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第6話:パーティ

課金には余剰金を充てる事をお勧めします。

 能力を何も持っていないという点においては、それは無能と換言しても差し支えあるまい。異能を発動させる才能がないのか、そもそも能力を所持していないのか。

 戌亥沢は震える右手を降ろし、自然と力が篭る左手を翳し──次いで両手を眼前に掲げた。

 が。

「い、イルロラ……一人一能力なんだよな……? スタンドとかペルソナと同じで、何らかの能力が俺にもあるんだよな……?」

 ついぞ発動しなかった異能を嘆く結果に終わる。結果はあまりにもお粗末であり、悲惨ですらあった。

 戌亥沢の悲観に暮れたかのような悲痛な呟きに、少女イルロラは苦い顔を作る。確かに渡したはずなのに──と小さな言葉が漏れた。

 芥川の異能が発動しなかったのは発動条件が間違っていたからだというイルロラの弁も、最早戌亥沢にとっては信憑性を欠いた戯言のようなものである。本当に使えるのだろうか?

 確かに、使用できるという点では間違いないのだろう。ただしそれが利用できるかどうかは別といったところだろうか。

 それは芥川の手のひらから溢れ出た紫色の光が──あの禍々しい灯が証拠といえるだろうけれど。

 ()() ()()()()()()()()()()()が確かに異能を使用できるという証左であるのだろうけれど。

 他人にできることが自分には出来ない。そんな劣等感にも似た感情が戌亥沢の口から怨嗟の言葉となって漏れ出す事となった。

 既に異能を試用してみて再度列に並び直している生徒の群れから抜け出し、一人神の御前に──イルロラの目前に立った戌亥沢は問う。そこには怒りと情けなさを綯い交ぜにしたかの様な、有無を言わさぬ迫力があった。

「ちゃんと異能とやらをくれたんだよな? 渡し損ないとかないか、調べてくれないか?」

「……既に調べました。確かに……あるはずなんです」

 そんな弱々しい答弁とともに困った顔を作るイルロラではあったけれど、困っているのはこちらも同じである。製作者がQ&Aに答えられないなんて、あってはならないことだろう。

 だからこそ戌亥沢は行き場のない遣る瀬無さにうんざりとしていた。それこそ自暴気味に。

 戌亥沢だって手からビームを放ちたかった。

「そっか…………」

 長い沈思黙考の末、大きく溜めた息を吐き出した戌亥沢はイルロラを責める事を止める。これ以上困った様子の彼女に追い討ちをかけられる程に、戌亥沢は鬼畜ではない。

 ちらりと戌亥沢は肩越しに視線を送る。その目線は、異能試験中の北見沢 南奈へと注がれていて。

「わっ!! すごい、なんか出来た!」

 と大喜びな風で遥か遠方の大木を玩具そっくりな細かい()()()()()に分解してしまった彼女の姿を見て、更に気落ちする原因となってしまうのであった。

「……ひとまず合点。俺にも異能があるっていうんなら……いつかは発動できるんだろ?」

「はい! ……いつになるかは分かりませんが、きっと戌亥沢さんを助けてくれるはずです……っ」

「もし死ぬまで発動出来なかったら……君の肋骨を(かじ)ってやるからな」

「…………?!?」

 決め台詞風に捨て台詞を残し踵を返す戌亥沢の背後で何やらイルロラが喚いている様子だったけれども、そんな事は意識の外だと言わんばかりに戌亥沢は待機列へと歩を進める。

 ローマは一日にしてならず、と言うではないか。一朝一夕で異能を利用することができる生徒もいるという()()の話だ。

 かの浦飯幽助でさえ初期は霊丸を連発出来なかったのだ。長い修行と戦いの末に能力が向上──開花するのだというのであれば、最早それは戌亥沢の憧れる主人公像そのものである。

 気長に待てばいい。

 なんなら努力だって惜しまない。

 戌亥沢はそんな決意を心に秘めて、待機列へと戻っていったのであった。

 勿論、他のクラスメイトの異能を見る度に落ち込んでしまうことには変わりなかったけれども。それでも出席番号最後尾の割鞘が発動した異能を確認する頃には彼のメンタルも大方快方へと向かっていた。

「……ん。これ、いいね」

 美しい装飾があしらわれたブロードソードや金属製と思しき盾、左右で大きさが微妙に異なる一対の双剣、分厚い刃が鈍く光る鉄の斧やら素人目に見ても立派な見栄えの日本刀、銀色に輝く大型の拳銃などなどを虚空から生み出しては把持し、次々と投棄するという異能をS()S()()()()()の防具に身を包んだ割鞘が堪能したところで──全員からの拍手やら歓声を貰ったところで、

「はい!! 皆さん……次はパーティを組んでください……!!」

 とクラスメイトの異能によって滅茶苦茶に破壊された草原を修復するイルロラが、片手間に指示を入れる。……パーティ?

「何でパーティ? 全員で団体行動じゃ駄目なの?」

 疑問を挟んだのは出席番号32番、八洋 七海。確かに、戦うのが神という強大な敵なのだから戦力を分散するというのは些か恐ろしくもある。

 出会い頭に全員分の異能をぶち込んでやるのでは駄目なのだろうか──それともアイサツ中のアンブッシュはスゴイ・シツレイに当たるとでも言いたいのだろうか。

「総員で掛かるということは……全滅する時は全員が死ぬということでしょう……? 減らすべきリスクは最大限削るべきです……」

 死ぬ、という言葉に異能の強さや防具のファッション性に浮き足立っていた生徒全員の態度が変わる。無論、戌亥沢も含めて。

 ──そうだ。その通りだ。

 すっかりそんな感覚は薄れてしまっていた(或いは無意識に意識しない様に心掛けていたのかもしれない)けれど、クラスメイト全員が気を張る。

 命を賭してドラゴンと戦った戌亥沢だからこそ、その言葉には強く思うところがあった。もしあの時、ドラゴンが標的を戌亥沢と投刀塚に定めていなかったら。

 満遍なく一人一人を爪で引き裂き、炎で焼いていたら──そう考えると怖気の走る様な恐怖が湧き上がった。戌亥沢たちは運が悪く、逃げ果せたクラスメイト達は運が良かったにせよ、あの場に固まっていれば殆ど全滅は避けられなかっただろう。

 そう勘案し、戌亥沢は頷いた。

「そうだな……イルロラの言う通りだ。クラスの総員は35人だから……」

「1組7人の、計5チームでいこうぜ。悪い神様は……何人だっけ?」

 と、戌亥沢の発言に被せる塩梅で刃連町の提案が割って入ったけれど、自分の声よりかはサッカー部所属の彼の声の方が良く通るだろうと是としておくことにした。

「悪い神様ではないんですが……」

 と、何故かばつが悪そうな様子で前置きするイルロラ。まるで()()()()()かの様な印象だが……?

「4人、です──悪い神様は4人です。つまり敵は4人です」

 帰結的に、そうばっさりと切り捨てる様な答えを出すのであった。5チームに対して敵対する神は4人。

 なるほど。1チーム──つまり7人までのロスト(考えたくもないが)ならばカバーが効くというわけか。意志を継いで──立ち向かえるということか。

「それじゃあ……1組7人で決定っぽいな。よし、さっさと組んじまおうぜ」

 出雲ほどのリーダーシップは無いかもしれないけれど、そんな刃連町の号令でパーティの編成が始まった。パーティを組むにあたっての最重要事項となったのは異能が不明な生徒の数を上手に分散することである──その数には当然、戌亥沢も含まれている。

 他にも能力の偏りがないことも条件に含まれているし、出来るだけ仲の良い生徒同士を組ませる事も重要であった。

 チームワークとチームの雰囲気は比例する。

 斯くしてイルロラが居眠りを始めてしまう程に続いた侃侃諤諤の遺憾なき話し合いの末に誕生した戌亥沢チーム『チーム:ドッグ』のメンバーは。

 戌亥沢 乾。投刀塚 那束。刃連町 理喜。犬鳴 峠。小瀧原 炬燵。一番合戦 軍。外内 表裏。

 後に物語を大きく動かす事となるこの7人に決定したのであった。

映画っていいですよね。洋画・邦画を問わず、映画は我々をひどく興奮させてくれる非日常──異世界へと手軽に連れて行ってくれます。

かのメタルギアシリーズを作り上げた小島監督も「僕の身体の70%は映画でできている」と仰っていましたが、果たして僕の身体は何%映画で組成されている事やら。

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