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土塊の戦士  作者: ライブイ
1章 田舎の町
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第1話 戦士の始まり

 今日はトラストの十歳の誕生日、人生初の【転職】の日だ。

 両親と姉と共に教会に訪れていた。


「お姉ちゃん!お姉ちゃん!転職だよ転職!速く速く!」

「もう……そんなに急がなくても転職結晶は逃げないわよ」


 転職とはジョブチェンジとも呼ばれ、ステータスを持つ人間たちが転職結晶を使い新しいジョブに就くことだ。

 生まれた時は【無職】と表記されるが、転職することで最初は【見習い戦士】、続いて【戦士】、【剣士】、【魔剣士】と上位のジョブに就くことができる。就いたジョブに応じて人間は能力値やスキル習得に補正を受け成長し、魔物と戦うのだ。


 【無職】のものはあらゆることで経験値が入りだいたい十歳程度でレベルが100になる。国によって異なるが、トラストたちの住む国では道徳を学ぶ期間も考慮し十歳で初めて転職するのが一般的だ。


 レベルが100になれば【機織り士】から【兵士】になることも、【暗殺者】から【料理人】になることも可能だが、一度就いたジョブは変更できない。一生に影響するため転職は重大な人生の分岐路だ。


「それでトラスト、本当にあのジョブに就くの?変える気は無いの?」

「もちろんだよ母さん!俺は【見習い戦士】に就くよ!将来は騎士になってお姉ちゃんを守るんだ!」


 トラストの言葉に両親は困ったような顔をする。

 この世界では冒険者や騎士といった魔物や人間を相手に殺し合う職業は一般的なものであり忌避されていないが、親としてはやはり心配なのだ。


「まだ言ってる。ちっちゃいあんたに騎士なんて無理に決まっているでしょ。第一騎士になるような人は最初から【見習い騎士】に就くそうじゃない。おとなしく【見習い職人】か【見習い狩人】あたりにしておいた方が安全よ。……あ、表示されたら私と同じ【神官見習い】にしなさいよ」

「む~~なるったらなるの!」


 トラストは十歳の少年だが、その背丈は一メートル程度しかない。加えて腕もぷにぷにしており同い年の子供と喧嘩をしても負けそうだ。

 ジョブはそれまでの行動で発現するため、今まで剣を振るったり筋トレをしているトラストは【見習い戦士】に就くことなら可能だろうが、才能は全く感じられず姉のアレナは賛成出来かねているようだ。


「まあ、あの子の人生だ。僕たちはあの子が元気に生きていけるように、いざという時まで見守ってあげていようか」


 トラストが走って転職室に行く後姿を、父親は穏やかな顔で見つめていた。





「神父さん!転職室お借りします!」

「はいどうぞ」


 案内してくれた神父にお礼を言い、トラストは転職室に入り転職結晶に向かい合う。

 転職結晶というが、正確には部屋を含めて特殊なマジックアイテムになっているため部屋には一人で入る必要があるのだ。


 部屋の床壁天井すべてに魔方陣がかかれ、その中央に台座とそこに安置された丸い水晶球があるだけだ。魔方陣と水晶球は淡く輝いており、神秘的な雰囲気だ。


「えーと……この魔方陣の真ん中に立って、水晶球に手をかざすんだよな……」


 トラストは親から教わった通りに行動する。

 通常ならば、その後は頭の中に転職可能なジョブが表示される。その中から就きたいジョブを考えるだけで転職は完了だ。


 通常ならば


「いたっ!」


 本来ならばありえないことに、トラストに激痛が襲う。

 想像上の胸の中心、もしくは魂というべき何かにひびが入ったことを直感的に理解した。

 

「トラスト!?どうした!?」


 どさりと倒れる音と、それを聞き付けた両親が入ってくる足音。

 しかしトラストの意識は急速に落ちていった。





「あなた……いったいトラストに何があったのかしら……転職中に倒れるなんて聞いたことがないわ」

「ジョブは魂に刻み込まれるものだが、痛みはないからな……神父様は高熱があるため病気の可能性もあると言っていたが……いや、私たちが不安要素を挙げていても仕方ない。トラストが起きたら何が有ったか聞いてみよう。あの子が大丈夫といえば大丈夫、どこかが痛いと言えば治療院に行ってみよう」


 親同士が不安そうに顔を付き合わせている中、姉のアレナは一人居間を抜け出しトラストの寝ている寝室に向かう。顔を苦しそうに歪めているトラストの手を不安そうに握る。


「トラスト……もう意地悪なんて言わないから目を覚まして」


 アレナのせいではないが、アレナは自分を責めるように呟いていた。

 まだ子供であるアレナは両親より心が弱っていた。

 まだ十二歳と幼いため親しい人間と死別したことは勿論、病気でとこに伏すこともなかった。トラストの姿に憔悴してしまっていた。


 自分を責める以外にできることが無いのだ。そして自分を責めて罰するほどに心配しているのだ。


「うっうぅぅ……」


 だがそんなアレナの望み添えず、トラストの熱は下がらず痛みを訴えるようなうめき声が続く。


 そんな中、トラストは奇妙な夢を見ていた。


 知らない場所で過ごした、知らない人間の人生。知らないものに、知らない人。知らない食べ物に知らない匂い。知らない音に知らない知識。

 何一つとして知らないはずなのに、何故か知っている世界。

 そんな世界で過ごした一人の人間の夢を見ていた。


 その人物は、普通の人間だった。

どこにでもいるようなだれかで、歴史に名を遺す偉人でも悪人でも愚者でもない。友人知人だけが知ってる、人間社会を構成する歯車の一つ。

 普通の家で生まれ、普通に育ち、普通に老いた。

 

 そして当然のように年老いて、死んだ。


「うわああああ!!!!!!!」


 夢を見終わったトラスト、泣き叫ぶように悲鳴を上げながら覚醒した。


「トラスト!?目が覚めたのね!」


 手を握っていたアレナはトラストの突然の覚醒に驚くが、喜び抱きしめる。

 ほんの一日だが、子供には長すぎる別れだった。原因不明の病気ならばなおさらだろう。


「……トラスト?どうしたの?」


 しかし、すぐに様子がおかしいことに気が付いた。


 ベッドがぐちゃぐちゃになるほど汗をかき、脱水で指先はしわしわ。丸一日寝ていたため体も草臥れている。高熱で寝込んでいたのだから当然だ。

しかし、そんなことを感じさせないほど、トラストの顔は恐怖に染まっていた。


 死にたくない、死にたくない。

 トラストは恐怖に顔を染めながら、延々と死にたくないと呟いていた。





「本当に大丈夫なのか?トラスト」

「そうよ。昨晩まであんなに魘されていたのに、治療院に行かなくて大丈夫?」

「なんで倒れたのかも分からないのに……」

「ありがとう。お父さん、お母さん、お姉ちゃん。でも本当に大丈夫だよ。じゃあ転職してくるね」


 トラストはその眼に、昨日よりも少し大人びた光を宿して転職部屋に入っていった。


「さて、今日こそ転職するぞ」


 機能と同じように水晶に触れると、ステータスを開く時と同じように脳裏に文字が表示された。


《 選択可能ジョブ【見習い戦士】【見習い職人】 》


 表示されたジョブはこの世界の住民の大半が表示されるものと同じだったが、予想していたため驚くことは無い。

 そして悩むこともない。不思議な夢を見たとはいえ、トラストの夢は変わっていないのだから。


「【見習い戦士】を選択」

 職人になる気は無い。騎士になると決めたのだから。


 ジョブを選択すると、脳裏に浮かんでいた文字から【見習い職人】が消え、【見習い戦士】が中心に表示される。

 そして胸の奥が燃えるような感覚を覚えた。


「……すごい。これが転職か」


 思わず声に出るほど力が沸きあがっていた。

 生き物として一つ上の次元に進化したような全能感に包まれるようだ。


《 【筋力強化】スキルを獲得しました 》


 脳裏にアナウンスが響く。

 転職し補正がかかると、今までレベルが上がらなかったスキルが上がったり、獲得できなかったスキルを獲得できると聞いていたが、本当だったようだ。


「いよぉし!ここからだ」


 トラストは目に宿った黒い光を輝かせて、気合を入れるように叫んだ。


・名前:トラスト

・種族:人種

・年齢:10歳

・称号:無し

・ジョブ:見習い戦士

・レベル:0

・ジョブ履歴:無し

・能力値

生命力:10

魔力 :10

力  :4

敏捷 :3

体力 :5

知力 :3


・パッシブスキル

筋力強化:1Lv


・アクティブスキル

無し


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