第四話
鑑定とはその人物に宿る能力を可視化すること。スキルとはいわゆる特殊能力のことで、俺が今まで見てきた少し未来のシルエットがそれに該当するはず。
子供は五歳までにスキルに目覚める。そのため五歳になった子供は一度スキル鑑定を受けることになる。
シルエットを見る能力に関してだが、現在はシルエットと実体(本人)の距離感を自由に操れるようになった。
シルエットと実体の距離をゼロにすれば今まで見てきた当たり前の光景。シルエットと実体の距離を放せば、それは未来の光景になる。
コントロールにはそれなりに時間がかかったが、特にやることもなかったのでそれでよかったと思っている。
普段はゼロ距離にしていちいち未来が見えないようにしている。例えば道を歩く人が二倍になれば、それだけで辟易するからだ。
スキル鑑定は鑑定所という場所で行う。
ベンさんに連れられ、鑑定所に向かった。そこまで時間はかからない。
この国は相変わらずの景色だ。一歩孤児院の外に出ればエアボードが空を飛び、人々を目的地に運んでいる。まるで地球そのものみたいにビルに近い建物も沢山ある。パイプや何らやらは外にむき出しで、建物には角はなく不思議な形をしているものも多い。
【グラン・サトウ】という冗談みたいな名前の通り、もしかすると俺のように日本人がこの世界に先に来ていたのかもしれない。
それについて調べるのは俺が孤児院を出てからでも遅くはないだろう。
俺とベンさんはそんな景色に囲まれながら鑑定所に向かった。
どこにでもある一軒家、それが鑑定所の印象だった。
「いらっしゃいませ。」
中に入ると看護師のような恰好をした女性が受付をしてくれる。
女性は俺の方を見ると目的を察したようですぐにベンさんの方に視線を戻した。
「スキル鑑定ですね?」
「ええ。よろしくお願いします。」
「今日は空いていますので、直ぐにご案内出来ます。」
ベンさんと俺は女性の後をついて行く。室内はどこにでもある木目調で、なんとなく暖かい感じがする。デザインに少しだけ凝った病院みたいな感じだ。
少しだけ複雑な作りになっており、廊下を三十秒ほど歩いた。
案内してくれた女性が奥の部屋の扉を開けてくれる。
中には一人の男性が座っており、何かの書類と向き合っている。鑑定所の役割はスキル鑑定だけではない。それ以外の仕事を片付けているのだろう。
男性はベンさんの方へ視線を向けた。
「いらっしゃいベンさん。今年は一人なんだね。」
ベンさんの孤児院という生業の都合上、鑑定所にはそれなりに足を運ぶことになる。鑑定所の先生と顔見知りになるのは不思議なことではない。
「あぁ、よろしく頼むよ。」
男性の目の前に用意された二つの椅子にベンさんと俺で座る。
俺が席に着くと、男性が話始めた。
「初めまして。僕は神崎 卓というんだ。君は?」
「レント…です。よろしくお願いします。」
神崎さんは俺の名前を聞くと少しだけ不思議そうな表情をした。先ほど神崎 卓という名前を聞いた俺の反応と一緒だ。明らかに和名。この世界の名前ではない。
彼は和名とは対照的にやや派手な金髪をしていて、無造作に伸ばしている。染めている様子はないため地毛なのは間違いない。瞳は青色だ。
体はほっそりとしていて、彼が戦うところは想像できない。白衣に身を包み、椅子に座っているだけだがこの病院のようにどこか柔らかな印象がある。
「…まぁいいや、とりあえず鑑定を始めようか。」
彼は机の引き出しから一枚だけ用紙を取り出すと、それをバインダーに挟んだ。
そのままそれを俺の方へ差し出す。
「そこに手を置いてくれ。」
バインダーに置いた俺の手の上から、さらに神崎さんが手を重ねた。
「【アプレイザル】」
彼が鑑定魔法(鑑定するための魔法)を使用すると、用紙に文字が刻まれていく。
「ふむ…?」
スキル鑑定後の用紙を神崎さんが見る。
「【干渉爆破】…それが君のスキルみたいだね。それ以外は…特にないかな。触れた物を爆発させるシンプルな能力だね。」
俺は思わず疑問気な表情をしてしまった。
例のシルエットが見える件とは全く関係がなかったからだ。
それに爆発にはあまりいい思い出がない。
「あの…他には何も?」
「ん?そうだね。これだけだよ。」
神崎さんは断言する。
やはり俺のもう一つのスキル…特殊能力に関しては何も表記されていないらしい。
「おっと、スキルをこの場所で使わないでくれよ?君のは見るからに戦闘向けだからね。…それともう一つわかったことがあるんだが…。」
神崎さんがベンさんの機嫌をうかがうように見る。
「…まさか病気か?」
ベンさんが声色に警戒を乗せて話した。
【アプレイザル】は同時に対象の向き不向きを見る役割もある。それに病気の有無や体の弱い箇所も見ることができる優れた魔法だ。
それだけに使用できる者は非常に少なく、こうして仕事として成立する。
「どうも彼は魔法の才能が全くないようだ。戦闘系のスキルを持っているから将来そっちの仕事に就くのがおすすめだけど、スキルだけで仕事をすることになる。」
「そう…か。仕事の形はいくらでもある。それくらいなら何の問題もないさ。」
ベンさんが安心したようにホッと一息ついた。
だが俺としては残念だった。正直異世界に来たのなら少しは魔法を使いたかった。