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あれからクライド様が私を見つめてくることもなくなり、噂も徐々に落ち着いてきているらしい。よかった。
今日はクライド様が家にファンディを見に来る日だ。家に来たとばれないようにしてほしいと何度も念を押したし、家の両親にもあくまで猫を見に来ていると説明してある。
予定の時間なのだが、まだ来ない。何かあったのではと窓を眺めてしまう。
家の門が開き馬車が入ってくる。…話が違うわ。
家紋も何もついてない地味な馬車で来てねって言ったのに、あの金ぴかな馬車は一体なんなの?あれじゃ公爵家が家に来たって丸わかりである。
急いで玄関へと向かう。…嫌な予感がするもの。
玄関へと出ると馬車からちょうどクライド様が降りたところであった。
「本日はお招き頂き感謝します。」
そう言って私に両手に余るほどの立派な花束を渡してくれた。とっても綺麗だけれど、一体どうした。
「…もしよろしければ伯爵に挨拶させて頂いても?」
私が固まっているとクライド様がまたもやとんでも発言をする。そんなことをしたら家の親が勘違いしてしまうではないか。
「必要ありませんわ、クライド様はファンディに会いに来ただけですもの。お花ありがとうございます」
丁寧に挨拶するクライド様につられて私も敬語になってしまう。
慌てて否定するが、どうしても挨拶したいと言うのでしょうがなく客室へ案内する。
簡単な挨拶をするだけだからと、私は先にファンディの所に行っていることになった。両親が変なことしてなきゃいいけど。心配だわ。
暫くファンディと一緒に遊んでいると、クライド様がやってきた。
ファンディを見て嬉しそうに寄ってくるが、それより先に聞かなくてはいけないことがある。
「一体あの馬車は何なの?あれじゃあ周りにばればれよ。それに挨拶も必要ないわ」
私が少し怒っていうと、クライド様も少し困り顔で
「私もそう思ったんだが、うちの執事が令嬢の家に行くならこれじゃないと許さないと煩くてな」
どうやら私が初めて令嬢の家に行くと言い出したものだから張り切ってしまったらしいと苦笑いで話した。
「…怒っているか?」
しょげた様子でこちらを伺うのはずるい。怒っているのに怒れないではないか。
私の家にクライド様が来たという噂が流れるのは間違いないだろう。明日が怖い。
笑って許されることじゃないと思いながらも、捨てられた子犬のような目に笑ってしまう。
女生徒は怖いが、まあなんとかなるだろう。
「…許すわ」
私の言葉にクライド様が笑顔になる。
「そう言ってくれると思った」
…やられたわ。悔しい気持ちも少しあるが、なんだかんだ可愛くて許してしまう。
「もういいから、ファンディと一緒に遊んであげて」
せっかくファンディに会いに来たのだ。一緒に遊ばなければもったいない。
しばらく一緒に遊んだ後、おもむろにクライド様が小箱を取り出した。
「実は花束の他にもプレゼントを持ってきたんだ。よければ受け取って欲しい」
嫌な予感、再び。小箱を受け取り、恐る恐る中を見ると青みがかった緑色の宝石があしらわれた髪飾りであった。花の意匠の髪飾り…スターチスかしら、小さな花が連なっていてとても可愛いし繊細。お高いものに間違いない。
「こんなに高価なものもらえないわ」
慌てて返そうとするもクライド様は受け取らない。
「レイテの為に買ったものだから、受け取ってくれると嬉しい。ファンディの世話もしてもらっているし」
そう言って、また子犬のような目で私を見てくる。
「…今回は受け取るけど、贈り物なんかなくても家に来てファンディと一緒に遊んでくれていいんだから次からはやめてね」
また、あの目に負けてしまった。
「ありがとう。ファンディとレイテに会いに来るよ」
そう言ってクライド様は帰っていった。
最後までお読みいただきありがとうございました。