エピソード0 素敵な片思い人と僕
あらすじにも書いたように、自分の面白いを詰め込んだだけですので、設定も言葉使いもストーリーも何もかも稚拙でございます。
一日一本を目標に頑張っていくので、応援と不備な点をご教授いただければ幸いです。
「好きです。僕と付き合ってください。」
端的に告げられた、愛の告白。
世界の支柱——この世界に5としかない〝世界樹〟の下で告げられるのは、嘘偽りないという証明で使われる。
その真実の告白は、非常に大きな意志の表れだ。
そして、そんな神聖なる御前で己の胸に刺さり続けたなんとも言い表せない恋なる願いを告げるのは、年齢15歳のマージナルマン。しかし、その容姿は年に似つかわず純情可憐。身長も150センチあまりで体も細々しいというのが、彼——トニー・プラリネであった。
告白からの刹那、トニーは平然を装うため口をほんの少しだけ開けて深呼吸をし続ける。心臓の音が大合奏を始めている。今なら、どんなに殴られても痛くないような気もしてくるようなメンタル調節。告白の返事も勿論大事だが、今はこの心臓の呪縛を解きたい方が上かもしれない。
トニーは、自分の精神の弱さ、つまり、ヘタレさに改めて落胆する。
「……ねぇ?」
「………………!!ヒックゥ!」
しゃっくりの到来。自分の胸を体温感じる手で押さえたい気持ちをグッと堪えて、震える口をゆっくりと動かしポーカーフェイス。
目の前を大好きな彼女——名をリンという——は、トニー程ではないが緊張した面構えで力強く視線を外すまいと努める。
「な、ヒックゥ!なに……ヒックゥ!」
余裕ある態度で見栄を張ろうという意図が筒抜けであり——そもそもできていないのだが——、リンは安堵し強張った顔が少し緩み、彼女は自然と笑みをこぼし小さく笑う。
笑われてしまったトニーは、緊張していたのがバレたのかと動揺し腕がプルプル、足がガクガクと力があらぬ方向にばかり向いてしまう。
「緊張してるの私だけじゃなくてよかった。」
リンは胸を撫でおろし、その端麗な顔に優しい微笑を乗せトニーにその透き通る空色の瞳を向ける。先程と比べ強張った様子は特になかった。
一方のトニーは、複雑な気持ちであった。焦りは消えたが、その分それは男してどうなんだと自尊心と葛藤が起きていた。つまり、彼の心境の状態は何ら変わりはなかった。
「それで、答え決まったけど……言うよ?」
心臓のポンプが一トンはある重しによって弾んだ。耐えきれなくなり、トニーは胸を両腕を使い包み込む。彼の精神はこの段階で要介護だ。
「う、うっ、うっすぅ。」
気の抜けた声、まるで飯に飢え路頭に迷う子犬のような短絡な嘆き。
トニーが両手で顔を塞ぎ大きく息を吐くのと同時にリンは、目の色と同じ空色の髪を肩に掛けながらめいいっぱいに空気を吸う。
「…………………………ご、ごめんなさい……………………付き合えません…………。」
吸った空気の量とは比例しない、それはそれは小さく申し訳なさそうに、断りの言葉、思いを伝えた。
その瞬間をトニーはちゃんと目視した。目を離さないようにと、彼は怯えず、信念を貫いていた。
そして、その眼は伝えられた後もリンの目線を捕らえ離さなかった。
それは意志からくるものではなく、思考のシャウトによるいわゆる啞然という状態。虚無の時間は何も感じない。しかし、人は丈夫であるが故にすぐさま思考を始める。
口角は限界まで下がり、頬はピクピクと痙攣する。そして、眉間にしわが寄った頃、瞳は潤みそれは雫の如く綺麗で純粋だった。
トニーの体はなに一つ動いていない。しかし、トニーは感情の赴くままに口を動かす。
「な、なんでなのか…………教えてほしい。」
しゃっくりは既に止まり、トニーの言葉を阻むものは何もない。本当はこういうのを聞くのは野暮だということは分かっているはずなのに、実際にその状況下に置かれてしまうと仕方ないとしか言いようがないと思う。
「ヘタレな人は、好きになれない。…………ん~っとね。私がさヘタレだからさ、私はそれを支えてくれる人がいいなって思ってて。トニーが嫌いなわけじゃなくて、だってトニーは優しいし。」
何を僕は、こんな馬鹿なことを?トニーは、自分の愚かさに気付く。
リンはいつでも優しい、空のように広く健やかな雰囲気で人に気遣う。そんな所を好きになったのに。好きな人を支えてこその理想の男だと、常に思っているのに。肝心な時に、いつもそうだ。だから、僕はヘタレなんだ。
「だから、ごめん。」
最後のお告げ。トニーは、コックリと頷く。
それと同時に思い貯めたものが、トニーから零れる。
「リンは、…………リンは、優しいだけだ…………ヘタレじゃない…………僕と一緒じゃない…………そんな純粋な優しさに救われて、好きになったんだから…………優しさって、物凄い勇気がいるんだよ…………だから、凄いよ…………羨ましいよ…………大好きなんだよ…………」
情けない限り、嘆いている。
小さい頃、夢に抱いた、この世界の未知を探る〝冒険者〟。今も追い続ける、その夢にいつになったら一歩を踏み出せるのだろうか?小さい頃の僕が見たら、どう思うかな?多分鼻で笑うんじゃないかな。
ヘタレって、病気だったらいいのに、だったら薬があってそれ飲んだら治るんだから。
もしかして、こんなこと考えているうちは、無理って事なのだろうか。
「ありがと。…………じゃあ、行くね。」
リンは振り返らず、そのまま走り去る。トニーの目線は、リンが見えなくなるまで彼女を追い続けていた。それは、また捨てられた子犬のように。
遂には、体を縛っていた縄が全て解かれ、トニーは膝から崩れ落ちる。
不思議なことに涙というのは、拭けば拭くほど溢れ出す。だけれども、拭わずにはいられない。
トニーは、世界樹にしがみつく。直径1キロ以上の巨木。しがみつくと言っても、腕を大きく開いて張り付くような図。しかし、その世界を支える神なる樹木と言っても過言ではないものからは、傷心を癒す母愛にも勝る語らない凄みがある。
必死に泣声を堪えていたトニーも、もう堪える必要はない。
彼は、ただ泣いた。
必死になって、愛を嘆いた。届くはずのない思いを妄想という形に変形させようと、現実を思い出しまた悲観する。
呼吸が詰まり、嗚咽が起こる。
そこで、トニーの癇癪は少し納まる。
鼻水は顎まで垂れて、涙で目も目の下も真っ赤に染まる。告白の成功のためにとセットしてもっらた髪ももうこんがらがり、彼の特徴であり悩みであるくせ毛がよく現れている。
トニーは、世界樹にしがみついた後全ての体の力が抜けたように世界樹の根本の美しの草原に腕を大きく広げ大の字で仰向けになり寝ころぶ。全ての負をそこに乗せたかのように、トニーは青息吐息を出し口元から笑みがこぼれる。
「ドンマイ。人生、楽あれば苦あり。そんな簡単な仕組みで出来てる。今辛くても、次は良いことあるさ。」
そっと頬に触れ、トニーに励ましを与えたのは彼の姉——ビンス・プラリネであった。ハハハと陽気な笑顔で、もう一方の手でくしゃくしゃな頭をゆっくり撫でくれている。
トニーは恥ずかしいながらも、母代わりのビンスに逆らえないし、今は彼自身も甘えたい気分だった。
涙は、出し尽くしたと思っていたが、ほろりと目尻から流れた。
「立ちなさいよ、トニー。早く立たないと、もう二度と立てれなくなるよ!」
「うるさいなー。…………ほんとにっ…………。」
トニーは、ビンスに手を引かれ半ば強引に立たせられる。
「…………ありがと。」
「ハハハ!どういたしまして!」
トニーは頬を赤らめながらもビンスに感謝を告げる。ビンスは、それを受けて胸がすっとした気持ちになる。感謝とはやはり大事なものなのだ。
「それより、なんでここ居るの?」
ビンスはギクッと体を震わせる。
「いやー、それはー、まぁ勝手見に来ちゃったっていう、感じかなーなんて。…………すいません!」
トニーのジトーっという目線に耐えられなくなったビンスは躊躇なく頭を下げた。そして、トニーは、可笑しく大声で笑った。
「ねーちゃん、これで貸し借り0ね。」
「えーーー!」
「「ハハハ!」」
そんなことをトニーは言いながら、どうやってビンスに感謝を返そうか考えながら帰路についた。
一応、この作品は、どこかの文庫さんの新人賞に応募させていただけたらかなと思っていますので、その辺を広く見ていただければこの上ない幸せでございます。