万能の大魔女アビゲイルの善行①
「おーい、店主! きたぞ」
「おお、アビゲイルさん!」
「お久しぶりです、おじさん!」
やってきたのは、街道の宿屋『飛ぶ蛙亭』。
王都からメリル市……アビゲイルの住む森へとつながる街道にぽつんとある名宿である。
旅人用の食堂も兼ねていて、ご主人特製の季節の料理は絶品だ。王都からも都市からも遠い立地にあるため、夏場ともなれば食材の多くが保存食であることなど感じさせない。
あたりに、桃のいい香りが漂っている。
宿の庭にある、立派な古木からだ。
「この匂い……琥珀桃ですか?」
「あぁ、ちょうど実りの季節の終わり際でして。こんな匂いをまた嗅げるなんて、聖女様のおかげです!」
「いえいえ、それほどでも!」
「まぁ、琥珀桃の実は、果物のなかでもいっとう甘いからすぐにダメになっちゃいますけどね」
「ご主人、その悩みを解決する魔道具を開発したぞ」
「えぇ!?」
「ジョン!」
「わふっ!」
アビゲイルの合図。
のそり、とジョンが背中にしょっていた箱を下ろす。
一応、驚かせるといけないので宿屋の主人の前では喋らないように、と念押ししていたのだ。
「うわぁ、でかい犬」
「聞き捨てならんな、犬では……むぐぐ」
「いま誰か喋りましたか?」
「あはは、なんでもないですよっ!」
ジョンの大きな鼻先に、エミリアが抱き着いてふさいだ。
「商品はこれだ」
「箱……?」
「ただの箱じゃない。魔導具、冷蔵庫だ」
「冷蔵庫……なんです、それは」
「箱を開けてみろ」
「……ふ、冬だ!」
宿屋の主人は、目を見張る。
箱の中に冬が広がっている……と感動している。
氷狼フェンリルの魔力によって冷気を閉じ込めた魔導具・冷蔵庫。
「ほら、新鮮な魚やら肉やらを出してる王都や市街に近い店に客を取られていると言っていただろう。これなら、肉も魚も保存ができる」
「アビゲイルさん……!」
「いつも世話になっているからな、ご主人には。ちょっとした礼……もとい、実験の被験者になってくれ。その冷蔵庫の実力を知りたい」
「ありがとうございます……本当に、ありがとうございます! なんて親切なんだ……! あぁ、やっぱり魔術ってのは万能なんですねぇ」
「ははは、ご主人。魔術が万能なものか。魔術は魔力を持った者にしか扱えない、半端なものだ。万能じゃない……だから私は作るのさ、魔導具を。誰もが、その恩恵を受けられるようにな」
「アビゲイルさん……!
アビゲイルの言葉にいたく感動した『飛ぶ蛙亭』の主人は、持ちきれないほどの琥珀桃をお土産に持たせてくれたのだった。
***
「というわけで、琥珀桃のおすそわけだ。ナディアの分も、ミセス・ソーセージバゲットの分もある」
「わぁ、すごい! 高級フルーツじゃないですか……ありがとうございます、アビゲイル様」
「冷蔵庫のメンテナンスに行くたびに大量に桃をもらうんだ。こんなに甘いものを全部食べたら、さすがのエミリアにも毒かと思ってな……」
「あー……たしかに、全部食べちゃいそうですもんね、エミリア様……って、そのご本人は?」
「外で待っているそうだ。いまは犬のうえで寝ている」
「……はい? 馬じゃなくて?」
「犬だ」
「犬って……あぁ、あの大きなもふもふちゃんですね。ギルドにも使い魔登録していらっしゃいますよ! でも、あまり見たことないタイプの使い魔ですけど」
「あぁ。まぁ……珍しい犬種なんだよ」
あれは、世界樹を守る四大幻獣の一角である氷狼フェンリルである――とはさすがに言えないアビゲイルであった。
ジョンは、名犬だった。
完璧に荷物持ちをこなし、今もいい子のジョンは冒険者ギルドの外でお座りをしている。
その背中では、エミリアがすぅすぅ寝息をたてている。
大きくて気の優しい犬なので、近所の子供にも大人気である……いや、犬ではなくてフェンリルなのだけれど。
事実、エミリアがジョンの「盟約主」となり、氷狼フェンリルの力を借りるようになって、メリル市のダンジョン攻略に終わりがみえはじめた。
ーーダンジョン発見から百年以上もの間、到達不可能とされていた最深部への道が見えてきたのだ。
待ちに待ったダンジョン踏破を目前にして、メリル市は沸き立っている。
さてさて、穏やかな日常も束の間、次回から大きくお話が動き始めます!!
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