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庭でファンディが走り回るのを見つめながらお茶を飲む。至福の時だわ。
「レイテ、この間あなた達二人を裏庭で見たって噂になってるわよ。しかもテルマイコス様は愛しいものを見つめるかのように、それは優しい微笑みだったとか。」
一緒にファンディを見ていたミルンが言う。
…それはそうでしょうね。愛しいファンディを見つめていたもの。
「だから何度も言ってるけど、何の関係もないわ。ただお互い猫が好きなだけよ」
「でもテルマイコス様って、レイテのことをよく見つめているから噂に半信半疑だった人も本当なんじゃないかってなってるわよ」
噂が悪化している。ファンディが家に来てから裏庭には行かなくなり、噂は自然となくなると思ったのだが、まさかあの一度の会話を見られるとは…。
しかもテルマイコス様が会うたびに何か聞きたそうに私のことを見るのだ。まあファンディが気になるんだと思うけど。これでは噂は無くならい。
私はそっとテルマイコス様に注意をしようと決意したのであった。
…また見られている。視線を感じて振り返ると案の定テルマイコス様がいた。いつもは無視するんだけど、今日は目で着いてくるよう合図を送る。
よく考えると大分失礼な気もするけど、まさか人前で話すわけにもいかないし、苦肉の策である。
着いてきてくれるか不安だったけど、大人しく裏庭に来てくれたので安心する。
周りに人がいないかしっかり確認してから、口を開く。
「会うたび会うたびに見つめないでください。噂が消えませんわ」
「すまない。ファンディがどうしているか気になって」
テルマイコス様が恥ずかしそうに答える。予想通りファンディの話が聞きたかったようだ。
「人目のないところでならお話しますし、ばれないようにして頂けるなら家に会いに来てもよいですから、むやみに見つめてくるのはやめてください」
人目につかないようにすれば、まあ許容範囲である。逆の立場だったら私もテルマイコス様を目で追ってしまうかもしれないし。
ファンディに会えないのは辛い。
「ありがとう。今後は君を見つめたりしないと誓うよ」
「そうして頂けると助かります」
これで私たちの噂もなくなるだろう。最近女子生徒の目線が怖かったのよ。
そんなことを考えていたらテルマイコス様から思いがけない言葉が飛び出してきた。
「…あと私のことはクライドと呼んでほしい。敬語もいらない。ファンディを飼ってくれるなら君も俺の家族同然。というか家族になりたい」
…女子生徒に殺されるやつ。絶対無理。テルマイコス様を見るとじっとこちらを見つめている。
「…」
「…」
お互い黙って見つめあうこと暫し。根負けしたのは私のほうだった。
「…分かったわ。私のこともレイテでいい。だけど呼び捨ては流石にできないからクライド様って呼ばせてもらうわ。あと人前では今まで通りに話させてもらうから」
「分かった。…レイテ、ファンディの話を聞かせてくれないか?」
私の言葉に少し不満げだったけど、さすがに呼び捨てにはできないし、女生徒の前で親し気に話すなんてもっての他なので諦めてもらう。
最近のファンディのことを話し、用があるときは合図をすることと今度家に遊びに来ることを約束して別れた。
最後までお読みいただきありがとうございました。