ぐうたら聖女、追放
「エミリア・メルクリオ、こちらにいらっしゃい」
「はいっ、ただいま参ります!」
修道院長に呼ばれたとき、嫌な予感はしていた。
お説教や処罰を言い渡すとき、修道院長はいつだって『聖女見習い』たちをフルネームで呼ぶ。
エミリアはおそるおそる修道院長室に入る。
「話は手短に。エミリア・メルクリオ」
「は、はい」
「今日をもって、このセレネイド女子修道院から出ていきなさい」
「えっ!」
「あなたは、この天歌教の『聖女見習い』にはふさわしくありません」
「そんな……どうしてですか……」
「天歌教の『聖女』は、質素な食事で日々を過ごし、寝る間を惜しんで人々を助けることが求められます」
「はい……」
「あなたは、この修道院の誰よりもよく食べ、よく眠っていると、シスター・ココナから密告がありました」
「そ、それは……」
「聞けば、あなたは他の見習いたちから『落ちこぼれ』とまで呼ばれているそうですね」
「それはシスター・ココナが言いふらして……」
ココナというのは、このセレネイド女子修道院にいる『聖女見習い』のなかで一番の優等生だ。
ほんの少しのパンでよく働いて、夜も遅くまで起きて勉強しているし、朝もやたらと早く起きている。
けれど、ものすごく意地悪だと評判だ。
いつでも、誰かの失敗を告げ口したがっている。
「それに、私どうしても眠くて、お腹もすいてしまって……でもっ、なるべく我慢しているんです」
「極めつけはこれです」
「これ……魔力測定器ですか?」
「その通り。触ってみなさい、シスター・エミリア」
エミリアは言われた通りに魔力測定機に手を振れる。
「……はぁ、やはりね」
「何か問題が……?」
「針がぴくりとも動きません、こんな反応見たことがない」
「壊れてるとか……」
「いいえ、壊れてなどいない。おそらくあなたには測定できるほどの魔力がないのでしょう」
「そんな!」
「昨日、正式な『聖女』になるための予備検査がありましたね」
「あ、ありました」
エミリアは、予備検査のために必死で眠さやひもじさを我慢して準備してきた。
結果は悪くなかったはずだ。
「いいですか、エミリア・メルクリオ」
「……」
「よき『聖女』になるためには、魔力が必要です。あなたには、魔力がない」
「だから……私はここから追い出されちゃうんですか……」
「そうです、あなたは『落ちこぼれ』なのですよ。エミリア・メルクリオ」
これ以上は無駄だ、と判断したエミリアは修道院長室から退出した。
天歌教は、この世界でいちばん大きな宗教だ。
たくさんの信者を、世界中にもっている。
人気の一番の理由は、あらゆる病気や怪我を癒す不思議な力をもつ『聖女』を養成して世界中に派遣する女子修道会の存在だろう。
エミリアも、その『聖女見習い』のひとりだった。
つい、さきほどまでは。
小さい頃から、人助けをして世界を旅する『聖女』に憧れていた。
その気持ちは、きっとセレネイド女子修道院のなかでも一番だろう。
それなのに、こんなに簡単に追い出されてしまうなんて。
「……おなか、すいちゃった」
ぐぅ、と内臓が空腹をうったえる。
とても、ひもじい。
エミリアは、人よりもお腹が空きやすい。
そして、人よりも睡眠時間を必要とするタイプらしい。
ただ、それだけのことで『聖女』になれないどころか、修道院からも追い出されてしまうなんて。
エミリアは少ない荷物をまとめて、セレネイド女子修道院の裏口から外に出る。
数人の見習い仲間に見送られて、エミリアは修道院をあとにした。
エミリアはあることに気がつく。
「外の世界って、はじめてだな」
幼い頃から、ずっと修道院で暮らしてきた。
外の世界をひとりで歩くなんて、初めてだ。
「『聖女』にはなれなかったけど……私にも何か人助けができるかも!」
エミリアは、旅人用の杖をぎゅっと握りしめた。
幼いころから育ってきた修道院を追い出されてしまったことは悲しいけれど外の世界というのはほんの少しだけ、わくわくする。
新連載です。
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