万能の大魔女アビゲイルの実力
「「「キエェエエェッ!」」」」
襲い掛かってくるハーピィは1匹ではない。
目視できるだけでも、10体はくだらない。
ハーピィは、半鳥半人のモンスターだ。
腰から上は女性の姿。肩から突き出しているのは、腕ではなく翼。
古代迷宮から這い出し、近くの森や山を制圧してしまうことがあるやっかいなモンスターである。
今日のクエストでも、エミリアの膨大な魔力を込めた魔導砲でそんな山からハーピィを追い出したわけなのだが――
「しまった、残党――」
アビゲイルは焦る。
エミリアの魔力、そして幻獣フェンリルの前では中級モンスターに分類されるハーピィなど敵ではない。
……はずなのだが。
「キエエェェーーーー!」
「ほ……ほぇ?」
エミリアは、眠気と空腹でジョンの背中でぼんやりしている。
そして幻獣フェンリル――ジョンは!
「ちょ、ちょうちょを見ている……!!!」
顔の周りをひらひらと飛ぶ黄色いちょうちょを目で追いかけていた。
(まずい――ッ!)
バッグの中に収納している魔導砲は、エミリアの膨大な魔力を込めたことで一時的に故障している。
使える武器が、ない。
「――仕方ない」
アビゲイルは右手を掲げる。
「……わが手に集え、風精の慟哭よ――【カタパルト・ウィンド】!」
最上級魔法、【カタパルト・ウィンド】。
本来であれば、十節あまりの長文詠唱が必要な高威力の一撃である。
アビゲイルはあっさりと短縮詠唱をやってのける。
「「「ギエエェーーーーーァ!」」」
ハーピィは、消滅した。
ぽかん、と口を開けているエミリア。
やっと、ちょうちょから意識をそらしたジョン。
「す、すごい……!」
「おお~、人の子よ。やるではないか。風精霊の魔力を使うか」
「助けてくださって、ありがとうございます。アビゲイルさん!」
「いや、それほどでも」
「魔導具の開発以外でも、やっぱりすごい人なんですねぇ!」
「まぁ……あまり使いたくはなかったが、な」
「アビゲイルさん……?」
強大な力を誇示したにもかかわらず、アビゲイルの表情はさえなかった。
「ギルドでも話したが、【万能の大魔女】なんて呼ばれているが、私自身の力量なんてどうでもいいんだ。魔術は万能なんかじゃない。魔力を持った人間の思い上がりを助長するだけだ――だから、私は魔導具を作る。誰であっても、どんなに弱い人でも……生きていけるような……」
「アビゲイルさん、あの――よかったら、聞かせてもらえませんか?」
「なにを?」
「えっと、アビゲイルさんのことを!」
エミリアは、自分よりもうんと成熟した体のアビゲイルを抱きしめる。
最上級魔法をふるう【大魔女】なのに、なんだか幼い子どものように寂しそうに見えたのだ。
大きなつばあり帽子からこぼれる、波打つ金髪をなでる。
「私の知ってるアビゲイルさんは、すごく素敵な暮らしを教えてくれて、お料理が上手で、とっても優しい人です……あの、もし嫌じゃなかったら、私にアビゲイルさんのこと、もっと教えてくださいな」
微笑むエミリア。
アビゲイルは、言葉に詰まる。
ほわほわしていて、食いしん坊で、猪突猛進。
そんなエミリアのはずなのに――自分に向ける微笑みが、まるで女神のように優しく、すべてを包み込んでくれるような笑顔だった。
「私、は……」
きっと、エミリアの信奉する天歌教の最高神――【天帝聖母】というのは、彼女のような微笑みを浮かべているのかもしれない。
アビゲイルはそんな風に考えた。
「私の生まれは、さる貴族の血筋にあたるんだ」
ジョンの背中で揺られながら、アビゲイルはぽつぽつと語りだす。
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