メリルリ古代迷宮、最深部~異様な魔力~
扉の向こうにあったのは、ただただ広い空間だった。
円形の広間。その中心には、美しい台座がある。
「ここは……?」
「遺跡、か?」
「……わふ」
「広いですね。運動場みたいです」
「運動場、というよりも――」
まるで、玉座か墓場だな。
アビゲイルはそう思った。
なぜそのように感じたのかはわからないが、そう直感したのだ。
高い高い天井。
エミリアはそれを見上げる。天井には、光をため込んでまたたく蛍石が立ち並んでいた。宝石少女ダイヤに導かれて降りてきた階段と同じだ。
ダイヤは結局、この部屋には入ってこなかった。
巨大な門の前に腰掛けて、まるで石のように眠ってしまったようだった。
またダイヤが目覚めたら、一緒にサイダーが飲めればいいのに――エミリアはそんなことを考えながら、広間を歩く。
とことこと歩くたびに、足音が反響して面白い。
ジョンはとっとこと体の大きさに見合わない軽やかな足取りで、エミリアを追い越して台座の前に歩いて行く。そうして、まるで安心しきったかのように丸くなって眠ってしまった。
「あらら。ジョン、疲れちゃったんですかね。よしよし」
「いや、フェンリルに疲れるとかあるのか……?」
「ジョンだって疲れるしお腹だってすきますよ、アビゲイルさんっ!」
「エミリアが言うと謎の説得力!」
「はやく帰って、美味しいもの食べましょう」
「うむ……まぁ、一応ここがメリルリ古代迷宮の最深部だとすれば、クエストは完了ということになるか。意外とあっけないなぁ」
アビゲイルは肩からかけたポシェットから大きなコンパスを取り出す。
完璧な円形を描くための魔導具だ。
それに、魔力の高い鉱物を練り込んだチョーク。
帰還魔法陣の設置に使う道具だ。
「よし、じゃあちょっと待っていろよ。エミリア」
ちなみに、本来ならば帰還魔法陣の設置は手練れの魔導師が数人がかりで行うものなのだが、アビゲイルにとっては完全に「朝飯前」だ。
なぜなら。
「よし、範囲測量開始。回復術式の描画ツール励起。転送術式の演算も頼むぞ~」
そう。なぜなら、全てをコンパスに術式刻印しているからである。
魔導師たちがもったいぶって「儀式」にしていることの多くは、アビゲイルにとってはただの手順。魔導具に落とし込みさえすれば、魔力の扱いが下手であろうが、魔導の素養がなかろうが、誰にでも使えるものだ。
これが【万能の魔女】の実力である。
「あれ?」
「どうした、エミリア……って、なんだこれ? コンパスの様子がおかしい……?」
普段であれば、ものの数分で帰還魔法陣を書き上げるはずのコンパスの挙動が変だ。エミリアとアビゲイルは顔を見合わせる。
まさか、故障?
ここまで来て?
カタカタと震えながら、よれた線を描くコンパスを停止する。アビゲイルは仕組んだ術式に間違いがないことを確認する。
「というか、そもそも今まで普通に動いていたしなぁ」
ぼやきながらポシェットから魔導板を取り出して――アビゲイルは、硬直した。
「な、なんだこれ!?」
「え?」
「この部屋の空気……異様な濃度のマナを含んでるぞ!」
魔導板には、ありえない数値が記載されていた。
大気マナ濃度、5000。
アビゲイルが比較的大気中のマナが濃いという理由で選んだ、森の中の小屋。その周辺の大気マナ濃度が、78だ。
異常値と言って差し支えない。
「どういうことだ――これは……!」
アビゲイルは魔力板を操作する。
この濃度のマナの発生源を探る。
それは――中央の台座から発せられているものだった。
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