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メリルリ古代迷宮、最深部~大きな扉~

 ――メリルリ古代迷宮(ダンジョン)、最深部。



「ダイヤが案内できるのは、ここまで」



 宝石少女(ストーンゴーレム)、ダイヤが呟いた。

 ながくながく続く階段を下がりきり、目の前に現れたもの。

 それを見上げて、エミリアは大きく息を呑んだ。



「うわぁ」

「美しい……」

「すごい。大きい扉……」



 見たことないくらいに、大きな扉。

 本来であれば何百人もの兵士が開閉を行わなくてはいけないような。

 たとえば、王城の周囲を護る城門よりもまだ大きい。



「おい、これどうやって開くんだ……?」

「ひえぇ、二人じゃ無理ですよね」

「そうだなぁ、ジョンがいるとしても……」

「わふっ、押すのか引くのかもわからないなぁ」

「たしかに!」



 アビゲイルは振りかえる。

 案内できるのはここまでと告げた途端、一歩も動こうとしないダイヤに質問した。



「なぁ、これってどうやって開くんだ?」

「……ダイヤはあくまでこの場所への案内人。その質問には答えられない」



 しかし。

 その言葉とは裏腹に、星空のように煌めく宝石の目がすこしだけ揺れた……ような気がした。



「でも。あなたたちはダイヤに素敵なものを飲ませてくれた」



 素敵なもの。

 美しく輝く琥珀糖を沈めた、夢のようなサイダー。

 この迷宮を護るためだけに造られたのであろう、美しい宝石少女(ストーンゴーレム)はうっとりと呟く。



「だから、少しだけヒント。ニンゲンの造ったよきものを教えてくれたから」



 そして、ダイヤはゆっくりと右手をあげて――現世にて魔導具の開発と普及にはげむ【万能の魔女】と名高きアビゲイル……の隣に佇む聖女見習い、エミリア・メルクリオを指さした。



「あなた」

「へ、わたし?」

「そう、あなた――清らかな魔力を持つあなたこそ、その扉を開くのにふさわしい」

「は、はぁ」



 ぽかんと口を開けたエミリアは、すがるようにアビゲイルを見上げる。



「私が、この扉を開くんです……?」


   ***



「ふんんぬぬぬぬっ!!」



 数分後。

 エミリアは、巨大な扉を開こうと四苦八苦していた。

 とりあえず押してみよう、というエミリア自身の発案で頑張って扉を押しているわけだ。扉を開くのにふさわしい、と言われたエミリア本人が。


 しかし、扉はビクともしない。

 鉄製のメイスをぶんぶん振り回す力をもったエミリアでも太刀打ちできない大きさであることは、正直に言えばよくわかる。

 いかんせん、巨大すぎるのだ。扉が。


 けれども――とアビゲイルは考える。

 エミリアの魔力がこの扉を開く鍵だと、ダイヤは言った。

 だとすれば、エミリアがこの扉を開くのに必要なのは『力』ではないはずだ。


「……なぁ、エミリア」

「はい?」

「もしかしてなんだが……」

「は、はい」」

「その扉、押すのではなくて引くのでは?」

「引く……ふくぅう~~……だ、ダメです、引っ張ってもッビクともしませんっ!」

「わふ……顔が真っ赤だ……」

「押してダメなら、引いてダメなら……祈ってみるか?」

「ふぅ……それは良い考えですね。天歌教、祈りの歌……きっと天帝聖母様が祈りを聞き届けてこのめちゃくちゃ重い扉を開いてくれるはずです!」

「そんなジャムの蓋が開かないときに助けてくれるかんじなのか……天帝聖母というのは……?」



 エミリアが、大きく息を吸い込む。

 祈りの歌。

 伸びやかで、涼やかで、どこまでも清潔なエミリアの歌声。

 おそらくは、天の御使いの歌声だとか。そう呼ばれるはずの、美しい旋律である。エミリアの祈りを込めた歌は朗々と響き――



「……」

「……開きませんね」



 扉は、開かなかった。



「は、恥ずかしいのですがっ」

「まぁ、歌声で扉が開けば苦労はしないというか……ん?」

「はい?」

「エミリア、後ろ」



 アビゲイルの声に、赤面していたエミリアは振り返る。

 巨大な扉の中心に、小さな魔法陣が浮き上がっているのを見つけた。丸パンくらいの大きさで、エミリアの手のひらがちょうど収まるくらいの小さな魔法陣。


 先ほどまでは、たしかにそこにはなかったはずだ。



「歌声に反応して現れた、ということか?」

「わぁ、きれい……」



 エミリアが手を伸ばす。

 そっと、魔法陣に触れる。


 瞬間。

 眩い光の線が、魔法陣から扉全体に走り始める。

 施された彫刻の溝という溝に、青く輝く光が満ちる。あっという間に、扉全体が光に包まれた。



「これは……古代エリアル文字だ!」

「なんですか、それ」

「かつて世界樹を信奉するもの達が使っていたという文字だ、失われて久しい

んだが、これなら私にも読めるぞ! 魔導道具の作り方を書いた古文書なんか

には使われているから」

「おおー、さすが万能の魔女ですね。アビゲイルさんっ!」

「なになに……す、らい、ど……?」

「えっと……スライド、ですか?」



 扉にでかでかと浮き上がった文様は、古代エリアル文字で「スライド」という意味の言葉だった。



「扉をスライドさせろってこと……ですかね……?」



 エミリアが、扉に手をかける。

 少しばかり力を入れて――横に滑らせた。

 押すのでも引くのでもなく、横に。



 ごぅ、ごうごぅごぅ。

 低く重い音を立てて、けれども、その音と見上げるばかりの大きさのわりに、あまりにも軽い手応えで――扉は開いた。



「ええ!? おいおい、マジか……そんな古典的な……」

「すごい……さっきまでビクともしなかったのに」



 目を丸くするエミリア。

 アビゲイルは、そんなエミリアを見て思う。



(たしかに、仕掛けは古典的だが……)



 先ほどの魔法陣は、どう考えてもエミリアの歌声に反応して浮き出てきた。

 ――エミリア・メルクリオ。この子は、一体。


更新おそくなりました。

9月はぼちぼち更新していく予定です(・∀・)

―――

8月31日に『突然パパになった最強ドラゴンの子育て日記~かわいい娘、ほのぼのと人間界最強に育つ~』が発売されました!!

ぜひ、よろしくお願いいたします。

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[一言] まさかのスライドドア(笑)
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