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 58話: バイオリン と かまぼこ板 と

「さて、あの角を曲がれば、目的の廃ビルだが……」


 光治は、スマホで地図を確認しながら、

 とある方向を指差し、そう言った。


 昨日見たヤミリンのサイト……

 そこには、銀子しか読めない暗号で

 銀子に、廃ビルに来るよう脅迫が書かれており、

 よく見ると、その下に、

 廃ビルの住所らしきものが同じ暗号で書かれていた……


「い、いよいよですね……」


 銀子は、不安と期待の入り混じった様な顔で

 光治のことを見て言った……


 サイトには『来なければコロス』とあった……


 もしそれだけなら、不安であるし、

 わざわざ、ヤミリンに会いに行かなかったかも知れないが、

 ピンク髪のセーラー服オバサンの話が本当なら

 ヤミリンに勝てば、銀子の首輪の外し方が判るかもしれないのだ……?


 そうとなっては、行くしかない……

 銀子の首は、こうしている間にも、ほんの少しずつだが、

 彼女の首を絞めているのだから……


「その前にちょっと俺の話を聞いてくれ……」


 光治は、急にそう言って、真剣な表情で、

 銀子のことを見つめた……?


「な、何です?」


 銀子は、そう言って、光治から目を逸らし

 指で髪をぐるぐる巻いたりなどする……


 好意を感じている人に見つめられて、

 何となく、気恥かしいのだ……


 だが、光治は、銀子の様子など気付くこともなく、

 話を続ける……


「ちょっと思ったんだが……

 あの女が……ヤミリンが動くってことは、

 この戦いが記録され、動画として投稿されることを

 覚悟すべきだと思う……」


「え……? そうなんですか?」


 銀子は、そう言って、少し身構えた……


 ヤミリンというのを戦うことは、何ともない……

 だが、それが動画として撮られて、

 不特定多数の人間に見られるかと思うと、

 少し恥ずかしい気がする……


 というか、それ以前に……


「いや、ありえへんでしょ?

 ネットアイドルが、自分の喧嘩を撮影とか?

 イメージ悪くなるやん?」


 銀子は、そう思って、半笑いで光治のことを見る……

 光治は真剣な表情で、銀子を見つめていた……


「や……あの……その……」


 途端に、銀子は恥ずかしくなって、視線を逸らす……


「目立ちたがり屋のヤミリンのことだ……

 可能性は十分ある……

 何しろ、あいつは、

 ネタのためなら何だってやる女だ……

 それが例え、炎上するようなネタでも目立つなら……」


 そう言いながら、光治は、未来で起きた

 ヤミリンの【できちゃった婚】炎上事件のことを思い出した……


 あれは、意図して炎上を起こしたものでなかったようだが……

 もしかしたら、そうやって炎上させることで、

 注目を浴びようと考えていたのかもしれない……


(考え過ぎか……

 いや、もしかしたら……?)


 それから、光治は、何かを思いつくと、

 急にポケットからスマホを取り出して、いじり始めた……?


「おーい、先輩?」


「ほら……見ろよ、これ?」


 光治はそう言って、銀子にスマホを見せた……?


 それは、ヤミリンの公式サイトだったのだが……

 そこには……



『まもなく、ヤミリンの生配信スタート予定だお!

 今回は、美少女JC同士で、生で戦っちゃうお!』



 という文言がおどっていた。


「うわあ……」


 銀子は、その文言を見て、

 心底嫌そうな声を漏らした……


「これ、お前のことを撮って

 アップする気なんだよ……」


「うっ……そんな感じですね……

 嫌やわ……

 うち、不特定多数の人に晒されるとか……」


 そう言って、うな垂れる銀子の肩に、

 光治は、ぽんと優しく手を置いて言う……


「まあ、俺の思い過ごしかもしれんが、

 とにかく、顔は隠した方がいい」


 そう言って、光治は、サングラスとマスクを

 銀子に渡した……


「それを着けてから、廃ビルに行こうぜ?」


「せ、先輩! おおきに!」


 瓶子は、そう言って、光治にぺこりとお辞儀をし……


 それから、何かを思いついたようで……

 小首を傾げて、こんなことを言い出す……?


「あれ? でも、先輩はいいんですか?

 とばっちりで顔映るかも知れんですよ?」


 銀子が、そう尋ねると、

 光治は、にかっと笑い、それから……


「俺は……これで顔を隠そうと思う……!」


 そう言って、ポケットの中から

 色鮮やかな、“とあるもの”を取り出した……?


「え? せ、先輩……!?」


 光治が取り出した“ソレ”を見て

 銀子は顔が引きつった……!


「まあ、そう嫌がるなって……!

 これを使えば、もしかしたら、ヤミリンが動揺して

 こっちの有利になるかも知れんぞ?」


■ ■ ■ ■ ■ ■ ■


 一方、その頃、陣風邸では……


「色々と試してみたのですが……

 大きさ……堅さ……その他もろもろを考えて、

 これが一番だと思いました……」


 いよいよ、陣風邸でバイオリンのレッスンが始まって、

 毬愛が、魅夜に最初に手渡したものは……


 辞書だった……?


「え? ええ?」


 魅夜は、受け取った辞書を、

 引っくり返してみたり、中をパラパラめくったりして、

 『私、バイオリン教わりに来たんだけど?』と

 思っていた……


 魅夜に問われて、毬愛が一番得意なものと言っていたバイオリン……


 もしも、それを習得し、

 バイオリン勝負で、毬愛をギャフンと言わせれば、

 文句無しで、光治に相応しい女と思わせることができる……

 そう思っていたのだが……?


 魅夜は、毬愛の方を向くと、

 肩をすくめて、尋ねる……


「WHY?」


「何故、英語なのですの?」


「いや、何となく……

 というか、何に使うの? この辞書……」


 そう言って魅夜が、辞書を指差して尋ねると、

 毬愛は冷静に、こう答える。


「それを、左肩とあごの間に挟んで

 固定して下さい」


「は?」


「ですから……あごの下に辞書を挟んで下さい」


 毬愛が何を言ってるのか、わからなくなった魅夜は、

 小さくため息を吐いた。


「ね、ねえ、毬愛……?

 何それ? イジメ……?」


 苦笑しながら、そんなことを言う魅夜に

 毬愛は、真剣な表情で答える。


「失礼なことを言わないで下さい……

 魅夜さんが、急にバイオリンを習いたいと仰るから、

 楽器が用意できなくて……

 わたくしのバイオリンは、母の形見なので

 他人には触って欲しくなくて……その……申し訳ないですが……

 それで、楽器がなくてもできる練習を、ということで

 辞書を選んだのですよ……?」


「はあ?」


「というか、辞書にして差し上げた、わたくしに

 感謝してほしいですわ……

 最初は、かまぼこ板を重ねたもので十分という話でしたのよ?」


「か、かまぼこ……?

 いや、それと比べたら、確かに辞書の方がまだいいけどさあ……

 私、バイオリンを習いに来たんですけど……」


 かまぼこ板なんて、そんなものをあごの下にはさめたら

 顔が、かまぼこ臭くなりそうだ……?


「まあ、そう仰らないで……

 マシュー先生に……いえ、わたくしのバイオリンの先生に

 初心者がバイオリンを習うには、まず何が必要でしょうかと

 尋ねたところ、あごの下にモノを挟める訓練からと仰ってたので……」


 そんな話を聞いて、魅夜は訝しげな表情を浮かべたが、

 毬愛は、それを無視して、ポケットから何かのメモを取り出した……


「先生のメモを読ませて頂きますね?

 えー……バイオリンは、両手を自由に使う楽器です……

 特に左手は、指を動かさないといけないので、

 左手でバイオリンを掴んでは、いられません……

 なので、普段からあごの下に楽器を挟んで固定して、

 左手を自由にします……」


 その説明を聞いて、魅夜は納得した……


 少なくとも、いきなり辞書をわたされて、

 あごの下で挟めと言われた時よりは……


 というか、毬愛の説明が下手過ぎて、

 本気でイジメなのかと思ったのだが……


「なるほど、そういうわけで、

 あごの下に挟め、と言っているのか……」


「そういうことです……」


 毬愛は、そう言ってから……

 ぽんと手を叩いて、微笑みながら、こんなことを言い出す……


「色々と文句を仰いたくなる気持ちも、わかりますが、

 まずは騙されたと思って従って下さい。

 マシュー先生の仰ることなので、間違いないはずです。

 それに、基本的なことですからね、これ……

 本気で、バイオリンで、わたくしと勝負なさる気があるなら

 これぐらい簡単におやりになられないと

 お話になりませんわよ? ふふふ……」


 そう言って、嘲笑するように微笑んで見せた……


 わざとらしく……


 魅夜は、毬愛がそうやって、自分に発破をかけているのだと思ったが、

 そう思っていても、恋のライバルだと思っている人物の嘲笑は、

 何か、カチンと来るものがあった……!


「やってやろうじゃないの……!?」


 そう言って、魅夜は、

 あごの下に辞書を挟み、辞書を持っていた手を離してみる……?


「くっ!? これ意外に難しい……!?

 挟んでるつもりなのに、落ちる……!?」


「まあ、多分、普段なさらないことですものね……

 身体が、“あごの下に物を挟む”という感覚を理解してないのですよ?

 先程から、あごで挟むと申し上げてますが、

 正確には『肩を使う』のですよ。

 もっと肩を上げて下さい……それで挟めるはずですから」


 毬愛がアドバイスらしきものを伝えて来るが……

 言葉は理解できるが……

 魅夜は、うまくその通りに身体をコントロールできない……!?


「肩が……!? 上がらないんですけど!?

 肩を上げるのって、こんなに難しい動作だっけ!?」


「落さないで下さいね?

 これが本物のバイオリンなら、

 床に落として、壊しているかも知れませんよ?」


 毬愛が、ここぞとばかりに

 プレッシャーをかけて来る……!?


 魅夜は、負けないとばかり頑張ってみるが……


「てか、肩が痛くなる……!?」


 魅夜は、そんなことを言いながら、

 10分くらい悪戦苦闘してから……


「ちょ、ちょっと休憩!」


 そう言って、

 辞書をテーブルの上に置いて、休憩をした……


「もうお終いですの?

 案外、だらしないのですね?」


「きゅ、休憩だって!

 こんな簡単に諦めるわけないでしょ?」


「ふふふ、でしょうね?

 少し、お茶にしましょうか?」


 そう言って、毬愛は、

 メイドに紅茶を淹れるよう指示を出した……



 そして、毬愛は、ふと考え事をすると……?


「ね、ねえ、魅夜様?

 わたくし、今、思ったのですが……?」


「何よ?」


「これも、“決闘”なのですよね……?

 わたくし、さっきから見ているだけですけど……」


「そうだけど……?」


「こ、この“決闘”が、本番なのですよね?

 授業中の“決闘”は、おまけみたいなもので?」


「そうだけど……?

 てか、さっきから何?

 わけわかんないんですけど?

 そんなこと、今更確認してどうするのよ?」


 毬愛の、先の見えない話に

 魅夜が段々イライラして来ると……?


 毬愛は、目を輝かせて、尋ねる……!


「な、なら……!

 もしも、魅夜様が途中でバイオリンを挫折したら……!

 わ、わたくしが……コ、コウ様と……!」


 そこまで言ってから、毬愛は顔を両手で隠すと、

 『やだわ……わたくしったら!』とか言いながら、

 恥ずかしそうに、ふりふりと身体を揺すった……?


 魅夜は、そんな毬愛を見ながら……


(何この女……むかつく……!)


 そんなことを思い……!


「あー! 何だか元気が出て来たぞー!

 訓練の続き頑張ろうっと!」


 そう言って、辞書を挟める訓練を再開した……!


「魅夜様?

 無理しないでいいですのよ~?

 もう少し休まれても……」


「無理じゃないですし~!

 絶対、投げ出さないしぃ!」


 少女達は、笑みを浮かべながら、

 お互い、睨みを利かせていた……


「魅夜様?

 人間、向き不向きというものが……」


「ほ~ら、もう挟むの完璧なんですけど!

 やっぱ天才だわ……」


 そんな少女達の声が、

 午前の、温かな日差しの中に、こだましていた……

作者「はーい、というわけで、作者、バイオリンが弾けまーす」

せや姉「はあ!?」

作者「いやあ、これは、

   いざという時のために隠しておこうと思ってたけど、

   もう隠してもなあ……と思いまして……」

せや姉「なして隠そうと思うたんや?」

作者「いやあ……何か、作家になったら明かそうとか

   そういうこと考えてたんだけど、

   もういいや、と思って!w」

せや姉「いや、ようわからん……色々と……」

作者「まあ、今時、バイオリンなんて、

   誰でも弾ける時代になってるからね……

   隠してて、いざという時公表しても

   あんま驚かれないから」

せや姉「まあ、せやね……」

せや姉「ちなみに、いつからやっとるの?」

作者「ん? 5歳頃かなあ……?」

せや姉「何やそれ!?」

作者「作者の知り合いに音楽の先生がたまたまいたんだよ……

   そのツテで習わせてもらったのよ!w」

せや姉「それ、すごんやないの?」

作者「いや、プロの人達に比べたら、足元にも及ばない力量なんで!w

   社会人オーケストラに在籍したこともあったけど、

   周りとの力の差が凄過ぎて、すごすごと逃げ帰って来たぐらいで!w」

作者「ミスター味っ子のテーマソングを弾いたりとか、

   そういう遊びにつかうぐらいよ、今は!w」

せや姉「うわあ、何その……バイオリンの無駄遣い……」

作者「ああ、何か恥ずかしくなって来た……!w」

作者「それでまあ、大学の時、

   バイオリンを扱うサークルに在籍したこともあって、

   バイオリン触ったことのない人に教えるぐらいはできるのよ!w

   今回の話は、その時のこと思い出して書いてみました!w」

せや姉「何や、意外にすごい回やったんやな……?」

作者「ちなみに、今回の話では、辞書を使いましたが、

   本物のバイオリンを持っているのなら、

   それを、あごの下で挟んで練習して下さい。

   辞書をつかうとか、本当にバイオリン持ってない人の練習法なので

   お勧めしません!w」

せや姉「おい」

作者「辞書じゃあ、やっぱ、挟んだ感覚とか全然違うので!w

   あごと、肩の筋肉を動かす練習にはなるかもしれんけど!w

作者「あ、ちなみに、かまぼこ板のくだりは、

   本当に、うちのバイオリンの師匠が言っていた話です!w

   そんなんやるやつおらんけどな!w」

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