婆の名は。
「ふぅ。大丈夫でしたか、お嬢さん?」
晴れ晴れした笑顔のエミリアに、アビゲイルが呆れ半分で声をかける。
「エミリア……お人よしだとは思っていたが、ここまでとはな」
「そうですよ、聖女様! ご、ご、5億なんてそんな金……トマトをいくつ売ればいいやら!」
「あぁ……聖女様……ありがとうございます……リンのために……ご自身が身代わりに……」
アビゲイルの腕の中で真っ青になっている少女。
ソーセージバゲット屋のお婆さんも血相を変えている。
とりあえず、少女が助かってよかった。
「で、エミリア。何か策があるのか?」
しかし、エミリア本人は、しごくマジメに紙の束を取り出した。
そう、仕事のアテはある!
「はい、稼ぎましょう……ギルドのクエストで!」
ちなみに、ギルドのクエストの平均的な報酬は5万から20万である。
***
ソーセージバゲット屋のお婆さんと、少女(リンという名前だそうだ)も一緒に冒険者ギルドにやってきた。
事情をきいたギルドの受付嬢のナディアはとても感動した様子で、エミリアに握手を求めた。
「あ、握手……? べ、別にいいですけど、えっと、そういうわけで! とにかく、いっちばん報酬の高いクエストをおねがいします!」
「わ、わかりました! そういう事情でしたら……でも……」
「難易度の話か? ならば、私の最上級ランク……『白銀馬バッヂ』をもって受け付けるというのはどうかな」
「アビゲイル様!」
「エミリアの、あの【神竜級】の魔力は見ただろう?」
メリル市の名物である大規模魔力測定器を、あえなく測定不能に追い込んだエミリアの魔力。
アビゲイルは、その研究をしているわけだが……実際のところ、何がエミリアにそのような力を与えているのかはわからない。
しかし、エミリアには無尽蔵にひとしい、清らかな魔力がある。それだけは事実だった。
「私とエミリアであれば、いかなるクエストも受けられる……そうじゃないか?」
「たしかに、そうです。でも、実は一番高い報酬のクエストは100人編隊が求められるものでして……」
「そこ、どうにかしてくれないかい!」
ソーセージバゲット屋のお婆さんが、ギルドの受付前で土下座をした。
ナディアが、驚いて叫ぶ。
「なっ、あなたは……ミセス・ソーセージバゲット!」
「頼むっ! この通りだ!」
「ミセス・ソーセージバゲット、いけません。顔を上げてください!」
「聖女様とアビゲイル様には返しきれない恩がある、アタシの顔に免じて、そのクエストを発注してくれないか!」
「そうですね……長年、メリル市の孤児院に寄付を続けていらっしゃる、ミセス・ソーセージバゲットが言うことでしたら、ウエの者も納得するかもしれません」
「この通り、頼む!」
「はい、善処します! 明日には必ず発注をできるようにしますので、今日はこちらにお泊りください」
お婆さんの必死の説得に、ナディアが力強くうなずいた。
明日の朝一番にギルドに来て欲しい、とナディアが近くの宿の宿泊券をくれる。
「……。って、ちょっと待ってくれ! 流しそうになったが、ご店主、あなた……ミセス・ソーセージバゲットという名前なのか?」
「え? あぁ、ソーセージバゲットってのはアタシの名だね」
「わぁ、素敵なお名前ですねっ。お婆さん! ……じゃなくて、ソーセージバゲットさん!」
「ありがとうございます、聖女様。光栄ですよぉ!」
「……ソーセージバゲット屋っていうのは、あの食べ物の名前じゃなかったのか……」
「いや、どうせ同じ名前だし、ソーセージバゲットでも売ったらいいと思って長年あの店をやってるんだよ。アビゲイル様には言ってなかったかね?」
「……聞いてない。衝撃的な事実すぎる」
なんとなく引っ張ってしまっていた、「お婆さんの名前を聞く」というタスクのまさかの顛末に、アビゲイルは肩を震わせていた。
さて、明日の早朝――エミリアの初めてのクエストがはじまる。
作者取材(じゃがいも掘り)のため、明日は更新が1回になるかもしれません。
ご了承ください。
―――
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