サブエピソード: 毬愛のバイオリン講座2
作者「さて、またもや、サブエピソードです」
作者「今回も、前回同様、ただ真面目にバイオリンの話をしているだけで、
本編に影響しない内容なので
メインストーリーだけ読みたい方は
飛ばして下さっても多分大丈夫だと思います」
さて、陣風邸では、
魅夜が、あごの下に辞書を挟みながら
毬愛の【バイオリン講座】を受けていた……
「指を……つかう?」
魅夜が不思議そうに尋ねると、
毬愛は『うん』という感じに小さくうなずいた。
「そうです、左手の指を、定規のように使って、
半音と全音の区別をつけるのです」
「どういうこと?」
指を定規のように使うと聞いて、
魅夜は、わけがわからず、そう尋ねた。
すると、毬愛は、魅夜に向かって
自分の手の平を見せると、指の関節をもう片方の手で指し示しながら
こんな話をし始める……?
「その前に、指の関節の名称を少々お話いたしますね?
えーと……ご存知かもしれませんが、
指の関節は、指先から、第一関節、第二関節、
そして手の平、指の根元の関節を第三関節と呼びます……」
それから毬愛は、左手を軽く握るような形にすると、
素早くその指をくるくると動かしてみせた……
「そして、バイオリンでは、主に指の第一関節と、第二関節を目安にして
距離を測って、全音半音を把握するのです」
(注意:あくまで作者のやり方です。
『そうじゃなくて、最初は指板にテープはるんだろ』っていう人もいます)
「ふんふん、それで?」
好奇心が刺激されるからだろうか?
魅夜が乗りだし気味で訊いて来た……
「ふふ、何だか随分と乗り気じゃありませんこと?」
毬愛は、微笑みながら、魅夜に悪戯っぽくそう言った。
「いや、だって、やっとバイオリンの話っぽくなって来たじゃん?
ここまで、あれだよ?
辞書をあごの下に挟めとか、わけわかんないことばかりやらされてるし!」
魅夜はそう言うと、口をとがらせて、
すねたように言った。
毬愛は、そんな魅夜が嬉しく思えて、
つい、微笑みながらこんなことを言う。
「でも、ここから少し難しいですから、覚悟して下さいね?」
「う、お手柔らかに……」
それから毬愛は、こほんと咳払いをすると、
説明を再開させる。
「簡単に申し上げますと、ある指を起点に、
その隣の指を、起点の指とくっつけたら半音変わり、
ある一定数距離を離したら全音変わります……」
「ああ、それで定規か……?
指を定規代わりにして、半音全音を把握するのね?」
「その通りです」
そう言って、毬愛は左手の指を動かして
ある形にして、魅夜に見せた。
「はい、では、このように……
左手の指を、何か手に物を持つ感じで軽く曲て……
人差し指から小指までの4本の指を
爪と爪が隣合わせになるように、くっつけて下さい……」
なるほど、毬愛の左手の指は
びっちりと、隙間なく隣同士でくっついていた……
魅夜は、それを見ながら、
何とか真似してやってみる……
「う……ん……
よし……何とか、できた」
毬愛よりも、ちょっと時間がかかったが、
同じような手の形にできた。
「それを【猫の手】と呼びましょう。
猫の手みたいですから。
では、次にいきます」
「今度は、同じく左手をつかって
人差し指の第一関節と、中指の第二関節を隣合わせにして下さい……
コツとしては、第一関節で少し指を曲げておくと、
くっつけられると思います」
そう言いながら、毬愛は、2本の指をくっつけてみせた。
それは、何となく、中指が前に突き出すようにして……
逆に人差し指は、後ろに少し下がるような形をしていた……
「ん……できた」
魅夜は、毬愛の手と自分の手を、見比べながら
何とかそれを真似した。
「それができたら、今度は人差し指と中指をくっつけたまま……
中指の第一関節と、薬指の第二関節……
それができたら、また同様にして、
薬指の第一関節と、小指の第二関節をくっつけて、
人差し指から小指まで、
第一関節と第二関節をくっつけて下さい……」
毬愛は、ぱっぱっぱっと、やってみせたが、
魅夜は、同じことをやろうとしても
すぐには、できなかった……
「うお! これ難しい!?
形が崩れるわ!」
人差し指と中指をくっつけるところまではすんなりいくが、
三本目の薬指をくっつけようとしたところで、
最初の二本の指の、形が崩れてしまうのだ……?
「慣れるまで、時間がかかりますよね……
さて、その形を【扇子の手】と呼びたいと思います」
なるほど、言われてみると、
人差し指から小指までが、第一関節と第二関節だけで
キレイにくっついている、この形は、
横から見ると、扇子のようだった。
「く、崩れる……!」
だが、魅夜は何度か挑戦したが、
人差し指から順にやっていくと、
どうしても小指までいかない……
魅夜は諦めずに頑張ったが、
何度やっても形が崩れてしまい、
これは、練習が必要だと思ったところで……
毬愛が、ぱんと手を叩いて『そこまで』と言って、
魅夜の手を止めさせた。
「では、今日はそこまでにしておきましょうか?
本当は、その【扇子の手】を右手でもつくっていただけると、
その手の形で、弓を持てるのですが……
あまり欲張らないで、今日は左手だけに集中しましょう」
毬愛のその話を聞いて、魅夜は、驚いて言う。
「この上、右手まで、同じことやるの!?
うわ、悔しいけど……
これは訓練が必要だわ……」
「ふふふ……
さて、あとで、お一人でその先もできるように
練習法だけ、お教えしましょう。
左手だけをつかって、
【扇子の手】から【猫の手】へ……
また、その逆に【猫の手】から【扇子の手】へ……
交互に、すばやく切り替えていきましょう……!」
そう言って毬愛は、何でもないかのように
【猫の手】と【扇子の手】の切り替えをやってのけた……!?
秒単位で、くるくると変えて
まるで指が回転しているかのように、魅夜には見えた……?
毬愛はあまりにも簡単そうにそれをやるので、
魅夜も『もしかして、見た目よりは簡単なのか?』と思い、
真似してみるが、うまくいかない……
いや、そもそも【扇子の手】をつくるのだけで
2~3分かかってしまいそうなのだが……?
しかも、不完全な形だし……
「だめだあ……!?
バイオリン、想像以上に難しいじゃん!?」
魅夜が、お手上げという感じで
手を上げてそう言うと、
毬愛は、くすくすと笑いだす……
「ですから、そう申し上げましたでしょう? ふふふ……」
「あのさ? さっきから思ってたんだけど……
何で、笑うの?」
怒っているわけでもなく、魅夜は、無表情でそう言った。
「気に触ったのでしたら、ごめんなさい。
でも、わたくし、バイオリンのことを
同年代の方とお話しできるのが、とても嬉しくて……ふふ」
そう言っている毬愛の楽しそうな声は、
午前の爽やかな風の中にとけるのだった……
と、そこで、誰かの着信音が鳴り響く……?
「あ、私のだ……?」
「あら、魅夜様のですの?」
「うん……
でも、これ、知らない人からの着信音だわ……?
知っている人には、皆、何かしら着メロつけているから……
でも、一体誰だろ……?」
そう言いながら、魅夜は、自分のスマホを取り出して……
【通話】ボタンを押してみた……
「もしもし……?」
作者「この部分の説明が、異様に難しいんや……」
せや姉「さよか」
作者「扇子の手がねえ……文字だけで説明すると難しいのよ……
こう……実演しながら教えたら簡単にいくのにねえ……」
せや姉「ふーん」
作者「まあ、その場合、作者が教えられている子の手を掴んで
『だから、こうだってヴァ!』とか無理やり指を矯正しようとして
ひんしゅく買ったりするんだけど!w」
せや姉「うわあ……」
作者「あ、ちなみに、今回のバイオリンの【扇子の手】は
チェロでも、コントラバスでも、基本は同じらしい……
まあ、あいつら、全音とかの、指と指の間隔が
バイオリンより広いから、全く同じ原理は適用できないっぽいけど」
せや姉「いろいろやな」
作者「はーい! てなわけで、とりあえず、バイオリン講座は
ここでいったん終了!w」
作者「いやいや、また、いつか再開する予定ではありますが、
その前に、メインストーリーを一区切りしにいきます!」




