第7話:旅立ち
下限はあれど上限はありません。頑張って0.1%を引き当てましょう。
男が4人であるのに対し、女の子は3人──チームバランスはそこそこであるように感じられた。ただし、『チーム:ドッグ』には能力不詳の生徒が2名存在する。
「私と戌亥沢くんは能力がまだ分かんないからさ、足引っ張らないようにがんばるね」
「……頼むぜ、みんな」
と、小瀧原は愛想よく──申し訳なさげに頭を下げ。
戌亥沢は覚悟を決めたかのような重たい口調で首を垂れるのであった。
能力不詳というからには彼らは頼りには──あてには出来ず、当面の戦闘は5人で行うこととなる。或いは異能以外の物理攻撃が通るというのであれば剣でも握って戦いに参加する事は可能なのかもしれないが。
というか戌亥沢に関しては石を投げてでも戦闘に加わるつもりであった。
闘争心や功名心から戦闘に加わりたかった訳ではなく、単純に足手まといにはなりたくないと──一種の劣等感が戌亥沢に火をつけたのであった。
35名の生徒全員が綺麗に5チームに分かれ、これからの指針やら戦闘に際する作戦等々をじっくりと話し合っている最中、ようやくお昼寝中だったイルロラが目を醒ました。
そして五班に散ったグループを寝ぼけ眼で認めて腰を上げる。待ってましたと言わんばかりに、重たげな腰を上げる。
「ふぁぁ〜〜…………んーっ!」
背伸び。
「はいっ! みなさん準備は万端みたいですね! それではいよいよ皆さんには旅立っていただくことになるのですが、その前に──最後の最後に『課金』についての説明をさせていただきます」
すっかりと元気を取り戻した風のイルロラが声を張り上げる。先ほどまで軽く蹴っただけで気絶しそうなくらいに消耗していた様子だったが……。
小さな子供は午睡を挟むか否かで体力の消費量──回復量が違うというし、案外この小さな神様も眠れば元気一杯になる体質なのかもしれなかった。
燃費が良すぎる。
しかし最後の最後、と念押しする内容がよもや『課金』についての説明だとは誰も想像できなかったらしく生徒一同はまたもや怪訝顔を作る。説明会開始時にイミカ石の購入を勧めていたが……。
「当然、この世界ではあなた方の日本円は使用不可能です。トイレットペーパーの代わりくらいにしかなりません。なので、まず当面の生活に必要なお金はわたしを通して得ることとなります。
「悪神4人が創り出したこの世界に蔓延る『魔物』たちの命の源は何を隠そう、イミカ石の欠片なんです。恐らく悪神たちがイミカ石の原石を取り戻される事を恐れて魔物たちに欠片を分散したのでしょう、小賢しい。そんな魔物たちを倒し、イミカ石の欠片を回収すれば……そうですね、大体『ちっこい欠片』5つで『イミカ石』一個分の価値になると思っておいてください。
「『ちっこい欠片』の状態では無用の長物ですが、それがイミカ石となればわたしにとっては必要不可欠なものへと変貌します。資金を提供してあげるにしても、防具を創り出すにしても、便利なサービスを施すにしても──わたしの命を維持するにしてもイミカ石は必須ですから。
「なので魔物を倒せば実質それは『お金』に出来ると思っていただいて構いません。冒険王ビィトの様なものです。集めたイミカ石は此処──平原に来て直接わたしに渡すか、各地に点在する女神像でわたしを呼び出して渡してください。各種サービスの内容・料金表はその時にお知らせ致します。──何か質問は?」
ともすれば生徒側が居眠りを始めかねない程に長い説明を、噛まずに。しかも流暢に聞き取りやすい喋りで伝え切ったイルロラは質問はないかと辺りを見渡す。
戌亥沢は何故彼女が冒険王ビィトなんて少年コミックスを知っているんだと質問しようかとも考えたけれど、そんな瑣末な事に噛み付いても仕方がないだろうと言葉を飲み込む。
イルロラの言葉を飲み込む。
──全員が、静かに頷いた。
それを問題も質問もないという意だと受け止めたイルロラは、にやりと大きく笑んだ。期待を込めたかの様な笑みに、クラスメイト総員が奮い立たされる。
「では、皆さんの健闘に期待しています! ようこそ、ルトリフアへ!──行ってらっしゃい!!!」
そうしてイルロラなりの檄を受けた『チーム:ドッグ』、『チーム:クレイン』、『チーム:キャット』、『チーム:ビー』、『チーム:ピジョン』はそれぞれ東西南北へと散っていくのであった。
寂しさや口惜しさを胸にしまい込んで仲間と別れる、だなんて如何にも名場面のそれではあるけれども、戌亥沢たちは未だにスタート地点から動いてはいないのだ。
ましてやゴール地点が神を4人も倒すという途方も無い道程なのだから、旅は過酷なものとなりそうである。
「俺たちの旅はまだまだ始まったばっかりだ」
「……いぬい、その台詞はちょっと……」
戌亥沢と投刀塚の会話に刃連町が大笑し。
「打ち切り漫画みてーなこと言うなよー」
外内が突っ込みを容れ。
「…………」
一番合戦は無言で笑い。
犬鳴はやれやれとでも言いたげに首を振り。
「なんか遠足みたいで楽しいよね〜」
小瀧原は呑気な事を口走った。
そうだ。まだまだ旅は開始したばかりである。小瀧原の言葉を借りるのであれば、遠足にでも行くように異世界征伐を気楽に楽しめるだけのメンタルを養っておかなくてはならない。
気軽に達成できる難易度の任務ではないけれど、気楽に──楽天的でいられる間は余裕こそが強みの一つとなり得るだろう。
頑張ろうと思える気概こそが日本人の武器である。
だからまずは。方位的には東へと向かった『チーム:ドッグ』の目下の目標は町を探すことだった。情報収集をするにしても彼らはルトリフアの事を何も知らないのだから。
まずは町の発見──牽いては現地の人間の発見と情報収集を優先すべきなのである。
但しそれは。
「っと……みんな下がって。まずはボクから戦ってみるから」
緊張した面持ちで戌亥沢らに一歩下がるよう進言し、腰を低めに屈めた外内と草叢に潜んでいるらしい魔物との初戦が終わった後で、である。
ゲームの課金については僕は大方賛成派です。ただし、フルプライス以下の価値もないゲームのアンロック・DLC商法はこの外です。
具体的に書くわけにはいかないので割愛しますが、例えばマリオカートの様に本編に充分な価値がある作品にDLCで更なるお楽しみ(新ステージ・新キャラ)を提供する、というのであればそれは素晴らしいものだと言えるでしょう。
衣装・楽曲を販売したり、挙げ句の果てには飴玉を販売したり──信者力を試される某据え置きゲームは果たして、本質的には非生産的である『ゲーム』の域に収まるのでしょうか?
おんなじライブ・営業ばっかり見たくないんだよなぁ…。