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第20話:安堵?

 ナダイナ公国への入国審査は思いの外手早く、簡素に執り行われ『チーム:ドッグ』の入国は殆ど二つ返事的に了承された。立会いの衛兵曰く、

「ナダイナには日々多くの旅人がやってくるから」

 との事だったが。しかしそんな理由で審査を甘くするというのも妙な話というものだろう。

 治安の維持に絶対の自信を置いているのか。

 旅人の良心に多大な信頼を寄せているのか。

 しかし戌亥沢は直後に後者の可能性を取り消した。恐らくは前者だろう、と。ここまで巨大に発展した国が性善説に倣って旅人やら他国の人間を無差別に入国させるはずがないのだ。

 もしも、敵国のスパイでも侵入させようものならば国力の衰退は言うまでもなく、必ず亡国の憂き目を見ることになる事は必至。

 だからきっと。この国は治安が良く、多くの旅人や行商人にとって居心地の良い場所に違いない。

「はい、ご記入いただいた書類は我々が出国まで責任を持って預からせていただきます。……お待たせして申し訳ありませんでした、ただ今開門致します」

 言下、対応に当たる衛兵が右手で妙なハンドジェスチャーを作った。それは『スタンハンセン』の名で知られるポーズで。

 彼はその突き立てた小指を口元に。同じく伸ばした親指を耳に当て、独り言を呟くような声音で喋り始めた。

「7人です。……はい、開門願います」

「……?」

 その奇妙な行動を不思議そうに見つめていた投刀塚の前に聳え立つ大きな扉が、不意に大きな呻き声を上げる。

 まるで近くに雷でも落ちたかの様な耳を劈く程の轟音と、地崩れの様な地響き、そして軽い地震が断続的に発生し、驚いた顔を正面に向けている投刀塚と他六人の目前で、ゆっくりと巨大な城門は口を開けた。

 そこで目にした光景はというと。

「さぁ、どうぞ。早く閉めなければならないんです」

 衛兵の性急な指示さえも耳には届かない程、7人の少年少女らは唖然と城壁内の──公国内の景色に目を奪われていた。

 特に衝撃を受けたのは戌亥沢である。いいや、衝撃というよりかは最早それはダメージにさえなり得る程の衝動であった。

 戌亥沢は普段からファンタジーモノのゲームを好んでプレイするし、RPGに限らずアクション、ADVなんかも選り好みせずプレイする生粋のゲーマーである。

 しかし、こんな街は今までプレイしてきたゲームには存在しなかった。

 例えば『魔法や剣、モンスターが存在するゲーム内の街』と聞いて、どんな情景を思い描くだろうか?

 やはり長閑な田舎町ないし、煉瓦造の家々。中世イギリスの様な瀟洒(しょうしゃ)な風景を思い描く事だろう。実際、ナダイナ公国内にはイギリス建築に準じたかの様な美しい建物が()()()()()

 だが、大多数を占める建物がよもや

「び、ビル……? なんなんだ……?!?」

 明らかに()()()()()()()()()()()()()()()()()()であろうとは。

『ルヴァルド商事』、『イメリエ雑貨店』、『■■■■■(ルトリフア語。解読不可)』、『ヴォルスェア装身具商』、『リ・ジョルグ魔導書店』……まだまだある、が。

 あまりにも数が多く、その全てを読み取る事はできそうに無い。それ程までに夥しい数のビルと瀟洒な建物が混在した奇妙な街は、戌亥沢に混沌属性付きの精神的大ダメージを与えた。

 和洋折衷を極端にすれば、きっとこんな街が生まれるに違いないであろう。東京の街並みにイギリス建築を混ぜたかのような一種の冒涜さえ感じる建築学を目前に。

「早くして下さい! 閉門しますよ!?」

 衛兵の焦れた様な──憮然とした様な口調に急かされて、おどおどと入国を済ませる『チーム:ドッグ』なのであった。

「なんか思ってたのと……ちょっと違うかも、だね……?」

「いや、投刀塚……ちょっとどころかコレは……良くも悪くも想像以上だろ」

 戌亥沢は空を見上げる。否、正確には天を刺す様にどこまでも高く伸びているビルディングを見上げて、そんな言葉を漏らす。

 城壁とビルディングに挟まれ、呆然と辺りを見渡す7人であったが、不意に犬鳴が気付けを兼ねた様な号令を掛けた。ぱんぱんっ、と良く響く柏手を打ち、全員の意識を自分の言葉に向けさせる。

「ひとまず、みんな。ご苦労だったな。なんとか入国も済ませた事だ、ここはひとつ休憩と情報収集を兼ねた観光といこうじゃないか」

 鷹揚にチーム全員の苦労を労った犬鳴は、そんな提案を提出した。まだ昼になったばかりだし、休憩なんて要らない──そう言えるメンバーは一人たりとも居ないだろう。

 昨日の昼から(正確にはルトリフアに召喚されてから)、我々は常に命の危険と隣り合わせの時間を過ごしてきたのだ。城壁内という安全な場所で過ごせるということが如何に魅力的な事であるかは議論を挟む余地すらないだろう。

「そうだな。俺も大分疲れたし、骨休めしてーかな」

「ボクも休憩したい……リラックスできる場所で……」

「僕もちょっと知りたいことがあるし……いいんじゃないかな……」

 休憩ないし、治療が必須な戌亥沢を除いた男子組はそれぞれ犬鳴の提案を快諾し。

「あたしも賛成。いぬいぬの治療してあげないと放っといたら死んじゃうかも」

「私は……その、みんなに賛成……」

 と、結果的に全員の意見は一致した。この街──この国でのTo doリストは観光、治療、情報収集に絞られた形である。

 そしてリストに『情報収集』が名を連ねているとなると、またもやチームを分散させるのは必然であり。

 合計18個の『ちっこい欠片』を各チーム6個ずつ持参した、計3チーム。戌亥沢と小瀧原、犬鳴と外内、投刀塚と刃連町と一番合戦の3組は『日が暮れたら城門前に集合』という約束の元に広大なナダイナ公国に散っていくのであった。

 だから。ここから先は、ほんの少しだけチームリーダー戌亥沢と保健委員、小瀧原の物語となる。

「……そういうわけだから、病院的なの探そっか、いぬいぬ」

 入国前、戌亥沢の体調を気にかけていた小瀧原は進んで戌亥沢とのペアリングを希望した。彼女の矜持というか、所属委員会や性格から怪我人は看過できない性分なのかもしれない。

「……うー。ゲームなら宿屋でもいいんだけどなぁ……」

「え。なにそれ、セクハラ? 真昼間からホテル?」

 ……通じなかった。メタな話、宿屋に寝泊まりしただけで瀕死の重傷から快復できるのは例えゲームだとしても無理があろう。それを言ってはお終いだろうが……。

「ゲームなら、だよ。ゲームで寝泊まりしたら大抵は全回復するからさ。……小瀧原はゲームとかしないの?」

 しっかりと誤解を解いてから会話に臨む戌亥沢。品性が最低な奴という印象だけは与えたくない。

 いや……品性も何も、犬鳴との騒動の一件でロリコン疑惑がチーム内に流布しているのだが……これ以上心象を悪くする訳にはいかない。

「うーん……ゲームかー……プリパラとかニンテンドッグスとかなら」

「ああ、いいね。可愛いし癒されるもんな」

「うえ……いぬいぬ、プリパラ好きなの……? うん、そうだよね。好きそうだもん、『女児向け』」

「違う! ニンテンドッグスの方!」

 思い切り誤解されていた。誤解も甚だしい曲解である。氷点下よりも冷たいジト目で、少し距離を空けて歩く小瀧原に釈明を行う戌亥沢。因みに名前にこそ犬と入っている戌亥沢ではあるが、彼は猫派である。

 名は体を表さない。

 よって彼のお気に入りはニンテンドッグス+キャッツであるという事を付記しておこう。無論、彼を誤解している小瀧原にとってそんな事は些細な差異でしかないのだが。

 そんな心が傷むのか胸が痛むのか、なんだか釈然としなくなってきた戌亥沢の前に、ふと助け舟が現れる。

 気まずい空気を多少なりとも変えてくれる、救いの神が現れた。

「あ、見てよいぬいぬ。あれってイルロラちゃんの……」

「あ、ああ……女神像だな……」

 そういえばイルロラはナダイナ公国内にも女神像があると言っていた。これは有難い。

 いや、本当に有難い。

 ビルディング群の隙間を縫うようにして伸びている路地裏、その延長線上に作られた空き地の中には(空き地というよりかは、憩いの場として設けられた公園の様にも見える)やはり新品の像の様に純白に輝く女神像が佇んでいた。

 そして像の前には一人、箒を両手に清掃を行う壮年の男性の姿も。城門前で警備を勤めていた衛兵を除けば、彼が第一村人である。

 いい機会だ。何か話せたり、情報を貰えたりしないものだろうか。

 早速、というか穏やかな笑みを浮かべた小瀧原は男性へとフレンドリーな雰囲気を醸し出して挨拶した。人懐っこそうな彼女の笑顔は大抵の人間の警戒心を和らげる効果があるだろう。

「こんにちは! ちょっといいですか?」

 だから、情報を引き出したり誰かと交渉するならばベストスタッフな彼女ではあるのだが、果たして不審げな表情を見せる男性の反応は思いのほか冷たいものであった。

「駄目だ。何も話せない。話すこともないんだ……放っておいてくれ」

 反応こそ冷たいものであったが、そんな日本語での対応に戌亥沢は僅かながら安堵する。しかし、そこまでにべもなく拒否しなくとも……。

「そんな……あ、いえ! ごめんなさい、お掃除頑張ってくださいね!」

 一瞬だけ落胆した小瀧原ではあったが、すぐさま気を持ち直し笑顔のまま男性を労う。そして、壮年の男性に背を向けた──戌亥沢に顔を向けた小瀧原は、小声で戌亥沢に囁いたのであった。

「この国、好きになれないかも……」

冒頭の店の名前はSkyrimのドヴァーキンから取ってます。どの種族の名前かそれぞれ推理してみてください

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