聖女の掟
『――汝、ためらうなかれ』
そう、一瞬でもためらえば、きっと助けを求める人を取りこぼしてしまうから。
『――汝、迷うなかれ』
そう、迷えば助けを求める人のもとに駆け付けるのが遅れてしまうから。
『――汝、疑うなかれ』
そう、天歌教の教えを疑えば、きっと助けを求める人に差し伸べる手が鈍るから。
***
汝、ためらうなかれ。
汝、迷うなかれ。
汝、疑うなかれ。
天歌教会の『聖女』たちに課せられた、絶対の掟。
セレネイド女子修道院で毎朝復唱する、大切な教え。
エミリアは、幼い頃からその教えを胸に生きてきた。
18才の年に行われる『聖女選抜』にむけて、貴族の子女は15才になると天歌教の修道院を訪れる。
家から『聖女』が出たとなれば、それはそれは箔が付くのだ。
けれども、エミリアは言葉もおぼつかない幼子の頃から、修道院で『見習い聖女』として暮らしてきた。
汝、ためらうなかれ。
汝、迷うなかれ。
汝、疑うなかれ。
ためらわなかったから、自分の食べ物を貧しい子供に全部渡せた。
迷わなかったから、多額の借金を自分で背負ってあげられた。
――疑わなかったから、これからも『人助け』ができる。
だから、これでいいのだ。
聖女を目指す『見習い聖女』、エミリア・メルクリオの在り方はこれでいい。
これで――。
「うぅん……?」
ぱちん、と瞼がひらく。
知らない天井。
ここは、どこだろう?
「エミリア!」
「……アビゲイルさん?」
「エミリア、また3日も眠り続けていて……体は大丈夫か」
「3日? ま、またそんなに!?」
アビゲイルと出会ったばかりのときに、宿屋『飛ぶ蛙亭』で三日三晩眠り続けてしまったことがあった。
また、そうなってしまったのか。
でも、体中に元気が満ちている。
「おはようございます、アビゲイルさん」
「……あぁ、おはよう。エミリア」
「心配させてしまって、ごめんなさい」
「……。別に、心配なんかしていない」
ぷい、とアビゲイルは顔をそむける。
その頬になにか光るものがあるのを、エミリアは見つけた。
(アビゲイルさん……泣いてる……?)
いや、そんなことはないか。
エミリアは思いなおす。
アビゲイルは、いつも自信満々で強くて賢い女性だ。
様々な魔導具を操る、【万能の大魔女】――エミリアを心配して泣いてしまうなんて、そんなそんな。
ぐゅぅうぅ~。
お腹からしょぼくれた音が響く。
「……エミリア、腹が減ったのか?」
「は、はい! おなか、ぺこぺこです」
「そうか……おいで、エミリア。階下で皆が待っている。ミセス・ソーセージバゲットも、ナディアも、それにリンもな」
「あっ! リンさんっ! 彼女は無事ですか?」
「あぁ、無論だ。ただ、元の家が落ち着くまでは、ミセス・ソーセージバゲットが引き取って育てることになったそうだ」
「そうですか、よかったぁ~!」
ちゃんと、人助けができた!
「……なぁ、エミリア。あんな無茶は今回限りでやめてくれ。君の魔力はまだ不安定……クエストで動き回って、ずいぶん消耗していたみたいだ」
「無茶……?」
「5億の借金を勝手に肩代わりするなんて、無茶以外のなにものでもないだろ!」
「それは……難しいですね」
「は?」
「汝、ためらうなかれ。汝、迷うなかれ。汝、疑うなかれ――それが、聖女のモットーですから!」
「……エミリア」
アビゲイルが、エミリアの手をぐいと引く。
豊満な体に、抱きしめられる。
エミリアは「ひぉ?」と間抜けな声をあげた。
「……エミリア。君は、もう少し自分を大切にしたほうがいい」
「それは、私には難しいです。アビゲイルさん」
だって、聖女は困っている人をみんな助けるための――特別な存在なのだから。
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