能力者との闘い、生きるとは何か
彼は一体何者なんだ。
あの時の殺気、攻撃は本物だった。
「能力の発動時、すぐ頭上の街灯が一瞬強く光ったかと思うと、音を立てて割れてた。おそらく彼は電撃系の技の一種だと思うの。」
ミサキは涙ぐんだ状態でそうつぶやく。
そうかやはり電撃系の技だったのか。あの焼け焦げた人は広範囲に電撃を浴びせて、その電流が流れた時に生じるジュール熱で焼けたのだろう。そう考えると、止まった世界では、人は地面に接している上、動かない。人混みが多い場所で能力を発動すると、電流で一瞬で多くの人の命を奪うことができる。
だと、するとなぜ僕に攻撃は当たらなかったのだろうか。純粋に広範囲の無差別攻撃であるならば、僕とミサキがあの不良高校生に近い状態では必ず当たるはずだ。
何かあの能力には弱点がある。偶然にもその弱点を突いたのではなかろうか。
そうこうしているうちに彼を止めなくてはならない。彼が無差別に人を殺しまわるだろう。
そして、そのことにより能力の質を上げて対処が難しくなる。止まった世界のルールでは、殺した人間の数や質で能力の向上が見込まれるから。
そういえば、自分も能力があるはずだ。数字は2位の能力なので強力なはずだ。
自分の手の甲に刻まれた2の数字をにらんで力んでみる。しかし、何も起こったようには思えない。
「ねえ!浮いてる!」
ミサキは驚いた口調で言っている。よく見ると3cmほど足の裏が浮いていたのだ。あまりの自然な浮き方に気がつかなかったが、どうやら僕の能力は空中浮遊のようだ。それもわずか3cmだけ浮かぶだけの。
やはり僕はそんなに報われることはないんだなって思う。一瞬2位の能力ということで、内心舞い上がっていた節もあったのだが、現実はそうは甘くない。数字は所詮数字でしかなく、僕には僕に見合った能力しか与えられないのだろう。ここに隠れていてもいずれあの金髪高校生に見つかる。僕には戦う力は何もない。大人しく殺されよう。僕はそもそも死ぬ気だった。
そんなことを考えているとき、隣からミサキが手を握ってきた。その手は柔らかくほんのりと暖かった。僕の右手を両手で包むようにミサキ。彼女は何も言わなくても温もりや優しさが伝わってきた。
するとミサキの身長が少しだけ高くなったように思えた。足元を見るとミサキも僕の能力で3cmだけ浮いているらしい。
「ふふふ」僕はなんだか少しおかしくなって笑った。ああ、これが生きるってことなのか。
ドッカーーン!!
「見つけたぞ。さあ死んでもらおうか」
不良高校生に隠れ場所を特定されてしまった。もしかすると、電気をそこら中に攻撃していたのは、電気を流してレーダー探知機のように使っていたのかもしれない。
僕は生きるのか死ぬのかどうでもいいけど、ミサキだけはまた死なせたくない。
「うおおおおおおお!」3cm浮いた空中浮遊をバネにして、高校生に飛び掛かった。
「しね」
金髪高校生は髪をバチバチさせながら、電撃を浴びせてくる…はずだった。「なぜ当たらねぇんだ!」彼は苛立ち交じりにいうが
僕にも分からない。でも立ち向かうしかない。空中浮遊のバネと、浮くことで加速度がついた猛烈なパンチを高校生に食らわせた。高校生は車庫の奥に吹きとび、そのまま失神していた。勝負は一瞬でついた。
ただの空中浮遊がそんなに強かったとは。よく考えてみると、不良高校生の攻撃は必ず地面から電流を流していた。僕は宙に浮いているのでその電流は当たらない。そして、空中浮遊の浮遊する力をバネにすることと、地面との摩擦を0にすることで、思いっきりのパンチを相手に食らわせることができる。
無力な能力かと思っていたが、とんでもない。あの高校生に対しては最適解の能力だったんだ。
ミサキは大丈夫かと後ろを振り向くと、ミサキが3cm宙に浮いていて安心した。電撃も浴びていないし、けがもないようだ。
一度発動した能力はしばらくの間、継続するらしい。
「良かった」
すると、ミサキは瓦礫の方へ歩いていき、その中から先の尖った金属棒を取り出した。
そのまま、先ほどの失神した不良高校生のところへ行くと、迷いもなく金属棒を心臓に突き刺した。
「ぐぇ!!」
そう一言いうと金髪高校生はピクリとも動かなくなった。
僕はその様子を唖然として見ていた。
「…どうして」
「ダメだよ。ちゃんと殺さないと。自分が生きるためならば、他者の命を奪うことも正当な行為だよ。私は君には少しでも生きていて欲しいから殺したの。ねえ順位は上がった?」
「それこそダメだ。自分のために他者を犠牲にすることは正当化できない。自分を犠牲にして他者を尊重するならまだしも…」
「それだから、君は自殺するんだよ。今回のデスゲームに巻き込まれて自殺できなかったんだから、今回は生きようと努力してみようよ!それに彼も自殺志願者みたいだったし。」
金属の尖った棒で、不良高校生の長袖をまくりあげる。そこには大量の注射痕が残っていた。きっと薬物中毒者だ。
「君には生きて欲しい。たとえほかの誰が死んだとしても。そのために、このデスゲームは開かれたんだよ、きっと。」
ミサキはそう言い笑った。
自殺しようとしていた僕には何が正しくて、何が正しくないのか分からなかった。