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老犬あらわる

 アビゲイルは、魔導具の開発作成を専門とする魔導師だ。術者の才能によらない術式発動の研究が専門である。だれもが、魔導の恩恵を受けられる世界――アビゲイルは、そんな世界を目指している。


 選ばれしモノだけが魔導の力をふるうことを善しとする、王立魔導協会などからは『異端』とされる考え方だった。


 最年少で宮廷魔導士団に入団した天才【万能の大魔女】アビゲイルは、宮廷魔導士団の腐敗を告発し、そのまま職を辞した。

 そして、独力でその偉大なる研究を続けんとし――そして、今。



「よいしょ、よいしょ!」

「おお、かなり大ぶりだな」

「わぁ~、アビゲイルさん! 見てください、ジャガイモたくさん掘れました~!」

「ああ、豊作だ」



 よく食べ、よく眠る健やかなる『見習い聖女』――規格外の魔力を持ったエミリア・メルクリオと一緒に楽しく暮らしている。



「お芋掘りたのしー!」

「まぁ、悪くはないが――まったく。芋掘りなど、全自動収穫機に任せておけばいいものを」

「とうもろこしは、機械さんたちが頑張って収穫してますよ!」



 全自動で家事を行う魔導具たちは、エミリアの魔力によって以前よりもイキイキと動いている。

 さらに、研究に必要な魔力も、エミリアからほぼ無尽蔵に提供される。


 宮廷魔導士団から追放されてすぐにエミリアと出会えたのは、幸運というほかなかった。



「アビゲイルさん、今日はポテトコロッケがいいですっ!」

「了解した」

「あとあと、せっかく掘りたてなので、茹でて食べませんか? お塩をちょっぴりまぶして!」

「素茹で……? コロッケをつくるなら、そんなことしなくてもいいだろ」

「アビゲイルさんといっしょに食べたら、絶対おいしいですって! お芋を茹でるのなら得意なので、私がやります!」

「エミリア……」



 とてとてとて、と走っていくエミリアの背中を見送る。

 18才とは思えない小さな体――無鉄砲で、無計画で、自分のことをかえりみない危なっかしい『見習い聖女』だ。



「……だが、こんな生活も悪くないのかもな。たしかに、素茹での芋でもエミリアとともに食べれば、旨いだろう」



 長らく孤独を愛してきた大魔女は、誰かと囲む食卓の温かさを思い出してしまったのだ。

 だから、最初はただの好奇心で家に囲ったエミリアと――もう少しだけ一緒にいたいと、思ってしまっている。



「まぁ、エミリアも急ぐ旅でもなさそうだしな……って、んん?」



 畑の向こうに、なにか動く影がある。

 やけに小さく、不規則な動きをしている。

 アビゲイルの発明品、畑を縦横無尽に走り回る『全自動収穫機』ではなさそうだ。



「なんだ、あれは……?」

「あっ、アビゲイルさん! お鍋持ってきました~。そこのストーブでお湯沸かしてお芋茹でましょう! ……って、あれ? どうしました?」

「あそこに、何かいる」

「え……? ちょっと見てきますね!」

「あ、おい。エミリア!」



 アビゲイルに鍋を持っていてもらうと、エミリアは勢いよく走りだす。

 修道院を追い出されたころには、やせ細って弱っていた身体も日に日に回復している。



「わぁ! 犬ですぅ~!」

「犬……?」

「おいでおいで~、怖くないよ!」



 トウモロコシ畑の影から、ひょっこりと顔を出したのは、たしかに犬だった。

 ずいぶんと年老いているようで、毛並みもぼさぼさ、足取りよぼよぼ。

 耳もしゅんと垂れ下がっている。



「さぁ、こっちだよ~。怖くない、怖くない」

「野犬か……厄介だなぁ」



 座り込んだままで、老犬をじぃっと見つめていたエミリアが、アビゲイルを見上げる。



「……アビゲイルさん! この子にごはんをあげていいですか!?」

「は?」



 エミリアは、返事も聞かずにキッチンへと駆け出していった。


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★★★★☆評価 →普通に続き読みたい~♪

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― 新着の感想 ―
[一言] きっとただの老犬ではないんだろうなー(笑)
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