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第4話:能力+α

お金が足りない?

お金で買いましょう!

 ガチャチケット。その主たる用途は『無料ガチャ』である。

 ゲームによっては──というよりかは、殆ど全てのソーシャルゲームにおいて運営から隔日で配られたり確実に配布されたりするアイテム。

 通常のガチャは俗にいう『石』を規定数消費して回すのに対し、ガチャチケットというものは有料アイテムの多寡を問わず、所持数だけキャラクターを得ることが出来るのだ。それも無料で。

 無料で手に入るキャラクターが最強クラスのキャラならば大儲け。

 そうでなくとも場面によっては適正となり得るキャラならば考えもの。

 一言にいって、とても美味しいアイテムなのである。

 と。そんな説明を刃連町から受けた戊亥沢は曖昧に頷いた。

「えっと。これがあれば何かが無料で貰えるってことね」

 なんて、一応は理解した風を装う戊亥沢。こればかりは実際に消費──使用してみなければ仕様も理解できないというものだろう。

 クラスメイト全員が手に手に安っぽい紙切れを握りしめる姿は、中々にシュールな光景ではあるけれど。このチケットが異世界を生き抜く助けとなるのであれば文句も浮かばない。

「はい……それじゃあ……みなさん、お待ちかねの防具ガチャの時間です……。好きに並んでください……」

 地面に座り込んだイルロラが力なく召集をかける。

 ? どうかしたのだろうか。明らかに──あからさまに先ほどとは打って変わって脱力した様子である。まるで力を使い果たしたスポーツ選手のような──。

 見るからにぐったりと草臥(くたび)れた神様の容態を、彼ら高校生が診てあげることは出来ないけれど。声をかけるくらいならば、誰だってできる。

「イルロラちゃん、大丈夫?」

「大丈夫……ですよ。短時間で力をたくさん使ったので疲れただけです……」

 そうか、と戊亥沢は得心する。

 イルロラの説明にもあった通り、力とは彼女の『イミカ石』とやらを指す言葉である。イミカ石は彼女の命や魔力とイコールであるのだから──使い減りすれば、それだけ彼女の命が削られることと同義である。

 この場合、彼女は三十五人の人間に『能力』と『防具(貰ったのはチケットだけれど、実質的には防具と換言してよかろう)』を与えた。恐らく楽な行為ではなかったことだろう。

 そこまで尽くせば──魔力を尽くせば、立っていられなくなったって不思議はあるまい。

 が。流石は神というべきか。

「でも……安心してください……っ! まだわたしは大丈夫ですから……!!」

 イルロラは立ち上がる。もはや、立つことすらままならないといった様子ではあるものの、細い肢体を震わせながら少女は無理やり起立した。

 まるで瀕死の勇者が仲間のため立ち上がるかのような勇ましさが──神々しさが、そこにはあった。

 そんな姿を受け、戊亥沢は改めて事態の重さを再認識する。四人の神が君臨したこの世界が如何に危険なものなのか、ということを。

 よく考えてみれば、神ないし指導者が複数存在するという事態はかなり異常でいて──常に内部破裂の危険を孕んでいるのだから。暗殺では済まない表向きの戦い──それこそ戦争すら起こりかねない。

 その神々の戦いに喚ばれたのが我々であるということを、改めて再認識すべきなのだ。

「……それじゃあ、衣装ガチャとやらを引かせてもらっていいかなー」

 無情にも、空気を読まずにそんな言葉を宣ったのは出席番号20番、十河 百瀬である。

 気を悪くして欲しくはないが、十河はとてもせっかちな女子で。課題やら提出物は初日に出してしまうような少女なのである(そういえば現社のノートを刃連町と刀投塚を除いて、初めに持ってきたのは彼女だった)。

 だから、十河という人間を知らないイルロラが気を悪くしてしまうのではないかと一抹の不安が否めなかったけれど豈図らんや。

「そうですね……さ、チケットを拝見します……」

 早くしなくては。そんな意思を感じさせる口調でイルロラは震える手を差し出すのであった。

 もはやフィジカルだとかの問題ではない。イルロラは強固なメンタルをも併せ持っているらしかった。神は伊達ではない。

 十河が手渡したチケットがイルロラの手に触れる。すると程なくして紙片は水色の炎を上げて発火し、眩い黄色の炎に色を変えて燃え上がった。

 そしてマジックの小道具に用いられるフラッシュペーパーのように煙も──灰も、何一つ残さず燃え去ったチケットは質量を。形状を無視して全く別の物質へと変貌を遂げていたのだ。

 鎧。

 それは鎧を詳しく知らない戊亥沢やクラスメイトであれど思わず息を飲んでしまうようなプレートアーマーで。上下一式全てが艶消しの黒で優雅に彩どられた西洋風の鎧であった。

 がしゃん、と鈍い音を立ててイルロラの細腕から鎧が零れ落ちる。

「あ……おめでとうございます……。これはレア装備ですね」

 地面に転がった中身のない鎧を指先でなぞるイルロラは、一応祝いの言葉を並べて受け取るように促す──どれほどの重量かは分からないけれど、今の状態で持ち上げられる物ではなかったらしい。

「レア装備……。まあ、ありがと。早速着てみたいんだけど、これって服の上からでも着られるの?」

 と、学校指定のセーラー服を指差す十河にイルロラは頷く──肯く。

「はい、問題なく着ることができます……というか、服の上から着用する事を前提にしていますから……」

 イルロラは次の利用者を無作為に招きつつ、やや忠告じみた口調で告げる。その態度は軽いものではあったけれど、伝えておかねばならないというそこはかとない警告が込められているようにも感じられた。

「この装備は……言わば、オーダーメイドです。どんな装備が出たとしても誰かと交換したり……捨てたりしないでくださいね……? 所有者にしか装備できないですから……」

 斯くして本日二度目の行列(参拝?)に参加した戊亥沢一行であったけれど、男子生徒に魔法少女風コスチュームが配られたり、イブニングドレスの様な装備が与えられたり。

 はたまた女子生徒に燕尾服風なスーツが付与されたりした事については、また別の話である。

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