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第19話:入国

 振り返ってみれば今回のエンカウントにおける失敗点や反省点は存外多いものであった。しかし、戌亥沢はそれらを良しとする事に決めた。

 失敗から得られる経験値は、成功から得られるものよりも格段に多いのだ。況してや、痛みを伴って覚えた事ともなると殊に忘れがたい。

 よって、今回の隠兎との戦闘は戦術的勝利・戦略的敗北ということとなる。

 しかし戦略的には敗北を喫したものの、『チーム:ドッグ』は誰一人欠ける事無く戦闘を終わらせられたのだ。それで十全としようではないか。

 加えて隠兎らから合計で8()()の『ちっこい欠片』もせしめたのだ。苦痛による精神的・肉体的ダメージを勘定に入れたとしても充分にお釣りももらえたと言えよう。

「ぐふっ……」

 定期的に込み上げる胸の疼痛と鈍痛に耐え切れず、戌亥沢は呻き声を漏らす。異能兎の頭突きを一撃受けただけ(正確には二撃であるが、二回目の頭突きはノーカンとする)にも関わらず、やたらと打撲箇所が痛む。

「いぬいぬ……なんか呼吸おかしくない? 肋骨折れちゃってるんじゃないの……?」

 そんな虫の息の戌亥沢を案じる小瀧原の恐ろしい所見を他所に、漸く『チーム:ドッグ』の物語は先へと進む。いや、進めざるを得ない。

 たとえ肋骨が折れていようが気骨は折れない、といえば如何にも戌亥沢に根性があるように聞こえるかもしれないが、何せどこまで歩けど携帯電話は圏外なのである。呼べる救急車があれば、すぐにでもレスキューに急行してもらいたいのだが……助けは期待できそうにない。

 或いはルトリフアにも携帯電話的なものがあったりするのだろうか? 電報くらいならばありそうなものだが、如何せんこの世界の技術レベルを推定する材料が今のところ目前に迫る巨大な石造りの壁しかない。

 石造りの壁──つまり、城壁である。

「やーっと着いた……所要時間は20時間弱です。お疲れ様でした……」

 と機械音声の案内に似せた声で外内が到着を告げる。見ればその肩は疲れからかがっくりと力なく垂れ下がっていて。

 旅の疲れが体全体に表れているようであった。

「うん、やっと到着……でも、わたし達入れてもらえるかな……?」

「怪我人がいるのに門前払いということはなかろう。もしそうなったら断固抗議するぞ」

 気弱な意見を述べる投刀塚を励ますためか、本当に文句を言うつもりなのか、凛とした態度で振舞う犬鳴。

 言いたい事はきちんと。しかもはっきり物怖じせず伝える犬鳴の事だ、きっと彼女の弁舌にかかればどんな番兵も門を開けざるを得ない事だろう。

 きっと。

 しかし、瀕死──とまでは言わずともそこそこに死にかけの戌亥沢には自分の生命危機の他に僅かながら入国に当たっての懸念材料があった。

 例えば戌亥沢の大好きなゲームジャンルであるRPGでは、ゲーム内共通語とは別に解読、もしくは他言語に関する知識を習得していないと理解できない会話が存在するケースがあるのだ。

 スカイリムのドラゴン語やらFFX-IIのアルベド語なんかがメジャーだろう。

 戌亥沢らの知る世界でさえ幾つもの言語が存在するというのに、ルトリフア語──ナダイナ語が必須だとすれば最早詰みである。

 手振り身振りのボディーランゲージで入国の意図を伝える他あるまい。

「あー……えっと、喧嘩だけはやめような……? 入国拒否なんてされたら死ぬしかねぇ……」

 最悪のケースだけは避けようと、一応は釘を刺す戌亥沢であった。なあに、相手も人間 (のはず)。

 話せば分かる、とはよく言ったものである。

 斯くして城壁の周りを沿うように歩く少年少女らであったが、城門の発見に十分弱も費やすとは思いもしなかった。

 それだけ大規模な国ということなのであろう。これは都市の発展段階に期待大である。

 そして無論、というかお決まりというか。詰所に立つ鎧を着込んだ番兵が我々の存在に気が付き、警戒を始める所まではむしろ想像の範囲内であった。

 が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「…………」

 恐らくはハチミツ酒でも呑んでいたのであろう、強張った顔つきの若い男はジョッキを机に置いて、代わりに随分と丈の長い両刃の剣を手に詰所から姿を現した。

 無言のプレッシャーと白刃の煌めきが【チーム:ドッグ】に緊張を与えた事は言うまでもなかろう。

 いや、緊張というのであればそちらは向こうも同じだろうか。まだまだ若いとはいえ、メイド服を着た男やら和風の装束を着た少女が冒険者風な負傷者を連れてやって来たのだから。

 その珍妙さは充分警戒に値するものだろう。

 他人の家を訪ねる時に道化師の格好をするようなものだ。

 やがて剣先を地面に向けた番兵は、七人の少年少女らに訝しむ様な声音で語りかけたのであった。

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎?」

「ああ……思った通りだった……」

 戌亥沢は落胆した様に頭を垂れ、がくりと崩れ落ちる。言葉が通じないなんて、考えてみれば分かる事だったであろう。

 イルロラが『翻訳こんにゃく』的な力を皆に授けてくれていたりしないだろうか、と勝手に期待していたが希望的観測は物の見事に打ち砕かれてしまった。

 そう思った矢先、恐らくは誰何(すいか)をしたであろう番兵は緊張した顔つきはそのままにこう続けたのである。

()()()()()()()()()()()()()?」

 と。

 咄嗟に戌亥沢は顔を上げた。他のメンバーも信じられないといった表情で唖然と番兵の男を見つめた事は言うまでもない。

 なんと、異世界の住人が()()()()()()()()()()()()()

 暫くは言葉を失い呆然とする一同であったが、最も素早く思考を切り替えたのはお馴染み、犬鳴大先輩であった。

「ああ……ああ。そうです、私達は異世界から来た旅人です」

 やはり驚きを隠せないといった具合ではあったが、犬鳴はきちんと質疑に応答した。誠意を持って返答した。

 よほど我々は間の抜けた──気の抜けた表情を浮かべているのだろう。番兵は小さく苦笑を浮かべて抜身の剣を鞘へと収める。

「やはり旅人の方々でしたか。ようこそナダイナ公国へ。入国希望ですか?」

「……はい。怪我人の治療と物資の補給、観光を兼ねて入国したいのですが」

「承知しました。それでは入国審査を行いますので此方へ」

 流暢で淀みのない日本語での会話に、振り向いた犬鳴の顔には喜びと好奇心と疑問の感情が浮かび上がっていた。意外以外に言葉が見つからない。

 何故ナダイナ公国の番兵が日本語を解するのか。言葉が通じる喜び以上に疑問の方が強い。

 が、ひとまずは。

「戌亥沢くん、立てるか? 早く入国審査とやらを済ませてしまおう」

 入国の為の審査を終えてから、疑問の答えを見つけ出そう。

アズレンCW買いました?

僕は買いました。が、冷たい言い方をすると『キャラゲー』でしかなかった様に感じられます。


でも雪風様を360度眺められるのは美味しい

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