23話: 魅夜 と 毬愛(1)
「私の……味方……?」
魅夜が訝しげにそう言うと、
毬愛は、にっこり微笑んだ。
「ええ、貴女の味方ですのよ、わたくしは……
光治様と、貴女を結び付けたいのです……」
「なっ!?」
信じられない言葉だった……
だが、魅夜は一瞬、驚きの表情を見せたが
すぐに無表情になる……
(何が狙い……毬愛……?)
毬愛は、そんな訝しむ魅夜の表情を見て、
嬉しそうに微笑む……
「本当に疑り深い方……!
ふふ、でも、恋って、
そういうものなのかも知れませんね……?
恋は盲目、ですか……」
そう言って、毬愛は、
ゆったりと魅夜が伏している所まで行くと
しゃがみ込んで、顔を近づけて来た……?
「お嬢様……!? 危険です!」
恵理子が、不用意に魅夜に近付いた毬愛を
制止しようとする……!
だが……
「恵理子さん、大丈夫ですよ……?
この方は、そういう人じゃありませんから……
あ、でも……?」
「はい?」
毬愛が、あごに手を当てて、何かを考え始め……
すぐに、こんなことを言い始める……?
「少しの間、この部屋に
魅夜様と二人きりにさせて下さいな?
他の方には聞かれたくないお話を致しますので……」
毬愛がそう言うと、
メイドの恵理子は、びっくりした顔で毬愛を見た!?
「な……何を仰るんですか!?
ダメですよ!? このような危険人物と二人きりなんて!?」
「そうですか……」
その時、魅夜と恵理子は、目を疑った……!
毬愛の姿が消えたのだ……?
そして次の瞬間!?
毬愛は、恵理子のすぐ後ろに現れたかと思うと、
その後ろ首に、強烈な手刀を叩きつけた!?
「うっ!?」
メイドは小さく呻いたかと思うと……
前のめりに倒れ、気絶した……!?
一連の出来事を、その目で見ていた魅夜は、
毬愛の流れるような動作に、舌を巻いてしまう!?
(恐ろしく速い手刀……!?
私じゃなきゃ見逃していた……!
あれ、私がバイコン使った時並みの速度じゃない!?)
魅夜が、驚き感心していると、
毬愛は、再び魅夜のところまでやって来て言う。
「驚かれました?
こう見えても、わたくし、身体を動かすことは、
結構得意なのですよ?」
微笑みながらそう言っている毬愛を、魅夜は見て、
『結構どころじゃないだろ!?』と心に思う……
「護身術を嗜んでおりましたら、
いつの頃からか、この程度のことはできるように
なっていましたわ……」
魅夜は、真剣な眼差しで
毬愛を見上げながら尋ねる……
「それで……?
私と二人きりになってまで
何を話したかったの……?」
魅夜が尋ねると……?
毬愛は、言いにくそうに、言葉をためらった後、
ふぅと息を吐いてから、こんなことを言い出す。
「わたくし……
自殺したいのですよ……」
「え……? 自殺……?」
魅夜は、全く予想していなかった言葉に
少し驚いた……?
このお嬢様が自殺……?
何不自由なく、幸せそうな暮らしをしているのに?
まさか……?
あ、でも、コウくんがパンツ被ってた時、
毬愛はビルの屋上に居て……
あれ……? あれって自殺未遂だったの……?
そして魅夜は、今更ながら、
自分が光治しか眼中になかったことに気付き、
顔から火が出るように、恥ずかしくなって来た……!
さて、そんなこととは知らずに、
毬愛は話を続ける……
「大切なものを失くしてしまった、この世の中……
もう生きるのが辛くて……辛くて……」
悲痛そうな顔をして、そんなことを言う毬愛に、
魅夜は、のど元まで『勝手に自殺すればいいじゃない』と
言葉が出かかったが、
流石に、本当に言うのはためらわれた……
そして、そんなことを考えながら
毬愛から視線を逸らそうとすると……?
ふと、メイドの恵理子が持っていた拳銃に目がいった……
「あ……」
まずいものを見てしまったという感じで、
魅夜は、視線を逸らそうとするが……
「魅夜様……?
何をご覧になられて……?
ああ、それですか……」
毬愛に気づかれてしまった……!?
「あ、いや……!
私、そういうつもりじゃ……!?」
魅夜は慌てて、弁明するが、
毬愛は、メイドの持っている拳銃に近寄ると……
「ちょっと見ていて下さいな?」
その拳銃を拾い上げ、こんなことを言い始める。
「ご覧のように、この拳銃は、
弾もございますし、
普通に使用できるものですわ……」
毬愛は、拳銃の回転弾倉を開いて見せ、
まだ弾が5発全弾残っていることを見せる……
「そして……このように……!」
毬愛は、そう言って、
持っていた拳銃を、机の上に飾ってあった花瓶に向け……
その安全装置を外すと……
パーンッ!
ためらいもせず、撃ったのだ……!?
「な、何やってるのっ!?」
魅夜は驚いて声を上げる!?
撃ち抜かれた花瓶は、割れて、
破片が周りに飛び散っていた……!
「ご覧の通り、
この拳銃には何の問題もございません……
ですが……」
そう言って、毬愛は……?
なんと!?
今度は、銃口を
自分のコメカミにつけたではないか……!?
「あ、あんた!? 何やってんの!?
バカな真似はやめなさいよ!?」
魅夜が慌てて、叫ぶ……!?
だが、毬愛は……?
そんな魅夜を、きょとんと言った感じで
小首を傾げて見つめる。
「おかしなことを仰いますのね、魅夜様は……?
どうしてですか?
わたくしは、貴女が先程排除なさろうとした人間……
貴女に言わせれば【ライバル】ですよ?
その邪魔な存在が自殺しようとしているのに、
止めるのですか……?」
まるで自分が、しぬことを、
何とも思っていない様子の毬愛を
魅夜は激しく怒って言った!
「当たり前でしょう!?
誰も『しね』と言ってない!?」
すると、毬愛は、口に手を当てて笑いだす……?
「ふふ、お優しいのね……貴女」
「それと、自惚れないで……!?」
「え?」
「あんたなんか!
自殺なんて不戦勝に頼らないでも
正々堂々と! 真っ向勝負で勝ってやるわ!?
毬愛! あんたの美しさは認めるけど!
それぐらいで、私に勝てるなんて思わないでね!」
宣戦布告と言った感じの魅夜の絶叫!
その叫び声に、毬愛は、
笑いが込み上げて来るようだった……
「ふふ、面白い方……
情報ですと『氷の女王』なんて噂されるほど
冷静沈着な方と聞いていましたのに……?
案外、情熱的なのね?
ふふ……そうですか……
魅夜様、面白いですわ……!」
毬愛は、にっこり微笑むと、
再びコメカミに、拳銃を押し当てた……!?
「でも、ですねぇ……?」
そして毬愛は、拳銃の安全装置を下ろし、
ゆっくりと引き金を引いて……!?
「バカ!? やめ……!?」
カチャリ……
引き金を引いた音だけが、虚しく響いた……
「へ?」
魅夜は、間の抜けた声を出す。
毬愛は、何度も何度も、カチャカチャと引き金を引くが、
拳銃が発砲するということはなかった……?
そして毬愛は、何度か、引き金を引いた後、
大きく溜め息をしてから、
持っていた拳銃を床に放り投げた……!
「ああ! 忌々しいですわ……!
この館で使われている拳銃は、こう見えて、
全て、IC制御されてますの……!?
普段は、何の問題もなく使用できますが、
銃口が陣風の者に向くと、
オートロックがかかるよう設計されてましてね!
部下の誤射にしろ、銃の暴発にしろ、自殺にしろ……!
とにかく、銃弾が陣風の者に向かないようにされてましてよ!?」
そして、毬愛は、自分の顔を両手で覆い隠し、
膝から崩れる……
「つまり、わたくしが……! うぅ……!
この拳銃で自殺することは不可能なのですわ!」
毬愛は、顔を両手で覆いながら、
泣きながら言う……!
「ああ! それだけではありませんわ!
凶器になりそうなものは、
そもそも、危ないからと、すぐ取り上げられますし!
毒になりそうなものなんて触れられません……!
そんな私が、あのビルの屋上から飛び降りる準備をするのに
どれ程苦労をしたか……!
屋敷の者の目を盗んで、何ヵ月にも渡ってビルに忍びこんで……!
それなのに、何のおつもりか、お助けになられて……!」
毬愛は、それから盛大に泣き始めた……
魅夜は、そんな毬愛を見ながら……
毬愛を自殺から助けた光治に対して、
複雑な気持ちだった……
人の良い光治のことだ、
自殺する毬愛のことを放って置けなかったのだろう……
光治の誠実なところが感じられて、魅夜は嬉しく思う……
だが……
(どうして……毬愛を助けたかったの……? コウくん……?)
光治が、自分の危険を顧みず毬愛を助けた……
そのことを考えると……
何だか胸がチクッと痛むのだ……
そして同時に、魅夜は、
そんな事を考えてしまう性格の悪い自分が、何だか……
とても嫌だった……
……
「申し訳ございません……
お見苦しいところを……」
「あ……いや……その……」
毬愛は、涙をハンカチで拭ってから、
魅夜を見て……
それから微笑みながら、こう言う……
「でも、もういいのです!
私は、もっと確実な方法を
教えていただきましたから!」
毬愛は、そんなことを言ってから、
にこにこと笑みを浮かべながら、
ゆっくりと、魅夜の下へ近付いて来る……
「魅夜様……!
申し訳ないのですが、これだけはお許し下さい!
あとできっと、光治様と結び付けて差し上げますから……!」
そして、両手で、
魅夜の顔を左右から挟むと……?
(え……何……?)
毬愛は、その顔を魅夜に近づけて来た……!?
「ちょ……!? あんた……!?
何考え……ん!? んん!?」
魅夜は、毬愛にキスをされた……!
作者「糞だるいよお……」
せや姉「せやね」
作者「台風の前後ってホント調子悪いんだよ……
あったま痛くなっちゃってさあ……」
せや姉「いや、世の中、頭痛どころじゃない騒ぎやで?」
作者「いやあ……ホントにねえ……
でも、頭痛い……」
作者「あー! もうダメだ!
すみません、今日は、これで終わりにします!
ごめんなさい……」




