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卑屈な令嬢の転落人生   作者: 夕鈴
番外編

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30/32

第一王子と婚約者 

婚約が決まってからシャーロットと第一王子はモール公爵の計らいで共にいる時間が増え、王宮で同じ授業をうけ、社交も共にこなしていた。


第一王子とシャーロットは近隣の安全な場所への視察は一緒に組まれていた。微笑み合いながら寄り添う美少年と美少女を民達はうっとりと眺める。年下の婚約者を気遣う優しい王子と淑やかに寄り添う未来の王妃に明るい未来を思い描く。

伯爵領に視察に訪問していた二人に伯爵が花束を渡した。


「美しい未来の妃殿下にこちらを献上させてください。」

「ありがたくいただこう」


第一王子の視線を受けてシャーロットに贈られた花束を近衛騎士が安全確認し第一王子に渡した。

花束を受け取った第一王子は花の甘い香りにぼんやりとして花を見つめていた。いつもすぐに花束を渡す第一王子の不審な様子にシャーロットは警戒心を隠して微笑みを浮かべ小首を傾げる。


「殿下?」


花束を見つめ、かすかに頬を染める姿にシャーロットは寒気がしたが震えを堪える。第一王子がおかしいなら自分が乗り切らないといけないと気合いを入れ笑みを浮かべる。


「美しい花束をありがとうございます。」

「殿下はモール様に夢中ですね。花は無粋でしたか」


伯爵は人前で花束を婚約者に渡せない初心な王子を微笑ましく見ていた。シャーロットの策は一つだけ。


「大変嬉しく思います。ですが・・」


シャーロットの恥じらう姿に伯爵は優しく微笑む。


「お二人の邪魔は本意ではありません。しばし席を外しましょう。」

「ご配慮ありがとうございます」


立ち去る伯爵をシャーロットは笑みを浮かべて見送り、騎士に離れるように視線を送り、会話の聞こえない距離に控えさせる。二人は密談を良くするので騎士達も慣れていた。


「殿下?」


花束を見てぼんやりしている第一王子をシャーロットはじっと見て花束を取り上げる。ずっとぼんやりしている第一王子を見て、シャーロットは王宮に帰り医師の手配を決めた。危険物には近づかないと教えを受けているシャーロットの決断は早かった。第一王子が花束を受け取り様子がおかしくなったので、シャーロットは花束を気に入ったフリをして王宮に持ち帰り調べるように近衛騎士に預け帰参の手配を整える。第一王子の手を取り、エスコートされているように装い伯爵に挨拶をして馬車に乗り込む。シャーロット以外にはいつもと同じ表情に見える第一王子の変化に気づいていない。

馬車に乗り込むと、第一王子はシャーロットをぼんやり見つめながら腕を引いて抱き寄せる。シャーロットは自身の首に顔を埋める第一王子に寒気がした。


「殿下?」

「甘い香りがたまらん」


シャーロットは香水を贈られたのを思い出した。ポケットから瓶を取り出し蓋を開けると第一王子の目がさらに虚ろになる。

第一王子は甘い香りにうっとりと微笑んだ。シャーロットは蓋を閉じて、毒として調べさせることにした。後宮に帰るまでは第一王子が毒に狂ったとは悟られるわけにはいかない。毒の耐性を持っているシャーロットも第一王子もどんな毒も効かないと認識させていた。婚約者同士が親しく見せるのは良い事と教わっていたシャーロットはヒノト達にじゃれつかれてると思い好きにさせ思考を巡らす。

シャーロットは第一王子と一緒の時は戦闘モードのため卑屈にも弱気にもならない。無意識に鉄壁の貴族の仮面を被れたが今回だけは別だった。シャーロットにとって気持ち悪い顔と仕草の第一王子に引きながらも王族の婚約者として役割を果たす。

王宮が近づき、シャーロットは抱きしめられたまま歩くのは避けたい。シャーロットの貴族としての体裁、王子の王族として威厳の問題もあり、ため息を零し最終手段を選んだ。


「殿下、王妃様に会いにいきましょう。抱き上げてくださいませ」

「ああ」


素直に頷く第一王子は気持ち悪くてもシャーロットは笑みを浮かべる。

うっとり笑う第一王子に抱き上げられて帰参したシャーロットを王弟と王妃が迎えた。


「シャーロット、どうしたの?」

「人払いと医師の手配をお願いします。」


人払いされた部屋で香水と花束でおかしくなった第一王子が調べられた。シャーロットは湯あみをして体の香水を落とした。花束も香水も毒物は検出されなかった。

第一王子はシクラメンの花束を受けとった以降の記憶はない。香水から検出されたのはシクラメンのエキスだった。

それから、シャーロット達のシクラメンを排除する生活が始まる。第一王子は自覚はなくても王妃とシャーロットに厳しく言われ従った。

王家の秘密の一つは第一王子の最大の弱点はシクラメン、次点は酒ということである。

第一王子は酒に弱かった。

酒に慣れさせるために様々な試しみも無駄に終わる。そのため、第一王子よりは酒に強いシャーロットが第一王子の分も飲み王族以外に知られないように気をつけていた。王族の弱点は国家機密である。

1杯のグラスワインを二口飲み、残りをシャーロットに渡す第一王子の様子を周囲は酒の弱いシャーロットを第一王子が気遣っていると思っていた。

第一王子は酔うと横暴になり、酔いが醒めると記憶がなくなるためいつも隣でシャーロットが飲む量を管理していた。


「殿下」


シャーロットの諫めるための柔らかい笑みを見た第一王子は頷く。二人は言葉でのやり取りはせず、いつも視線と笑みでのやり取りだった。


「もうやめにするか。帰る」

「かしこまりました」


ほのかに頬を染めたシャーロットと第一王子が微笑み合い、退席する姿を貴族達は温かく見つめていた。国王夫妻より仲睦まじい様子に二人が仲が悪いことに気付いている者はほとんどいなかった。


***

シャーロットと第一王子は視察のため訪問した伯爵邸でもてなされていた。シャーロットは晩餐の料理の多さに困惑していた。


「殿下、どうぞ」


笑みを浮かべて隣に座る第一王子に食べさせる。


「お好きなお味でしょう?」


第一王子は笑みを浮かべて首を小さく傾げるシャーロットの思惑に気付き頷く。

普段は慎み深いのに、時々距離が近くなり恋人同士のやり取りを窘める貴族はいなかった。王族とはいえ子供の王子が婚約者と愛を育む邪魔をする無粋な者はいない。整った容姿で絵になる二人の外見の所為もあるが。

シャーロットも第一王子も外見や年齢など全てを利用した魅せ方を知っている。二人で手を取り合って化け物の巣窟でいずれ頂点を目指さないといけなかった。

晩餐が終わり、王子は散歩を勧められたためシャーロットを連れて伯爵自慢の庭園を歩く。


「ないな」

「かしこまりました」


二人は新しく始める施策を任せる領主の見極めに訪問していた。晩餐も見極めの場であり、配慮にかけた食事に夜の庭園への強引な散歩の誘いは第一王子の中では無能の烙印を押すには十分。シャーロットも見込みを感じないので頷きながら、3日滞在の行程を2日に組み直し、予定より早くうちに帰れることを喜んでいた。


月明りの中、星を見ている伯爵令嬢を見つけ、強引に散歩に誘われた意味を二人は理解した。王族は妾を持つことが許され、いまだに正妃の座を狙う者もいた。明らかにシャーロット達を気にしている令嬢に気付かないフリをした。シャーロットは令嬢の第一王子に恋い焦がれる視線にため息を飲み込み、第一王子に視線を向けると首を横に振り興味なしと伝えられた。第一王子はシャーロット以外の令嬢を側におかない。目の前の令嬢に付き纏われないように二人はいつも通り演じるだけだった。

シャーロットを第一王子が軽く抱きしめ、慈しむようにシャーロットの髪を一房とり口づけ、シャーロットは恥じらいながら笑みを浮かべる。令嬢は二人の世界を作り出したシャーロット達を見て、顔を真っ赤に染めて走り去った。自分達に取り入ろうとするなら見せつけるのが早かった。気配がなくなりサッと離れた二人が見つめ合い頷き、邸に戻るため手を繋いで足を進めた。


近衛騎士達は二人の様子を見て複雑だった。仲睦まじい様子に己の婚約者を思い出してもシャーロット達のようにはなれそうになかった。

邸に戻り、用意されたお茶に口をつけたシャーロットがふわりと第一王子に微笑む。第一王子がシャーロットの手からティーカップを取り、口に近づける。


「駄目」


隠れて様子を伺っていた令嬢が部屋に入ってきた。


「あ、えっと、お、おかわりならいくらでも、ご用意します。それは殿下が飲むものでは」

「私が口に含めないものを用意したのか?」

「それは」


シャーロットは毒の耐性を持っている。そして毒への対処も鍛えられ、舌に感じた痺れに王子に警告した。

震える令嬢を第一王子が冷たく見ていた。シャーロットは一つの家が滅びるので心の中で祈りを捧げる。王族の婚約者に手を出せば死罪。王族による断罪に慣れたシャーロットは怯えることなく静かに眺めていた。

伯爵が侍女に呼ばれて駆けつけた。


「殿下、娘が何か!?」


息を切らし顔から大量の汗を垂らす伯爵を第一王子が冷たく見据えた。伯爵は殿下に恋い焦がれる娘が妾を目指すのに協力していたが第一王子が散歩にシャーロットを連れて行ったのも今の状況も予想外だった。


「私の婚約者への不敬だ。死を持って償え」


立ち上がり剣に手をかけた第一王子にシャーロットはやわらかい笑みを浮かべる。


「殿下」

「捕えろ」


剣から手を離した第一王子の命令で近衛騎士が伯爵と令嬢を捕え出て行く姿を二人は見送る。


「珍しい毒です。入手経路を調べましょう。」

「明日は死刑囚も少ないだろう。数人増えれば民も喜ぶだろう。帰るか」


伯爵達はシャーロットの笑みを見て命の危機を逃れたと思っていた。令嬢が仕込んだのは領地で極秘で育てた花で作った致死量の毒薬。シャーロットを殺し、傷心の王子に近づくつもりだった。

伯爵は取り調べが終わり、王都に連行され処刑台に上がりようやく許させていない事実に気付いた。王子の婚約者はどんな時も笑みを絶やさない。良い意味でも悪い意味でも。王族と婚約者に手を出せば処刑は常識である。

シャーロットは帰宅が早まり心の中で喜んでいた。ここで第一王子が断罪すれば全ての処理が終わるまでシャーロットは第一王子に付き合い滞在しないといけない。大好きな兄のためにならず、王家の婚約者としても必要のないことに関わりたくない。シャーロット達は王宮に帰宅すれば、大臣に丸投げできた。王子の婚約者になってから、命を狙われることには慣れていた。ただシャーロットの傍には常に護衛がいるので、恐怖に怯えることはない。常に隣に剣の天才である大きな盾がいたのでシャーロットは大人しくしていればよかった。どんなに言われようと護身術を鍛えるつもりはないのに、教え込む第一王子が嫌いだった。第一王子は危機感皆無のシャーロットに手をやいていた。民には慈悲を、婚約者は丁重に扱うのは父の教えだった。ただ丁重な扱い方法が独特だったため後宮という私的な空間では二人は喧嘩がたえなかった。無駄ややる気のない者が嫌いな第一王子が、嫌がっても必要なら付き合うのはシャーロットだけである。第一王子の特別がシャーロットにとって迷惑なのは誰も気づいていない。


「やりたくないです。必要ありません」

「自衛は必要だ。」

「麻酔針があります。」

「いいから、続きをしろ」

「疲れました。歩けません」

「鍛えが足りない」

「私は戦いません」


喧嘩をしている二人の前に第一王子の乳母がミントの入った果実水を差し出す。

喉の乾いていた二人は一気に飲み、息を吐く。この果実水は沈静成分を持つ果実で作られていた。そしてこの成分は第一王子が常にもつ解毒薬にも使われていた。


「お茶の用意ができましたよ」


第一王子が地面に座っているシャーロットの手を引いて立ち上がらせ、椅子に座らせる。

桶の中の水で手を洗い、シャーロットは自分の前の苺を第一王子の器に半分うつした。第一王子が苺に口をつけたのでシャーロットも苺を口に含むと吊り上がった眉が緩み、好みの甘さの苺を無言で頬張る。苺の食べ終わったシャーロットに第一王子がアイスティーに浸った果物を食べさせると上機嫌な笑みを浮かべる。シャーロットは冷たい紅茶が苦手でも中の果実は好きだった。機嫌の直った単純なシャーロットを見て第一王子が笑う。


「やるか?」

「嫌」

「一つだけでいい。…今日はな」

「わかりました」


乳母は喧嘩してもすぐに仲直りする二人を微笑ましく眺める。国王夫妻のようになってほしくなかった。両親に愛されない第一王子。厳しい躾の所為で王族の仮面を常に身につけていてもシャーロットの前では王族の顔をしていなかった。二人の間に甘さはない。それでもお互いに手を取り合って歩んでいくのも一つの形だと思っていた。国王夫妻よりも二人の方が見込みがあると。我が子が王妃に溺れ騙され私利私欲に権力を使う国王のようには育たないように願っていた。

また民を試みず愛する人達のことしか考えられない王妃にもなってほしくなかった。第一王子に名乗れない母である乳母はしっかり育てたいと思っていた。

第一王子が国王から間違った知識を与えられ、どんどん似ていく姿に誰よりも悲しんでいたのは乳母だったがシャーロットが母親に似ず隣でしっかり嗜めてくれるのが唯一の救いだった。

大人の事情に振り回されながらも、たくましく二人で競い合いながら成長する二人に幸せが訪れるように乳母は祈りを捧げていた。

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