【癒しの噴水】の休憩所 ~東の国の流しソーメン~
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メリルリ古代迷宮、第2階層入り口。
【癒しの噴水】近くの仮設休憩スペースは、むわりとした熱気に包まれていた。
「なんだか、暑いですねっ。汗かいちゃいますっ」
「あぁ、第3階層にいるファイアドラゴンが発情期になっているんだろうな。前に卵を分けてもらったときから、ちょうど半年ほど経つし」
「はっ、発情期……!」
「自然の摂理だ、エミリア。なんだ、顔を真っ赤にして……照れてるのか?」
「ひゃっ!」
アビゲイルにほっぺたをつつかれて、もっと顔が熱く火照ってしまった。
「お、おおお、お腹すいちゃいました。お弁当にしましょう、アビゲイルさん!」
「そうだな、腹ごしらえをしようか」
「前にも、このへんで一緒にご飯食べましたよね。ふわっふわの卵サンド、美味しかったですよねぇ~」
卵サンドの味を思い出して、「むふふぅ~」と笑顔をこぼすエミリア。けれども……。
「……というか、アビゲイルさんお弁当なんて持ってきていたんですか?」
「あぁ。この【癒しの噴水】が最初の休憩所になるのはわかっていたからな……これだ」
「これ……って、なんですか……植物で出来た、パイプ?」
「これは東国の植物で、ターケというんだそうだ。先日、バザールでたこ焼きボール屋に聞いてな……これを、こうして」
アビゲイルは、テキパキと縦に割ったターケを組み立てる。
あっというまに、滑り台のようなものができあがる。
「そして、ここに【癒しの噴水】から湧き出ている、真水を流す……」
「わぁ、すごい! 滑り台に水が流れてる……はぁ~、見てるだけで涼しいですねぇ……」
「うむ。我の権能で周囲一帯を凍らせることもできるが……暑い中に流れる涼しげな水というのも趣があるな」
「ジョン、そうだ。小さな氷の塊をいくつか出してくれ」
「わふっ! お安い御用だ」
きぃん、という高い音を立てて空気中に発生した氷のかけらが、アビゲイルの手にしていた涼しげなガラスの器に氷がころころと転がり混む。
「よし。このツユスープに、氷を浮かべる……そして、東国のハーブをここにどっさりと」
「わぁ、畑の隅で育てていたやつですね。珍しい野菜だなっておもってたんですが」
「うむ、たこ焼きボール屋の主人が種をわけてくれてな。これがミョーガに、こっちがオーバだ」
「涼しい匂いがする!」
「よーし、本番だ。エミリア、このハシを持て。この水に、茹でてきたソーメンを……流しいれる!」
「はわ、はわっわわっ!?」
するするする~とターケの滑り台を流れていく、ソーメン。
エミリアは慌てて、ハシでそれをすくいあげる。【癒しの噴水】の冷たい水にほぐされた白い麺を、ツユスープにひたして……。
「ちゅるんっ!」
「どうだ、エミリア?」
「す、すごいすごい! ちゅるんってして、身体がひやぁって涼しくなる気がします! ミョーガとオーバも、すごく涼しい匂いだし。シャキシャキしてて……ちゅるちゅる食べれちゃいます……!」
流れてくるソーメンを、ちゅるり。
流れてくるソーメンを、ちゅるり。
「えへへ、ちゅるちゅる楽し美味しい……」
エミリア、満面の笑みである。
そのうち、周囲で野営をしていた冒険者がざわつきはじめた。
「あああ……暑くてやってられないぞ。って、おい。あれ……【聖女エミリア】じゃねぇか?」
「ってことは、あっちのでっけぇつばあり帽子は……【万能の大魔女】アビゲイル!」
「何しているのかしら……?」
おそるおそる近づいてくる冒険者たち。
エミリアが、「あっ」と声を上げる。
「あの、皆さんも一緒に食べませんか? つるつる冷たくっておいしいですよ」
その言葉に、どよめきが起こる。
「えっ、いいんですか?」
「あぁ、かまわんぞ。麺ならエミリアが満足するように大量に茹でてきたからな。ツユスープもたくさんあるし……器は自前で頼むぞ」
「もちろんです! うわぁ、最深部探索前にこうして会えるなんて光栄です」
「あ、じゃあ流す係やります!」
「これ、もしかして東国の『流しソーメン』って儀式だよな? すげえ!」
第3層のファイアドラゴンの発する暑さに辟易していた冒険者たちの顔に笑顔が戻る。
「ジョン、氷をたくさんだしてあげてください!」
「心得た」
「えぇ、この犬喋るぞ!?」
「我は犬にあらず。我が名はジョン!」
「ジョン、すげー!」
和気あいあいとした食事。
今までは、「また一人になるのが怖い」と人との交流を遠ざけてきたアビゲイルであるが――こうして、集まって笑顔を分け合うのは本当に、心が安らぐ。
「エミリアのおかげだな、本当に」
人の和のまんなかで、笑顔でソーメンをすするエミリアを眺めてアビゲイルは微笑んだ。
ちなみに【癒しの噴水】の流しソーメンは、たこ焼きボール屋が主体となり、冒険者同士の連携と協力の証としてメリルリ古代迷宮の名物となるのだが――それはまた、別のお話。
―――
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