大魔女との出会い
「お、お腹空いたよぅ……」
ぐぅうぅ~、と切なくお腹が鳴る。
修道院を追放されたエミリアは、道端で丸まっていた。
お腹空いた、ひもじい、ねむい。
もう一歩も動けそうになかった。
「あの子たち、パン……おいしく食べてくれたかなぁ……」
一応、エミリアも旅の途中で食べる食料は持っていたのだ。
修道院で焼いている、固いパンとか。
しかし、いまエミリアはひとつも食糧を持っていない。というのも、先ほど街道のそばに建つ粗末な家の前を通ってしまったのだ。通っただけならばよかったけれど、家の前に座り込んで、ちゅうちゅうと指をしゃぶっている子どもと、目があってしまった。そばにいた、その子の姉とおぼしき、少し年上の女の子はエミリアに頭を下げて言ったのだ。
『あの、そのローブ、天歌教の聖女見習い様だとお見受けしました。よろしければ、ほんの少しでもお恵みをいただけませんか……私たち、もう何日も水しか飲んでいなくて』
『あげる、あげるよ! パンも、えっと、少しですけどチーズも! 全部持って行っていいんだよ!』
助けてあげなくちゃ、という一心でエミリアは持っていた食料をすべてその子たちに差し出してしまったのだ。
そういうわけで、いま、エミリアの手元には一切の食料がないのである。
女の子は泣いて喜んでいたけれど……エミリアの食料は、もう、ないのである。
「うう……ひもじいよぅ……」
セレネイド女子修道院のある森から近くの街に続く街道の端っこで、めしょめしょ泣いているエミリア。
そんな可哀想な『聖女見習い』に近づいてくる影があった。
「なぁ、さっきからそこに転がってるけど、大丈夫か?」
「わわっ、ごめんなさい!」
「いや、私に謝らなくてもいいのだが」
そこに立っていたのは、とても美しい女性だった。
輝くばかりの金髪は腰まで伸びていて、すらりとした手足は長くて引き締まっている。かっこいい。
大きなつばあり帽子が似合っている。
エミリアが育った修道院では、みんなが同じ質素なローブを着ていて、みんなが同じ清貧な食生活を送っていた。みんな痩せぎすで、特にエミリアは発育が悪かった。今年で18才になったはずのエミリアだが、初対面の人間からは高い確率で12才、13才くらいだと思われてしまう。
つまり、目の前に立っているようなものすごくかっこいいスタイルの女性を、エミリアは生まれて初めて目にしたのだ。
「なんだ、じろじろと人のことを見て」
「あ、いや、あなたがすごく、かっこいいなって思って……」
「……褒めても何も出ないぞ。見たところ、天歌教の『聖女見習い』か?」
「はいっ! 『聖女見習い』の、エミリア・メルクリオです。天歌教団セレネイド女子修道院から来ました! 何かお困りですか、私が必ずあなたを救いますっ!」
「いや、どう見ても困っているのは君の方だが……」
「うっ、それはそうかも」
「まぁ、いいさ。私の名前はアビゲイルだ。ただのアビゲイルでいい」
「アビゲイルさん……」
ぐううぅぅ~。
お腹が鳴った。会話の切れ目に、腹の虫の鳴き声が響き渡る。
「あ! ご、ごめんなさい」
「腹が減っているのか?」
「は、はい……」
「ふむ、見たところ、ずいぶんと痩せているが……顔色も悪いな。ひどいクマだ」
「えっ、そ、そうですか! 普通だと思うけど……」
「……ついておいで」
「え?」
「近くに、いい食堂がついてる宿屋を知ってる。もう日も暮れるし、そこに泊まろう」
「で、でもお金が……」
「私がおごるよ」
「えっ!」
ぱぁっ、と明るい声が出てしまう。
はしたない、と思いつつも「食堂」という単語にエミリアは心を躍らさずにはいられなかった。お腹が、すいたのだ。
「さっき、パンやらチーズやらを恵んでいたが、自分が食べるぶんくらいは残しておくとか考えなかったのか?」
「わっ! 見ていたんですかっ!」
「ああ。まったく、ひどいお人よしだな」
アビゲイルは肩をすくめて、歩き出す。
エミリアは、すくない荷物を持ったままアビゲイルの後ろを素直についていく。
「……エミリアといったか、私の顔や名前に見覚えはない?」
「え? す、すみません。どこかで会いましたっけ……?」
「いや、ないならいいんだ。そのほうがいい」
「……?」
つばあり帽子のアビゲイル。
修道院のなかで育ったエミリアには知る由もないけれど、つばあり帽子のアビゲイルといえば『偉大なる万能の大魔女』の二つ名とともに知れ渡っている有名人だ。王国でも三本の指に入るという若き天才。あまりにも優秀過ぎ、研究に明け暮れた結果、最近、アストラ王国の宮廷魔導師団から追放されたという曰く付きの大魔女である。
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