第三十三話
「それで、我々は今彼女のイベント警備依頼がしたいのでござる。」
…ござるッ!?
レントはその語尾に驚いて万里雄を二度見する。とうとう語尾までもが変異し始めていた。
「なるほど、それでしたら今一番近いイベントが丁度あいてますよ。」
アイシャが手元の資料を見て答える。
「え?人気のアイドルとかじゃないんですか?」
警備任務でも人気アイドルならばすぐに埋まるものなのではないかとレントは思わず聞き返した。
「ええ。彼女は確かに人気です。ですがその人気ゆえに彼女のイベント…ライブには人が沢山集まりますから。イベント警備といってもかなり過酷なんですよ。冒険者ならもっと割りのいい仕事はいくらでもありますからね。」
「そ、そうなんですか。」
どうも霧島 可憐というアイドルは、レントの想像を遥かに超えるほどのアイドルらしい。ただここでレントにはもう一つ疑問が思い浮かんでしまった。一度思い浮かんだ疑問を胸にしまうのはなんとなく気持ち悪かったので、レントはそれについても質問する。
「なんでこのギルドに依頼があるんですか?」
「…信頼ですよ。このギルドはお金目的じゃない人間が集まりやすい仕組みになってますから。…ギルド長がアレなので。ですから仕事を真面目にこなす人間が多いんです。その結果このギルドには毎日沢山依頼が回されてきますし、その内容にも得てきた信頼が繁栄されているんです。他のギルドからすれば少し驚くような良心的な依頼も沢山あります。」
「確かに、依頼料よりもギルド制度の質が高い感じですもんね。」
レントはその説明に素直に納得した。もし彼が依頼主だったとして、やはり信頼の厚い、それも国内最強の男がいるこのギルドに依頼を出すだろう。
「ここだけの話、可憐ちゃんのイベントに関してはこのギルドだけに入ってきます。得られるものが少ないとはいえ、このギルドには優しい人も多いですから、残る席は後三つでした。結構ギリギリでしたね。」
「よかったでござる。」
そういうと万里雄は鼻から機関車のように息を噴き出した。
レントはその様にすらドン引きして見ている。
「それで、日程は?」
ただ依頼を受けた以上もうどうしようもないので、レントは早速依頼について話を進める。
「今夜です。」
アイシャは表情一つ変えずに即答した。
「…えっと…え?」
そしてとりあえずもう一度聞き返してみる。
「今夜です。」
「むっほーーーーー!!!!」
すると隣の万里雄が突然吠え出した。レントは驚いて一瞬だけ体を震わせる。同様の反応をしたのはレントだけではなく、周囲の冒険者たちもこちらを見ていた。
すぐにレントは周囲の人に軽く御辞儀をして誤っておく。どうも以前アイシャに告げられた嫌われているというのは事実らしく、音の発信源がレントたちだと分かると舌打ちする者がほとんどだった。
「どうしたんだよ?」
レントはそんな周囲に悲しみを感じながらも、突然叫びだした万里雄に状況を確認する。
「だ、だって、まさか依頼を受けようと決心した当日に夢が叶うだなんて…恐悦至極にござるよ。」
武士なの?最終的に武士になるの?
レントは万里雄から物理的にも距離を取りたい気持ちを抑え、必死に自分を納得させる。今日だけ我慢すればきっと明日には万里雄が元通りになると信じて。
「あぁ…そういえばバレンさんに惚れてなかった?」
「ふっ、恋愛と追っかけは別腹でござるよ。バレンさんが女神であるなら、可憐たそは天使。」
「意味は全く分からないが、とりあえず嬉しそうでよかったよ。」
「それではギルドカードをこちらに‥‥」
その後二人は依頼の登録を済ませた。いつもよりも遥かに鼻息の荒い万里雄を抑えるのにレントが手こずりつつ、さらにアイシャにひかれつつ。
やがて周囲の冷たい視線をよそに、二人はギルドを後にした。
●
イベント警備の依頼を受け、二人はその場所まで移動していた。
グラン・サトウはそれなりの大きさを持つ国なので、結構移動が大変だ。広さで言えばアメリカ以上は優にある。
魔法技術の発展により、各地に設置されたテレポータルから一瞬で移動できるが、この装置を開発するまでは移動だけでも相当な手間だったはずだ。
二人が来たのはグラン・サトウ内で最も都会とされるアキバという地区だ。これも確実に建国者が名付けたと断言できるほど地球にかぶっている。
町並みは二人がいた【人狼の牙】がある地区:オガサワラとはかなり別次元で、所狭しと並んだパイプむき出しのビルたちが地区内を埋め尽くしている。やや広めのスペースを確保した道路の真ん中に路面魔導列車(路面電車に同じ)が走っており、それが交通の便を確保しているようだ。アキバにはエアボートはほとんど飛んでいない。その理由は各ビルの上部に取り付けられた宣伝用の巨大モニターが見えなくなってしまうからだろう。道路脇にはエアボート禁止の看板が立っている。二人がいたオガサワラはグラン・サトウ内でも相当な田舎だったと改めて思い知らされた。
無論二人はこの場所に来るのは初めてだ。
「凄いな…完全に都会だ。」
「デュフフ…興奮してきたでござる。」




