クエスト完了。
「あなたは、とても善き人間です。世界樹の魂を持って生まれたあなた」
「ダイヤちゃん」
「この迷宮の守護者であるダイヤは、あなたを認めます。メリルリ古代迷宮に遺された記憶を、あなたに。それからこれは、ダイヤからの贈り物です」
宝石少女ダイヤは、きらきら輝く片目をぽこんと取り出した。
「ひゃっ!?」
「きゃあっ! い、痛くないの?」
「いいえ。私は宝石ですので。それに、これはあなたのものですよ、エミリア」
エミリアが手にした戦杖に、ダイヤの片目……深い青を讃えるサファイアが嵌め込まれる。
「お、おおぉ……? なんだか、力が漲ってきます……?」
「え、さらに??? 【神竜級】の魔力に、さらに上乗せ???」
「わふ……ああ、懐かしい魔力だ……わふぅ」
「ジョンがお腹を見せている!」
サファイアの青と同じ光が、エミリアをうっすらと包み込む。
「――それは【聖乙女の戦杖】。人間であるあなたが、受け継いだ魔力を使うための鍵。今までのあなたは、世界樹の力を使うための鍵がない状態でした。舵のない小舟、穴の空いた盃……そのような状態だったでしょう」
ダイヤの言葉に、アビゲイルは「あっ」と声をあげた。
「魔力を使うたびに昏倒したり、異様な空腹に襲われたり……!」
「なるほど。人間の体にはそのように不具合が表れるのですね。これからは、少しはマシになるかと。世界樹を守っていた四柱の神獣が残した四つの迷宮……そこに、あなたの力を解放する鍵が隠されています。探すも探さないも、あなた次第……ですが」
「私、次第……」
「はい。世界樹の意思はそう告げています。あなたが人間として生きるもよし、世界樹の魔力をすべて取り戻すもよし」
「はぁ」
エミリアはすっかり困惑してアビゲイルを見上げる。
アビゲイルは、『古代迷宮に隠された謎』という言葉に、ワクワクを隠し切れてない。
「とはいえ、迷宮には『審査』をする者が待ち構えておりますから、容易なことではありませんが」
「審査?」
「あなたが世界樹と神竜の魔力を受け継いだ者であることは、長きを生きる者ならすぐに直感できるでしょう。ですが、それだけではダメです。あなたが今の世の中を生きる人間として善き者であることを証明しなくては。私は、あなたが『優しさ』を持つ人間であることを確かめる役目を持っていました」
「優しさ?」
エミリアは、ええっと飛び上がる。
「私、証明できたんですか?」
「……ダイヤはそう審査しました。エミリアは私に名前をくれた。それにシュワシュワする、甘くて素敵な飲み物を、出会ったばかりの宝石に分けてくれたのは、きっとあなたがたの『優しさ』なのでしょう。エミリア、それにアビゲイル」
しゅわしゅわ甘くて、まるで宝石のように輝く琥珀糖サイダー。
アビゲイルが作り、エミリアがわけてくれたそのサイダーは、ダイヤにとっては優しさそのものだった。
人間の食べ物なんて、口にする日がくるなんて思っていなかったのだ。
そのとき。
ダイヤの言葉が終わるか終わらないかのうちに、エミリアたちの周囲に魔法陣が浮かび上がる。それは、見慣れた術式……帰還魔法陣だった。
「これは!?」
「あなた方が、いろいろなところに書いていたものです。アビゲイルの道具はこの場所ではうまく働かないようなので、代理で作成しました」
「す、すごいな……」
「世界樹があったころは、誰もがこれくらいの芸当はできた……と記録されています」
ダイヤは静かに言った。
世界樹がなくなり、大気中にただよう魔力――マナを失った人間はすっかり弱くなってしまった。
魔法を使える人間もいるけれど、それはほんの一握り。
聖なる歌によって魔力を他人に分け与えられる『聖女』たちを育成できる天歌教がこの世界で幅を利かせているのも、人間が弱くなったからだ。
寿命も短くなって。
力も弱くなって。
身を寄せ合っていないと、生きていけなくなった。
宝石少女は、ぽつぽつとそう語った。
「ダイヤちゃん、一緒に来ないの?」
エミリアは、眉毛をハの字にした。
せっかく会えたのに。
ダイヤは表情の少ない顔で小首を傾げる。
「ダイヤはここの守護者です。ここからは出られませんが……いつでもダイヤはここにいます」
「また、遊びに来るからねっ!」
「……ええ。罠やここを守護する魔物たちは、あなたたちを攻撃しないようにさせます。どうぞ、いつでも遊びにきてください」
エミリアの言葉に、ダイヤが少しだけ微笑んだように見えた。
―――
【クリア!】
◆クエスト概要 : メリルリ古代迷宮最深部攻略
◆クエスト実施地 : メリルリ古代迷宮第10層
◆依頼主 : メリル市冒険者組合
◆必要編成 : 2名
◆報奨金 : 成功報酬1000万サキュル。
【クリア!】
――
◆クエスト概要 : ダンジョン内の帰還魔法陣設置
◆クエスト実施地 : メリルリ古代迷宮第5層~第10層
◆依頼主 : メリル市冒険者組合
◆必要編成 : 2名
◆報奨金 : 魔法陣設置1つにつき成功報酬100万サキュル。
――
***
「わぁ、ここってメリルリ古代迷宮の入り口……ですよね」
入り口から差し込んでくる太陽の光が、眩しい。
「ううーん……色々なことが起きすぎて、頭が追いつかないぞ……」
「ははは。アビゲイルさんでも頭が追いつかないなら、私は全然ですね-」
「いや、エミリアのことだからな!? なんだよ、世界樹と神竜の魔力を受け継いでるって……」
「い、いやぁ……なんなんでしょうね……」
エミリアは、手に入れた【聖乙女の戦杖】でこつんと頭を叩く。
いやあ、まいったなぁ。
「……エミリア、なんだそのへにゃへにゃした顔……」
「えっ、そんなにへにゃへにゃしてました!? ……って、あわわ」
ぐうぅうぅ~……。
切ない音が鳴り響く。
お馴染みの、エミリアの腹の虫。
魔力を使いこなすための鍵は貰い受けたけれど、やっぱりお腹は減るのである。
だって、ほら。
育ち盛りだし。
大冒険の直後だし。
「あわっ」
「……ぷっ」
アビゲイルが肩をふるわせる。
エミリアは頬が熱くなるのを感じた。
「あっっははは!」
「わわ、なんで笑うんですかアビゲイルさん~!」
「いや、だって……世界樹? 神竜? いや、なんていう壮大な話だよって思ってたら! うっふふふ」
「笑いすぎですって……」
「いや、安心したよ。うん」
はー、と息をついてアビゲイルはエミリアの頭を撫でる。
細い指が、出会った頃からは考えられないくらいに艶々としている白銀色の髪を梳く。
「――エミリアは、エミリアだな」
「そ、そうですよぅ」
「ふっふっふ……これから先も一緒にいてくれる君が、まさか世界樹の生まれ変わりって」
「あ、また笑った!」
「悪い悪い。……さぁ、帰って食事にしよう。ギルドに行くのは明日でいいさ」
「わふ。では、我の背中に乗るといい。エミリア、アビゲイル」
ジョンのもふもふの背中にまたがる。
古代迷宮の外に、一歩踏み出す。
――すると。
「……エミリア・メルクリオ」
固い声が、エミリアの名前を呼んだ。
聞き覚えのある声。
そう、例えば……修道院で聞いたような……。
「し、シスター・ココナ!?」
セレネイド女子修道会の見習い聖女仲間だった――ココナだった。




