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卑屈な令嬢の転落人生   作者: 夕鈴
本編

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19/32

卑屈な令嬢の転落人生9 後編

晩餐の席には第一王子とレイモンドとシャーロットがいた。給仕はミズノに任された。

シャーロットは満腹だったが何も口に入れないと周囲が心配するのがわかっていたので料理長に頼んで自分だけメニューを変えていた。時々リクエストのあるシャーロットの要望に料理長は快く頷いた。


レイモンドは第一王子に上座を譲ろうとするのをシャーロットが制した。

王族位のない第一王子に敬意はいらないという主張だった。

運ばれてきた食事にナイフを入れていたシャーロットは第一王子が呆れた顔をしたのに気付かなかった。

第一王子はシャーロットの目を盗んでレイモンドに耳打ちをした。

レイモンドは首を傾げながらも、テーブルの下に潜りこんだ。シャーロットは息を飲み、第一王子を睨んだ。

レイモンドはシャーロットの足元にヒノトがいるのを見つけた。


「シャーロット、一緒に食事をしたいなら席を用意するよ。ヒノトも出てきなよ。窮屈だろう?」


レイモンドは共に眠るのと抱きつくのさえやめてもらえればヒノトとの関わりを禁止するつもりはなかった。ヒノトの席をレイモンドが用意させようとするのでシャーロットは視線を逸らして貴族の顔を作った。


「男爵様、殿下のいる席に無礼ですわ。ヒノトは静かにしていますので気にしないでくださいませ」


先ほどシャーロットは王族位のない殿下に敬意はいらないと言っていた。

第一王子はシャーロットがごまかそうとしているのに気付いて笑った。


「正直に言えば?食欲がない時はいつも愛犬に食べさせていた。用意されている料理はシャーロットの好みじゃないだろう?肉より野菜が好きだよな。」


ヒノトは野菜より肉が好きなので、野菜や魚料理は全て肉に変更し、食べさせやすいものにしていた。シャーロットには秘密がある。第一王子の前だけ態度が豹変し無意識に戦闘モードになる。


「恩情で泊めてあげた私がバカでしたわ」

「シャーロット、どういうこと?」


レイモンドにじっと見つめられ、シャーロットは第一王子を睨むのをやめて笑みを浮かべて見つめ返した。ゆっくりと口を開こうとするのを第一王子が呆れた顔で口を挟んだ。


「こいつは放っておくと果物しか食べない。いつもおやつを食べ過ぎて食事が食べられない。残すのはマナー違反だから誰かに食べさせるんだよ。なぁ、シャーロット?」

「男爵様、殿下の妄想ですわ。そんなこと」

「シャーロットは嘘をつくとき」


シャーロットは第一王子を睨んだ。


「私の言葉を遮らないでください。人の情報を勝手に話さないでください。それなら私もいいますよ。殿下はマザコンですわ」

「シャーロットはブラコンだろうが。雷が鳴ると未だに一人で眠れない」


呆れる第一王子にシャーロットは微笑んだ。


「お兄様は素晴らしいんです。ブラコンなんて陳腐な言葉で片付けないでくださいませ。お兄様の素晴らしさを殿下には教えてさしあげません。完璧で非の打ち所のないお兄様と違って、殿下はご令嬢の顔を覚えるのが苦手です。よく間違えて、全部笑ってごまかしてこっそり私に誰か聞いてました」

「化粧すると同じように見える。悪役令嬢ごっこも知ってるか?」

「なんで知ってるの!?」

「こっそり練習してただろうが。高笑いが下手で諦めたのは笑えた」

「隠れて見てたなんて酷い。気配を消して隠れて観察するのやめてください。だからウルマ様に捨てられたんですよ。自身の側近候補に嵌められて」

「あいつらわかってたんだよ。私の補佐官に選ばれないこと。私にはシャドウがいた。それに留学から帰国すればロレンスも。言質を欲しがる無能はいらない。まずシャーロットより無能なのに宰相位や重職を狙うってバカだよな」


王族は真意を口に出さない。王族が口に出すのは決めた時のみ。そして臣下は察して動くものだった。上手く察せず、動けない者は無能として左遷か排除されていた。


「王族やめた途端に正直に話すのやめてください。興味ないですよ。私達に友達などできませんわ。未来の国王夫妻に近づく者など私利私欲の塊ですわ。」

「お前は誰も友達いないもんな」


第一王子の馴れ馴れしい態度にシャーロットは我慢をやめ爪の先程度には持っていた敬意を捨てた。


「いりません。この際、言いますけど殿下が面白がって見てたから私が学園で大変でしたのよ。学園の統制と令嬢教育をって」

「あれは臣下の見極めだ。私が動くまでの事態をおこすなど無能だろう?それに自由を許したおかげで本来の姿が見えただろう。お前だって荒れた学園で良い思いしただろうが。シャドウを狙った女排除して、モールに逆らうやつらを」


シャーロットは望んでなかった。学園が荒れていなくても、本性は知っていた。モールの隠密は王家に負けない精鋭揃い。集められない情報はない。令嬢と戦うのに第一王子のお膳立てはいらなかった。シャーロットは社交界の中心で陰で牛耳る母親と伯母に令嬢達の対応も自滅のさせ方も教え込まれていた。恩着せがましい王子に呆れた笑みを返した。


「存じません。先に手を出したのはあちらなので自業自得です。モール公爵家への不敬は許しません。つい最近、全ての貴族に見放されたのに」

「疲れてたのか、酔ってたのか。私よりロレンスの方が優秀だ。過去を振り返っても無駄だ」


興味のない顔で先ほどとは別人のような王子にシャーロットはため息をついた。シャーロットにとっては見慣れた素の王子の顔だった。


「是非、反省を覚えてください。いつも思い付きでバカなことする癖をどうにかしてください。なんですの?卒業パーティに婚約破棄だけならともかく、朝まで生徒を拘束するなど。知人の手紙を読んで呆れましたわ。まさか白ワイン飲みましたの?」

「あまり記憶にない。でもアリシアに渡されて飲んだ酒の味は変だった」


シャーロットは嫌な予感がした。自分で選ばず人に渡された酒を飲んだ第一王子を睨みつけた。


「お酒に弱いからいつも飲むお酒には気をつけてって言いましたよね!?特に白いお酒は体に合わないんですから。しかも酔ったら記憶がないなんて最悪な体質なんですから。待って。さっき甘い匂いがしたような・・。ミズノ、彼女何か甘い香水つけてなかった?あの領地の花、殿下、香水に酔ったんですか!?シクラメンの花の香水を嗅いだらすぐに解毒薬をって言いましたよね!!」


第一王子にも秘密があった。酒に弱かった。そしてシクラメンの花が苦手だった。シクラメンの香りを嗅ぐと酔い思考がおかしくなっていた。そのため酔い覚ましのきつけの解毒薬を持たされていた。第一王子のシクラメン嫌いは有名だった。シクラメンを見るとシャーロットも遠ざけていたので、シャーロットも嫌いなことになっている。上位貴族の間で二人は嗜好が似ていると勘違いされていた。招かれた夜会にシクラメンが盛大に飾ってあれば、参加せずに踵を返す二人だった。


「香水の嗅ぎ分けなんてできん。それを言うなら、気付かなかったお前もだろうが」


シャーロットは嵌められた自分達に気付いて盛大なため息をついた。バカらしくて、報復する気もおきなかった。第一王子が廃嫡されなければ動かなければいけなかった。ただ嵌められた二人は事態に興味がなかった。


「面倒だったし多忙でしたのよ。どうして学園で殿下の面倒見ないといけないんですか?私、殿下のお世話の命令は受けてません」

「あれだけ面倒みさせておいて・・・。」

「頼んでませんし面倒みられた記憶もありません」

「雷の日はいつも付いていてやっただろうが。庭で眠ってるのを運んでやった。倉庫に閉じ込められたら保護してやっただろうが。何より食事の面倒見てやっただろうが。苺しか食べないバカの」


一向に口論がやまない二人にレイモンドが口を開いた。目の前にいるのは王族と思わないことにした。目の前にいるのは年下の後輩と暗示をかけた。


「とりあえず落ち着いてください。喧嘩は食事が終わってからに」

「私、気分が優れないので離れに帰りますわ」


シャーロットはゆっくりと立ち上がった。


「シャーロット、離れは殿下が使っている」


第一王子は執事長に男爵邸を案内されて離れの存在を知り、そこを希望した。

外見は古くても、シャーロット好みの居心地と利便性重視に整えられた部屋は第一王子の好みだった。


「私の至福の空間を・・・」


震えて眉を吊り上げて睨むシャーロットに第一王子が呆れた笑いを向けた。


「どうせあそこに籠って好き放題、暮らしていたんだろう。人目がない場所好きだもんな。誰にも邪魔されない。」

「男爵様、出入り禁止にしましょう。王都に送り返しますわ」

「お前の生活を知れば温厚な伯父上も怒るだろうか・・」

「お母様に話したら許しませんわ。もう嫌、」


第一王子はブツブツと呟くシャーロットの口に魚を放り込んだ。


「中座はマナー違反。座って食べろ。男爵夫人になって頭が空っぽか」


シャーロットは第一王子を睨んで、席に座った。

出された料理をヒノトに食べさせようとしたがレイモンドに見られていたので奥の手を選んだ。

笑みを浮かべて目の前の第一王子の口に突っ込んだ。昔からよくする方法だった。

第一王子は飲み込み控えているミズノを呼んだ。


「ミズノ、シャーロットの料理止めて、ミルクにパンと苺浸して持ってこさせろ。」


ミズノは礼をして退室ししばらくすると、シャーロットの前に料理を出した。

シャーロットはパンをミルクで柔らかく煮て、苺をいれればどんな時でも食べられた。シャーロットは諦めてスプーンで掬って口に入れた。懐かしい味に笑みを浮かべた。

レイモンドは第一王子の見方を変えた。シャーロットが文句を言いながらも従っていた。


「これは?」

「昔からこれだけは食べたんだよ。よく熱出してたから。」

「殿下が池に落としたから」

「泳ぎ方教えようとしたのに、一向に入らないから蹴とばしただけだろうが」

「泳げなくても困りません」

「お前だって私を冬の池に落としただろうが」

「仕返しですもん。報復は再起不能まで。王家の教えですわ。」


好みの料理を与えられたシャーロットは第一王子への嫌悪と敵意が一変して穏やかだった。

レイモンドは二人の和やかな雰囲気で話す物騒な内容を聞きながらわかってきた。

この二人の認識が違い、全く意思疎通ができてないことを。第一王子の強引な善意が全てシャーロットには嫌がらせとなっていたことを。シャーロットの仕返しが第一王子に通じてないことも。

すぐに手足が出るのは本当だったのかと思いながら、学園で囁かれた理想の婚約者像ってなんだろうと眺めていた。

王族への恐怖はなくなった。レイモンドも少しずつ成長していた。


****


晩餐が終わり、和やかな雰囲気でずっと口論する二人を引き離しレイモンドは私室に戻った。王子の相手はできなくてもシャーロットの扱いはある程度は身に付いていた。

シャーロットは敷き詰められたクッションの上に座った。レイモンドは不機嫌なシャーロットの頭を撫でた。


「殿下はどうするのかな・・・。」


レイモンドの呟きに頭を優しく撫でられ、機嫌の直っていたシャーロットがため息をついた。幸せな気分が台無しだった。


「追い出す。男爵邸を気に入っているみたいだから、どうしようかな・・。」

「気に入っている?」


不思議そうなレイモンドを見てシャーロットは笑った。


「ここの使用人は放っておいてくれるでしょ?モールではありえないわ。特に殿下は常に丁重に扱われていた。殿下の希望通りに動けるならいいけど、慣れない家はわからないからイライラするの・・。下手な扱いするより放置のほうが安全よ。使用人の基本は主や客人の意図を察して動く。命令される前に動くのは当然。でもできないなら全て命令に従ってくれるほうが楽。ここの使用人達は余計なことせず命令に忠実だから、好みなのよ。でもこれは国王陛下には通じないわ。殿下だけ。殿下をどうやって追い出そうかな」


使用人の質の違いにレイモンドは頭を撫でられ子供のように嬉しそうに笑う妻の生家を思い出した。


「別世界だな」

「うん。私の常識はここでは通じないもの。必死にお勉強中」

「主食が果物って本当?」

「男爵様、休みましょう。もう疲れました」


息を飲み視線を逸らして震えるシャーロットをレイモンドは抱き寄せた。


「ごめん。離れの使用は禁止するよ。食事は俺と一緒。」

「え?」

「当時の手がボロボロだったのは水仕事だけが原因じゃないってわかったよ。食事と睡眠は大事だよ。俺は倒れないで健康でいるのが一番大事だと思ってるんだ。夫人は当主の判断に従ってくれる?」

「男爵様も忙しい・・。」


ごまかそうとするシャーロットの頬に手をあて、レイモンドが視線を合わせた。


「シャーロットのおかげで楽になったよ。去年なら考えられなかった。最近は昼寝する時間もあるし、シャーロットが温かいからよく眠れる」

「・・・。男爵様のご命令に従います」

「ありがとう。休もうか」


シャーロットは優しく笑うレイモンドに頷いた。第一王子と違ってレイモンドの言葉に逆らう気はおきなかった。命令を聞いてお礼を言われるのはくすぐったかった。ヒノトと眠れなくてもレイモンドの温もりに包まれて目を閉じると体の力が抜けてぐっすりと眠れた。

シャーロットの世界は狭かった。心の中にいるのはミズノとヒノトと身内だけだった。幼い頃から王族に特別扱いを受けていたシャーロットは令嬢達を信用していない。シャーロットに近づくのは思惑のある者だけだった。だから意味もなく優しさをくれるレイモンドはシャーロットの世界の初めての人だった。

令息達は常に王子の臣下かシャドウの家臣候補として見ていた。能力以外に興味を持たなかった。他人を個人として大事に思い傍にいたいと願うのはレイモンドが初めてだった。


*****


シャーロットは第一王子を放っておくことにした。相手をしないのが一番である。朝食はシャーロットが無言なのでレイモンドと第一王子が会話をしていた。

シャーロットが恒例の勉強会をしていると第一王子がニヤニヤと眺めていた。

勉強会が終わると第一王子は子供達に声をかけた。


「チビ、暇なら教えてやるよ。自衛はできて損はない。」

「殿下、迷惑だから帰ってください。この人は人でなしなので近づいてはいけませんよ。こんな大人になってはいけませんよ」

「悪い大人の見本に言われたくない」

「帰って。」

「シャーロット、無駄ではないだろう?子供の指導は私達の務めだ。」

「怪我させたら兵に突き出しますよ。ミズノ、非常識なら拘束して兵に突き出しなさい」

「男爵、基礎の型を教え込んでやるよ。」

「男爵様、これでも子供の扱いは躾けられてるので大丈夫です。相手するの疲れたんでもう行きましょう。お兄様を呼びたいのにきっと多忙・・・。殿下を操作できるのはお兄様とお父様だけ。」


レイモンドはブツブツ呟くシャーロットの手を繋いで視察に行った。

ミズノがつくなら大丈夫だろうと信じてシャーロットに従った。そして二人が一緒にいればまた喧嘩を始めるのがわかっていた。


「大丈夫?」

「どうしたらいいかわからない。なんか様子が違う。色んなことがあっておかしくなったのかな。私はウルマ様と二人でここを出て行ってもらう予定だったのに。あれ?殿下を狂信的に慕っていた令嬢を呼び出せば引き取って、いや、面倒しかないわ・・・。迷惑かけてごめんなさい」


瞳を潤ませたシャーロットの頭をレイモンドが撫でた。

しっかりしてそうで全くしっかりしていなかったシャーロットにレイモンドはゆっくりと言い聞かせた。日常生活さえも疎かにしているのは予想外だった。


「気にしないで。動くなら相談して。もしアリシア嬢に会いにいくなら教えて。二人では絶対に会わないで。彼女、力強いから、掴まれたらシャーロットの腕が折れる」


「男爵様!!シャーリー!!」


領民に話しかけられ二人は会話をやめた。

シャーロットは王子のことを考えるのはやめた。民達に挨拶しながら視察に集中した。

領民に慕われるレイモンドを見ながら、レイモンドを選ばなかったアリシアの趣味の悪さに苦笑した。レイモンドのような素敵な婚約者がいるのに、人でなしに惹かれるのはシャーロットにとって全く理解できなかった。



読んでいただきありがとうございます。第一王子の秘密についてはいずれ綴りたいと思いますのでしばしお待ちを。

ご都合主義全快ですがお許しください(苦笑)

感想、ブクマ、評価に誤字報告ありがとうございます!!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] なぜ、第一王子を家に泊め、王族でなくなった彼を殿下と呼ぶのか。 男爵の教育なら、自分の兄なり父なりに頼めばよい。 これでは、シャーロットが、いまだに第一王子に未練があり、男爵は都合のよ…
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