考えていなかったが、冒険者らしく殴れば元気になるだろう。なんなら出合い頭に一発引っ叩いてやれば激情して陰鬱な感情など吹き飛ぶかもしれない。

 それがいい。これでいこう。


「……あの、お客さんですか」


 しかし、出てきたのは見知らぬ少女だった。

 頭部以外肌の露出が一切ない使用人の服装をしたアリサよりも幼い少女。か細い声で囁くように喋ったのはこの子だろうか。


 トラストが出てくるとしか思っていなかったため、アリサは一瞬時が止まる。


「えーっと……ここってトラストって人の家であってるかしら?」

「はい……ご主人様のご友人でしょうか……?」

「ご主人様…………?」


 おかしい。聞いた話によるとあいつは姉との二人暮らし、使用人などいないはず。

 というか、知人の死にふさぎ込んでいるのではなかったのか。


「邪魔するわね。これお土産」

「へっ!?あああああああのあのあの、勝手に入られるのは困ります……!!!」


 突撃だ。


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