セレネイド女子修道院の終焉
セレネイド女子修道院。
18才になった『見習い聖女』たちが、聖女への昇格申請の結果を今か今かと待ちわびている。
「はぁ! やぁっと、このボロ修道院ともお別れね」
「ほんとに。ココナのいい子ちゃんぶりっ子にもうんざり」
「あぁ、はやく屋敷に帰ってアフタヌーンティーがしたいですわぁ」
「そうね。私も聖女になったらお父様が何でも買ってくださるって」
「うらやましい、さすが公爵家のお嬢様ですわ」
18才となった見習い聖女たちの部屋では、そんな会話が朝から繰り広げられている。
すでに見習いとしての年季をおえた少女たちは、日々の労働からも解放されている。
あとは、結果を待つばかり。
(……必ず、私が主席で『聖女』になるんだ。そのために、あの子を追い出したんだから……)
ココナは、窓の外をじっと見つめている。
ほかの見習いたちのおしゃべりに付き合うなんてごめんだ――もっとも、彼女たちはいまやココナを目の敵にしている。ココナの方から話しかけても、無視されるのがオチだ。
(結果を知らせる伝令はまだなの……中央の大聖堂からここまでの距離を考えれば、そろそろ来てもおかしくないけれど)
セレネイド女子修道院の周囲を囲む高い壁。
その門が開いた。
外からの訪問者だ。
「……来たわ」
もう夕方だ。
この時間であれば、出入りの業者や訪問客でもあるまい。
「やっとね!」
「はぁ、さっさとこの見習い服を脱ぎたいわ!」
「ほんとに。まったく、こんな服をありがたがってるの、あの子くらいよね。ほら、なんていったかしら……」
「ぐうたらエミリア、でしょう!」
「そうそう、エミリア。まったく、あれはあれで色々と面倒を押し付けられたというのに、誰かさんのせいでぐうたらさんもいなくなって、大変だったわ!」
「お父様にいいつけてやる」
口々の罵詈雑言も、ココナの耳には聞こえない。
一目散に、修道院の入り口まで走る。
はやく、結果を知りたい――自分が、首席で『聖女』になれたかどうかを!
***
「な……っ! だ、大聖女様!?」
ココナは驚愕に足を止める。
馬車から降りてきたのは、天歌教の最高指導者である大聖女・リエラ・ハルートだった。
セレネイド女子修道院は騒然とする。
事前の通達なしに、大聖女がこんな僻地にある修道院のひとつを訪れるなんて、ありえない。
「――尋ねましょう、修道院長。直言を許します。このセレネイド女子修道院にいるはずの見習い聖女……シスター・エミリアはどこでしょうか」
「はっ……え、シスター・エミリアですか」
「18才になる年です。この修道院からの聖女への昇格申請者に彼女の名前がありませんでした。少し前までは確かに在籍していた、と中央大聖堂の記録には残っています」
「それは……彼女は、この修道院から出ていきました」
「なんですって、もう一度おっしゃってみなさい。修道院長」
「はっ! そ、その……シスター・エミリアはこの修道院から出ていきました。そこに立っております、シスター・ココナの進言で!」
「――なっ!」
冷たい、射貫くような――それでいて、どこまでも清らかな視線がココナを射抜く。
大聖女リエラ・ハルートの威厳と美しさに、ココナはすっかり萎縮していた。
「わ、たしは……たしかに彼女の修行態度について進言はいたしましたが、決定し、宣告したのは……!」
「シスター・ココナ、騒がないで。大聖女様の御前ですよ!」
「……それは」
冷たい沈黙。
リエラはゆっくりと口を開く。
「シスター・ココナ。中央大聖堂へ随行しなさい。話を聞かせてもらいたいです」
「は、はい」
そのとき。
伝令が走りこんできた。
「伝令、伝令!」
「何事ですか」
「はっ、世界樹の守護獣が――氷狼フェンリルが目覚めたと、『星見の塔』が結論を出しました!」
「……なんですって」
「繰り返します……守護獣フェンリル、覚醒!」
リエラは無言で馬車に乗り込む。
ココナも従者に両腕を掴まれて、リエラとは別の粗末な馬車に押し込まれた。
「……言い忘れましたが、今年のセレネイド女子修道院からの聖女申請は全員却下します。事の次第がわかるまでは、修道院から誰一人出てはなりません」
大聖女リエラは、お付きの司祭に告げた。
――この命令をもって、長く続いたセレネイド女子修道院の歴史は幕を閉じることとなる。
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